第25回 初めてのもんじゃ焼き


 

 

東京発祥のもんじゃ焼き。
ヤフーの知恵袋で「もんじゃ焼き」を調べてみたら、こんな質問が目立った。

「今まで生きてて、もんじゃ焼きを食べたことありますか」

「もんじゃ焼きって美味しいんですか」

「もんじゃ焼きの魅力を教えてください」

もんじゃ焼きという食べ物が美味しいものか……半信半疑な人は結構多かった。
かくいうあたしも「もんじゃ焼き」を食べたことがないし、果たしてそれがどんな味なのか、どうやって作るのか、どうやって食べたらいいのか、お好み焼きみたいに最後にソースをかけるのか、マヨネーズはかけるのか、そもそもいったい何でできているのか……さっぱり分からない。
関東ではメジャーな食べ物なのだろうが、大阪で生まれ大阪で育ったあたしにはまったく馴染みのない料理なのだ。

東京に来たからには一度は食べないと!と思っていた八月某日、東京人である友人のSさんから「今晩、もんじゃ食べに行こー!」とお誘いがあった。
その日は朝からずっと小説を書いていて、でも全然うまくいってなくて、正直ちょっぴし凹み気味で……はっきり言うと、こんな落ち込んでいる時に食べたことのない未知なる料理にチャレンジする気分ではなかったけど、これを逃したら一生食べる機会もないかもしれないと思い、行くことにした。

もんじゃ焼きと言えば月島らしい。月島は築地をもうちょっと東に行ったあたりで、あたしが住む高円寺の駅から電車で40分の距離だ。その日は朝に食パン食べただけだったので、お腹はペコペコ……。空腹で意識が飛びそうになりながら電車を乗り継いで待ち合わせ場所に向かう。

友人Sと合流したあたしは、月島の駅を出てすぐのところにある「もんじゃストリート」に向かう。商店街のような通りに所狭しと軒を連ねるお店は全部もんじゃ焼き屋さん。右も左ももんじゃしかなくて、フードテーマパークのような雰囲気だ。

Sさんのおススメだという「おしお」に入店。
賑やかな店内は8割ほどお客さんで埋まっていて、各テーブルごとに鉄板を囲み、わいわい楽しそうな雰囲気。しかしみんなが笑顔でつついている鉄板には……あの、べちょーっとした液体。

食欲、
半減。

お腹減ってたんだけどなぁ、不思議だなー。
下品な話、ゲ●焼きとか呼ばれてしまうもんじゃ焼き……やっぱり美味しそうに思えない。でもみんなビール片手に美味しそうにもんじゃを口に運んでいる。

さて、ここまで来たら引き返すこともできないので、もんじゃ焼きを頼むことに。メニューを広げ、とりあえず「おススメ」と書いてあったやつを注文してみた。
海鮮スペシャル1350円。明太子もちチーズ1250円。

むむう……思ったより高いぞ?

東京の子供たちは駄菓子屋で100円くらいのもんじゃ焼きをおやつ代わりに食べるとか言うのを聞いたことがあったのでもっと安価なものかと思っていた。さすがにココは大人の飲み屋だけど、まぁせいぜい大人価格で700円くらいのモノなのかと思っていた。

しばらくして、店員のお兄さんが注文品を運んできてくれる。お椀にてんこ盛のキャベツと具が、ドーン!
そうそう、そうなんだよな……。これが東京スタイル。
大阪のお好み焼き屋は注文したら焼き上がったやつが出てくるけど、東京は自分で焼かないといけない、と聞いたことある。
噂は真実だったようで、もんじゃももちろん自分で焼かないといけないらしい。(頼めば店員さんがやってくれるらしいけど)

作り方の分からないあたしはすべてをSさんに任せ、「海鮮スペシャル」のもんじゃ焼きの調理方法を観察する。大きめに切られたキャベツ投入後、調理用のへら(大)でキャベツを細かく刻む。鉄板から上がる湯気に額の汗をぬぐいながらキャベツを刻むSさん。ふと調理場の方を見ると、ホール担当の店員さんが三人ほど、暇なのかぼーっと突っ立って待機している。

……もんじゃ屋、なんだかあこぎな商売だ。
1350円もするのに、焼いてくれないしキャベツも細かく切ってくれてないし……。
これで商売が成り立つと思うなよー……。

そんな不満を募らせている間に、あたしの前の鉄板には、いわゆる土手みたいなものが築き上げられ、その中央に液体が投入され……気づけばぐっちょんぐっちょんのもんじゃ焼きが出来あがっていた。

つ、ついに……あたしが人生初のもんじゃ焼きを食べる瞬間がやってきた。
匂いは、たこ焼きとかお好み焼きと似てるけど……いったいどんな味?
ごくり……。

食べてみる。

あたし「…………。」
Sさん「美味しい?」
あたし「美味しいのかな?まずくはない。よく分からん」
Sさん「そんなもんだよー」

えっ!?……そんなもんなのか!?

「東京の人だって、めちゃくちゃもんじゃ食べたいーって来てる人は少ないよ。みんな『え、食べたことないの、じゃあ行く?』って感じだよ」
「……そんなもんなのですね」
どうやらあたしは不思議な文化食を食べているようだ。

小さなヘラでひたすらチビチビともんじゃを口に運んでいると、意外なことを発見した。
「コゲ」が美味い。
焼肉を焼いてる時だったらうっとおしいこの鉄板のコゲ。悔しいけど、この鉄板にこびり付いたおコゲをガリガリと剥がして食べるのが……んまい!ってか、ヘラで押さえつけてコゲを作るのがもんじゃの常識のようだ。
この鉄板、毎回ちゃんと綺麗に洗われているのかな……なんて心の片隅で思いながら、コゲを口に運ぶ。ねちゃっと香ばしい、初めての感じにちょっぴり病みつきになり、あたしはエビ、ホタテ、牡蠣などの豪華な海鮮に目もくれず、ひたすらコゲを食べ続けた。

「海鮮スペシャル」を平らげ、次は「明太もちチーズ」を焼くことになった。もんじゃ焼きを作ったという経歴が欲しかったあたしは自分から立候補して、見よう見まねで焼いてみる。Sさんがやっていたように、キャベツを刻み、炒め……熱い鉄板の上で汗だくになってもんじゃを焼く。
「初めてにしては上手じゃん」
最近、小説の執筆がスランプ中でうまくいっておらず、褒められるのが久しぶりなあたし。「初めてにしては上手いじゃん」という言葉が嬉しく、何度も反芻して、ああ今日はもんじゃに来てよかったなぁ、と痛感した。

土手を作って、チーズとか餅とか入れて、最後はぐちゃーって混ぜて。そしたら何となく、ひし形になったので北海道の形に整えてみた。
「なかなかのセンスだね」と言われ調子にのったあたしは、次はオーストラリアの形にでもしようと思ったけど、形が思い浮かばずに断念。
苦労の末に出来上がったもんじゃはなかなかのお味。チーズが鉄板にこびり付きやすいので、あたしはまたひたすらおコゲを剥がしまくって食べた。

最後のデザートに「あんこ巻き」というものを食べ、もんじゃ屋を出る。

静かになった商店街を歩く、
海に近いだけあって、潮のにおいがほのかに香る。
真っ黒な夜空に浮かぶ、満月が綺麗……。

――お父さん、お母さん、あたしもんじゃが焼けるようになったよ。

もんじゃを焼けたことで、東京で生きていく自信がちょっぴり沸いてきた。
頑張れあたし、またね、もんじゃ。

第24回 ここが変だよ、東京人


 

 

うちのマンションに遊びに来た、大阪の友人が「東京の人って冷たいよなー」とボヤいていた。

 

新宿駅でどの電車に乗ればいいのか分からず、改札の横にいる駅員さんに聞いたらしい。

「高円寺に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」

すると「11番線です」と即答され、素っ気なくてなんだかなーと思ったそうだ。

 

ええ、どこが冷たいの?普通でしょ?

と東京人には言われそうだが、チッチッチッ。

東京の駅員さんは淡々と業務をこなす印象だが、大阪の駅員さんは、めちゃめちゃハートフルでサービス満点、そして面白い人が多いのだ。

 

3年前の話をしよう。

友達とユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行く約束をしていたあたしは、大阪の天王寺駅で電光案内板を見ながら、どの電車に乗れば「ユニバーサルシティ駅」に早く着くのかを検討していた。聞いた方が早いわ、と思って改札の横の駅員さんのところに向かった。

「ユニバーサルシティ駅に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」

すると駅員さん、黙ったまま腕時計に目を落とす。

「…………。」

そして目線を上げた駅員さんは、真剣な表情であたしに言った

 

「……足に自信はありますか?」

 

唐突な質問。なんのことか分からず、あたしはきょとんと駅員さんを見た。

「……え?」

 

「足に、自信、ありますか?」

 

同じ質問をされる。

足には自信があるので「はい」と答えると、その駅員さんは目をカッと見開き、やや声を張りこう言った。

 

「18番線っ!26分発っ!」

 

ズバッと決めゼリフを言うかのように、言葉を放つ駅員さん。あたしは慌てて携帯で時刻を確認。現在時刻12時25分……。ひえ、あと1分?!駆け込み乗車しないと間に合わない。ってか駅員さんに、走って乗ることを勧められてるってどうなん?とか思いつつ、あたしはやや離れた位置にある18番線に向かってダッシュした。

走りながら、背後で「西九条で乗り換えてくださいね~」と叫ぶ駅員さんの声が聞こえた。

(結局走るほどでもなく、余裕で電車に乗れたけど)

これ、100%実話ですよ。

 

このユーモラスでハートフルな駅員さん比べると、東京の駅員さんはやっぱり冷たいよな~って思う。「11番線です」だけやもんね。

……って言うか、大阪が異常?

ちょっと慣れ慣れしすぎ、オモロすぎなのかもしれない。

 

 

ただ、これは駅員さんに限った話ではない。東京人すべてに当てはまると思う。

 

東京人に来て学んだこと、それは

〝初対面の人には、距離をとられる〟ということ。

別に人見知りされるというわけではない。きちんと目を見て話してくれるし、ものすごく友好的な人もいる。でもなんか距離を感じてしまう。こちらが本音爆裂トークをしたとしても、東京人は当たり障りないことしか聞いてこないし、本音を言ってこない。「誰だコイツ」と言う感じで、探り探り話をされてる気がするのだ。

 

なんで距離を取られるのか……理由は明確だ。

実は東京人ってのは、地方出身の集まりだからだ。

このエッセイの中では「東京人」という言葉を面白がってよく使っているが、東京生まれの東京で育ちという江戸っ子さんって実際はなかなか会わない。みんな他県から上京してきたひとばっかり。つまりみんながみんなアウェイ。探り探りなのも仕方がない。

 

大阪の場合は逆で、大阪に住んでる人の8~9割は関西出身者だ。

みんなのホームである大阪では、そりゃ気は遣わない。どーせみんな関西の人なんだからと、初対面から慣れ慣れしく、時には厚かましい。駅員さんが急に「足に自信ありますか」とか質問してきても、全然おかしくない。

 

 

東京には東北出身者が沢山住んでいる。

当たり前じゃん!とツッコまれそうだが、実はあたし東京に住むまで東北の人と話したことが無かった。実は大阪には、東北出身者がいない。近くに東京があるから、わざわざ大阪に出てこないのだろう。

 

「福島出身なんです」「以前仙台に住んでて」とか言われるとどーしよーと困ってしまう。

だって話が続かない!

行ったこともない、地名も分からない、名産品も分からない!

かろうじて言えるのは「地震大変でしたね……」くらい。でもそれも、関西出身・被害なしのあたしが軽々しく口にしていいのか分からないし、根掘り葉掘り聞いて嫌な思いをされたらどうしよう、と変に気を使ってしまうので話しにくい。

 

こないだ職場の人が仙台に出張に行ってきたらしく、仙台名物「笹かまぼこ」をもらった。

実は「ささかま」と初ご対面なあたし。大阪人はなかなか東北地方に旅行に行かないので、仙台名物をもらう機会もなかったのだ。

さて。「ささかま」困った……。

これは……いったい、どういう感じで食べたらいいんだろう。

「おやつ」なの?「おかず」なの?はたまた「つまみ」なの?

お茶のお供?ご飯を用意?はたまたビール?

わからん……。

 

周りを見渡すと、みんなパソコン仕事をしながら、「ささかま」片手にむしゃむしゃ食べている。

ほう、なるほど。よく分からんが「間食」なのだな、と理解したあたしは、皆に倣ってパソコンに向きあって食べた。

 

 

東京人の変なところ。

電車で30分を「遠い」というところ。

……どーゆーこと?

 

電車で1時間の場所だと「えー、めちゃくちゃ遠いじゃん!」

電車で2時間ともなれば、それはもう「プチ旅行」。……らしい。

 

 

30分で遠いって……ねぇ。

あたしは大阪在住の頃、片道1時間かけて通学・通勤していた。

そんなのに比べたら30分なんて、どこでもドアなみの便利さだ。

 

東京は都市がギュギュと凝縮されているので、たしかに移動時間は短いなと感じる。新宿から池袋までは電車で5分。渋谷までは7分。東京までは13分だ。

よほどの場所に行かない限り、目的地が「遠いなー」と思うことはない。

 

 

ついでの話だが、東京人はすぐにタクシーに乗る。

あたしはタクシーに気軽に乗れる身分ではないので、寝坊して大遅刻をしてしまった時とか、終電に間に合わなかったときなど、ピンチの時の最終手段にしか利用しかしたことがない。

東京人はセレブが多いから、タクシーに気軽に乗れちゃうと言えばそうなのかもしれない。

でも、やっぱり都市がギュっと凝縮されているので、電車に乗るよりはタクシーに乗った方が早いってのが理由のひとつだと思う。

 

なので、東京人はタクシー換算が早い。

「こっからだと2メーターくらいじゃない?」

「3人で乗って割ったら一人○○円だし、電車に乗るのと変わんなくね?」

あたしなんて初乗りがいくらなのかも、いまだに知らないのに……。

 

 

「ここが変だよ、東京人」

……とかちょっと大袈裟なタイトル付けちゃったけど、東京の皆様、お気を悪くされないでください。

あたしは東京人っぽく振るまえるように、違和感なく溶け込むために、日夜必死でございます。もう「ささかま」くらいで動揺したくない!

第23回 ウワサ通りの黒いそば


 

 

関東と関西では、うどん&そばの汁の濃さが違う。というのは有名な話。

あたしは生まれも育ちも大阪なので、うどん&そばといえば透き通ってる汁が思い浮かぶ。
うどんの塗り絵と色鉛筆を渡されたら(どんなシチュエーションだ)、汁の部分はベージュを薄ーく塗るだろう。
関東の人たちは何色を塗るの。茶色?まさか黒?

東京人は知らないだろうが、関西人はみんな、あの「黒いそば」のことを「食えたもんじゃない」「ありえん」「醤油地獄」と大批判している。
じゃあ関東の人は関西風の色の薄いうどん・そばのことをどう思ってるのか聞いてみた。否定的な意見が飛ぶのかと思えば、みんな口揃えて「だしが効いててめちゃくちゃ美味しい」と大絶賛してくれる。
そう、意見は一致しているのだ。関西風の方が美味しいと。
「じゃあ、関西風ばっかり食べたらいいやん!」そう東京人に意見してみたが、返ってくる言葉はみな一様にこれだった。

「黒いのに慣れてるから……」

……ええ、慣習で黒そばを食べ続けている東京人!!
美味しいと思うものを食べたらいいと思いますケド!!
みんな目を覚まして!!

と、まぁ、それはおいといて……
東京に来たからには、一回くらいは「黒いそば」を体験しないと……と思っていた。食べたこともないのに、批判するのはどうかと思うし。
でも蕎麦屋って牛丼屋と一緒で、女子一人ではなかなか入りにくい空気がある。じゃあ家で作るか、となるとやはりそれは慣れ親しんだ関西風になるわけで……。

そんな時、チャンスがやってきた。
東京に来て1カ月ほど経ったころ、バイト先の上司から「昼メシでも食い行くか」と誘われる。ちなみにこの上司は、うちの父くらいの年齢で生粋の江戸っ子。「てやんでぃ」と言ってても違和感ない人だ。
わーいわーいと呑気について行くと、先を歩く上司が入った店には「そば・うどん」と書いてあった。

ごくり……
ついにこの日が来たか……。
構えるあたし。

壁に貼ってあるお品書きには丼物もあるが(正直お米が食べたい気分ではあったが)ここはやっぱり「黒いそば」の洗礼を受けるしかない。もしかしたら上司も洗礼のために、あえて蕎麦屋に連れてきたのかもしれないし。
ということで、「きつねそば」をオーダー。運ばれてきたソレを覗き込んだ……。

……うーん、真っ黒。

テレビや写真で見たやつといっしょだが、目の前にあるというのが感慨深い。
黒々と濁った汁、すっぱそうな匂い……なんか食欲が減退していく。とはいえ、ここまで来たら腹くくって食べるしかない。上司もうまそうに食ってるし。

よしゃ、いただきます。
ずるずるずる。
……うーん。

初めて食べるそれは……
……なんというか「醤油」だった。
関西のそばがアルカリ性だったとすれば、関東のそばは酸性な感じがる。あ、分かりづらいですかこの表現。

「どう?ダメ?」
上司が聞いてくる。やはり関東風のそばを体験させてやろう、という昼食会だったのだ。ごちそうしてもらう手前、酸性の味がする、なんてわけのわからん感想は言えない。
「……美味しいです」
「ウソついちゃダメだよ」
「……思ったより美味しいです」
「思ったより?どんなふうに思ってたんだよ」
「……正直に言うと辛いです」
「辛い! 関西の人は辛いって言うよねー」
そう、「濃ゆい」という感想を「辛い」というのは西の人間だけだ。東ではこういう時「しょっぱい」というらしい。とうがらしのHOTな辛さにしか「辛い」は使わないのだそうだ。

もう一口。
ずるずるずる。

……うーん。
なんだろう、そばを食べているけど、これはそばではない。いやそばだけど。
うまく説明できないけど、「ちゃんぽん」は「ラーメン」ではないし、「お味噌汁」は「お吸い物」ではないでしょ?……そんな感じで「関東のそば」はあたしの知ってる「そば」ではないという感じ。

でもまぁ、「食いもんちゃう」と批判するほどではない。こういう食べ物だと思えば美味しくいただける。でもこの汁は……ちょっと……飲み干せないかな。途中でギブしちゃう。 東京人の上司も汁残してるし……いいよね、全部飲まなくても。

そして、食後しばし東京と大阪の違いの話になった。
ご存じの方もいるだろうが、関西には「たぬきうどん」が無い。(関西で天かすうどんは「はいからうどん」と言う)
そして、関西では薬味のネギといえば青ネギだが、関東では白ネギが主流。(黒い汁の上に緑色のネギが乗ってたら、見た目的にグロイかも)
……不思議だ。狭い日本なのに、そば・うどん一つとっても、こんなにも違うもんなんだ。
〝文化〟の違いについてしみじみ考えさせられた「黒そばデビュー」だった。

こないだ、知人に「東京名物の油そばを食べに行こう」と誘われた。
「油そば?!」見たこともないし、聞いたこともない。
どうやら新種のラーメンだという。
そのネーミングから想像するにきっと、ギトギトのぬるぬるのカロリー高くて胸焼けするやつに違いない!そう思ったあたしは「いや、ちょっといまお腹が……」とやんわり断った。でも「半分こしよう」という提案をされ、興味がなかったわけでもないので、ついて行くことにした。

注文品を待ちながら、数日前に見たテレビをふと思い出した。そういえば……グルメレポーターの彦摩呂さんが超ハイカロリーなラーメンを食べて「背油のゲリラ豪雨やぁ~」とか言っていたなぁ。
もしかして、それのことちゃう……?
どんぶり鉢の淵まで背油でギトギトなラーメンを思い出し、食べる前から胸焼けがしてきたが、やってきたのはそのラーメンではなかった。
油そばと初ご対面。器の中を覗きこんだ。

……なんと、汁がない!

どんぶりの中には、太めの麺と具のみ。背油もないし、汁気すら見当たらない。
そう「油そば」というのはテーブルの上のお酢とラー油をかけて食べる……というスープなしの、なんとも不思議なラーメンのことだった。
麺とスープが別になって出てくる「つけ麺」が最先端だと思っていたが、時代はいまや汁すらないのか!すごいな日本!

さてさて、初・油そばを頂く。

……お、おいしい!

驚いた。全然こってりしてない。むしろあっさりしている。
もともと麺にからんでいた醤油だれが、かけたお酢といい感じにマッチしてる。初めて食べる味に感動。あまりに美味しかったので、追加でもう一杯注文するくらい気に入った。

ということで、そばの固定概念を次々に打ち破ってくれる街、TOKYO。
大阪のみなさん、東京に来た際は「黒いそば」ではなく「油そば」をおススメしますっ。

第22回 東京は物価が高いのか


 

「東京は物価が高いでー、覚悟しぃや」

と大阪在住のころ誰かに言われたのを覚えてる。彼は昔東京に住んでいて、物価の高さを痛感したのだそう。
上京前、この件に関してはかなりビビっていた。
やっぱりモノの値段が高いと生きていくのが大変だし、それだけ稼がないといけない。

「でも大丈夫、東京は賃金も高いから~」
追加でこんなことも言われた。「3時間働いたら、1万円くらいにはなる。遊んで暮らせるで」
……ほんまに? 3時間1万円ってことは、時給換算で3000円以上じゃないか!おいしいな、東京!
上京後アルバイトで生計を立てる予定だったあたしは、インターネットの求人情報を早速チェックした。

カフェバイト時給850円
レンタルビデオショップ時給900円
居酒屋時給1000円……
……あれ、あれ、あれ?大阪とあんまり変わらへんやん。

パソコンに向き合ってるついでに東京の物件情報もチェックしてみた。
検索画面に希望を入力。「駅歩5以内」「南向き」「2階以上」「バス・トイレ別」「オートロック」……カチ、カチ、クリック!
……あれーあれれーあれれれー!105000円と出ましたよー!じゅ、じゅうまん!マジすか。時給850円で十万円の部屋……。

『どうやって暮らすねん!!!』

ある程度貯金を蓄えた上での上京だけど……これ、1年で破産してしまうんじゃないか?!大丈夫かあたし。いつのまにか夜の銀座で働いてたりしてないよね。そんなことも頭をよぎった。

でも、実際に東京に来てみると、そうでもなかった。家賃はやっぱりエラ高なのだが、普通で贅沢でない生活をしていれば、物価の高さを感じない。
自動販売機のジュースは120円だし、コンビニでもペットボトルのジュースは150円、おにぎりは120円だ。大阪と一緒。
なんならあたしが住む高円寺なんて、めちゃめちゃ物価が安くて、箱ティッシュは198円、キャベツは一玉100円。

銀座で働かなくてすむと、安心していたのだが……思わぬところに落とし穴があった。

先日渋谷にいた時、友人が「ヒールのかかと直ししたい」というので修理屋に同行した。男性には分からないだろうが、ヒールの先のゴムの部分が磨り減ると、滑りやすくなって危ないし、金属部分が露出して歩いた時カンカンうるさい。
そういえば今あたしが履いてる靴も、だいぶ歩いたせいかもうすぐゴムが磨り減りそうだ。音が鳴る前に修理をお願いしようかな。……そう思って靴を脱ごうとしたその瞬間、壁に掲げられている値段表が目に入る。言葉を失った。

「1200円から」?!

たっかーー!1200円から?!からってことはこれ以上高くなる可能性もあるってこと?(ちなみに友人は1600円払っていた)
この値段に慣れている東京人にズバリ言うが、これは法外な値段です。大阪ではかかと修理と言えば700円ちょっとでOK。梅田の駅前の一等地でこの値段。もちろん技術的にも問題なし。
2000円とかで靴を手に入れられるこの時代に、かかとだけで1200円ってちょっとおかしくないですか?!気に入ってる靴でなければ、買いなおした方がお得なんじゃないかな。
ということで靴修理は大阪に帰った時に一気にすることに決めた。みなさんも、大阪旅行&出張の際は是非靴修理をお勧めします。

あと、物価高いなぁと感じたのは外食した時だろうか……。
ファストフードとかチェーン店なんかはだいたい大阪と同じ値段なのだが……気を抜いていると、いつの間にか高級なお店に入っていて「どうしよう、注文した手前出ることできないし……」となる。

上京したての頃、六本木でお昼ご飯でもーと思いフラッと入った和食屋さんがランチ2000円~だったときは焦った。東京慣れしていなかったあたしは現金をそんなに持ち合わせておらず、カードで支払い。もちろん選んだのは一番安い2000円のランチだ。
たぶん土地柄もあると思う。六本木は気を抜いてはいけないということをあたしは学んだ。(特に上記の店は六本木ヒルズだった……当然か)

あと、銀座も気を抜いてはいけない。
こないだ、待ち合わせまであと30分くらいあるし、ちょっとお茶でもして待つかーと思いカフェを探した。さすがに百貨店に入っているカフェは高いと知っているので避ける。
大通りからちょっと外れにこじんまりとした可愛いお店を発見。
「ケーキセットあります」とのぼりが出ている。
「おお、ケーキ食べたい!」と入り口の扉に手を掛けたその瞬間・・・・・見つけてしまった。というか寸前で見つけれてセーフだった。
「ケーキセットあります」の下に「1600円~」と書いてある……。
「1600円~」からってことはこれ以上高くなることもあるわけで。。。
(ってか東京は「○○円~」っていうの多いと思う。「~」をつけることで高額な値段をやんわり誤魔化してるあたりが気に食わない)
さすがに30分お茶するだけに1600円は払えない。ということで店の前を去る。結局近くのドトールを探しだし、一杯380円のコーヒーを飲んで時間を潰した。
さすが銀座。うかうかしてられない。

しかし、六本木の和食屋も銀座のカフェも、高いからと言ってお客さんがいないわけではない。それなりに満席だったりするのだ。
そのへん東京人はすごいと思う。みんなお金持ちなのか?じっくり探してみれば3時間1万円のアルバイトはあるのかもしれない。(っていうかこの高給なバイト、あやしい匂いがプンプンするんだが)

そう言えばこないだ新宿のルミネを通りかかったら、とあるお店に人だかりができていた。
なになに?何の店―?と気になったで覗いてみると、色とりどりのマカロンがずらーと並べられている。(ちなみにこの店は、かの有名なマカロン屋「ラデュレ」である。東京以外にもあるけど)
ほう、美味しそう。お試しに買ってみようか、と思い真剣に選び始めたが、プライスカードの値段を見てびっくりした。
1個250円……
ちなみに箱入りは8個入りで3000円……
なんて、あこぎな店だ……。
しかしお店は大賑わい。お客さんはみんな手に1万円札を握って店員さんを待っている。さすが東京人。やっぱり違う。
あんな口に入れた瞬間にいなくなるような腹の足しにならない食べ物に250円も出せるなんて気がしれない。と急にマカロン批判をしながらあたしは撤退。
(でもラデュレの差し入れは大歓迎なので、皆さんのお記憶に留めていただけたらと思います。どうぞよろしく。)

一つ目標が出来た。
高級なお店にビクビクして入らないですむよう、しっかり稼ぐ!ということ!!
頑張って働くぞー!待ってろラデュレ!

第21回 東京に来て1年経ちました


 

 

先日6月9日で、ついに上京2年生へと進級しましたー(パチパチ)
東京に来て1年経つのかーと思うと、なんだか、ちょっぴり、しみじみしちゃう。

上京したてのころは、右も左も分からなくて、初々しいフレッシュな匂いをふりまいていたあたし。(自分で言うなよって感じだけど)
初対面の人と話すときのファーストトークの定番はこれだった。
「あたし東京に来たところなんで、この辺のこと、よく分からなくって!」
そしたらみんな親切にしてくれた。「あそこに行ってみなよ」「○○って街はいい街だよー」手取り足取り東京の情報を教えてくれた。

そして、東京初心者だったあたしは、大概のことを許してもらえた。
東京の地名を聞いて、ぴんと来なくても「まぁ東京来たばっかりだし、知らないよね」と言ってもらえたし、
乗換がうまくいかなくても「まぁ分からないよねー」と優しく教えてくれ、
道に迷って待ち合わせに遅れても「まぁこの辺初めてだもんね」と遅刻を多めに見てくれた。

……しかし、もう1年生ブランドは使えない。
あたしはもう2年生。マイナーな地名の一つや二つさらっと言えるようになってないとだし、地下鉄の色と名称くらいは把握しとかないといけない。
……でも、ぶっちゃけまだまだ分からないことだらけ。
つい最近まで、ゆりかもめが走ってるところは全部お台場だと思ってたし、「国立(くにたち)」は「こくりつ」と読むと思っていた。「自由ヶ丘」の場所なんか、いまだにぼんやりしている。

ということで今日はこの1年を振り返って、今まで記事にするほどでもなかったけど、でもやっぱり喋りたい、みたいなことをぼやぼやとボヤいてみようと思う。
最後までお付き合いいただけたら、幸いだ。

まずは1年を通して知った、「東京人」という人種について語ろう。

あたしはいつも何か面白いことや興味深いことがあると、ノートに書くようにしている。いわゆるネタ帳みたいなやつ。こないだ過去のメモを読み返しているとこんなのが出てきた。

「ハゲの人」→気にしている人

ハゲをネタにしている人

は?なんのこっちゃ、と言われそうだが特に深い意味はなくそのまんまで、ハゲている人は「気にしている人」か「ネタにしている人」か、どっちかだよなぁ……とその時しみじみ思ったらしい。
でも、今まさにこのメモに大共感。東西の気質の差を表してる上手い例えだなぁと思う。
「気にしている」は関東人で「ネタにしている」は関西人だ。

偏見かもしれないが、東京の人って〝自虐ネタ〟をあんまり言わない。
大阪人だと、アホ言うて笑かしてなんぼな所があるので「わての頭はチュルチュル~」なんて言えちゃう。ほんで周りのみんなも「あーなんかさっきから眩しいと思ったら、隣にあんたおったんやー」とか言って、その人をいじる。
でも、東京人はこういうわけにはいかない。薄毛で気にしているなんて言わないし、むしろ触れないでオーラを出している。周りも徹底していて、触れてはいけない、見つめちゃいけない、喋っちゃいけない、この三原則を無言で守っている。
ネタにしちゃったほうが楽なのにーと思うんやけど……そういうわけにはいかないの?東京人のみなさん。

では次。気候の話。
東京で春夏秋冬一通り過ごしてみたのだが、一番びっくりだったのは冬だ。

冬は寒いよーとは聞いていたが……こんなに雪が降るとは聞いてなかった。しかも1回降ったら、けっこー積もる。街で雪だるまを何体も見かけるくらい、積もりまくっている。
(まぁ今年がたまたま雪の年だったのかもしれないけど)

大阪は雪はほとんど降らないし、降ってもハラハラって感じで積もったりはしない。
だから、街一面が真っ白!というのも新鮮だったし、歩いてて前の人がいきなり「ツルッ」というのも新鮮だった。もしここで新聞記者がカメラを構えてたら一面の写真になりそうだな、と思う見事な滑りも何度か見た。

雪の日を何回か乗り越えていくと、あたしは「雪にはピンヒールの靴が有効」ということを学んだ。
雪の日だからってスニーカーとか長靴を選びがちだが、実はこの類は「ツルッ」といきやすい。思い切って高ヒールのお洒落な靴を履いてみる。意外や意外。ヒールがスパイク代わりになってザクザク地面に刺さり、滑らない。
雪用の滑り止めシューズを持っていない皆さんは、是非お試しを。ただし、怪我をされてもクレームは受け付けません、あしからず。

では最後に、東京で一番驚いたことをお伝えしよう。
それは……人の多さ!
これはほんとに、大阪と比べものにならない。どこにこんなに人が住んでんのって思うくらいに、人がわんさかいる。

休日の原宿・渋谷なんて、ほんとにエグい。大阪で言うと、天神祭の花火大会と同じくらいごった返している。分かりにくい?……じゃあ他で例えるなら……うーんと、ジャニーズのコンサートのあとの最寄駅くらい、混雑している。(分かっていただけただろうか?)
歩道は、〝ただ歩いてる人〟でなぜか大渋滞。全然前に進まないので、急いでいるときはイライラしてしまう。「駅から徒歩5分」と表記のあるところは実際10分もかかってしまう。

かの有名な渋谷のスクランブル交差点なんか、もうほんと怖い。大阪にもスクランブル交差点はあるが、違う。密度が違う。
以前何かの記事で、人が行き交う場所でぶつからずに歩ける方法、というのを読んだのだが、そこにはたしか「やや上を向き、キョロキョロしながら歩くと、周囲の人が自然とよけてくれる」と書いてあった。(要は、道が分からない田舎者のフリをするってことか)
やってみた。
……だめ。
5秒も持たずに、人にぶつかられた。
しかも迷惑そうな顔で見られた。全然効果なし。ってか流れがあまりにも早いので、誰もあたしのキョロキョロ振りなんか見ていない。

そうそう、スクランブル交差点と言えば、人ごみの中の急に出てくるキャリーバッグ、アレどうにかなんないかな。
人はよけた、でも足元のキャリーバッグにバンッ「痛てっ」みたいな。みなさんもご経験あるかと思う。
スクランブル交差点攻略のためには、華麗なフットワークも身に着けないといけない。

「東京なんて住むとこじゃない」なんていう人もいるが、一応1年、住むことが出来た。
「東京って住みにくい?」……うーん、どうかな、住みにくいのかな?
たしかに家賃は高いし、物価も高い。
人が多くてめまいがしそうな時もある。
流れが速くて戸惑ってしまう時もある。
空気が悪いし、星は見えない。
でも日食は見えた。
まあ友達も増えてきた。
なんとか借金せずに生きている。
周りみんな日本人だし、日本語通じるし。……とりあえずは、生きていけそう!

と、そんな感じで2年目、とつにゅー。
みなさん、これからも温かく見守ってください。

第20回 フードコートが洒落てる


 

 

先日、大阪から遊びに来た友人から

「表参道に有名なフードコートらしいから、行ってみたい」

と言われた。

 

はて。表参道の有名なフードコート……

「そんなとこ、知―らなーい」

返事をした直後に、ビビビッと稲妻が走るように一つのお店が頭に浮かんだ。

 

「もしかして……あそこ?」

 

たしか表参道駅直結の地下に、ヨーロピアーンでオッシャレーな巨大なカフェのようなものがある。まるでパリを歩いているような店内で、地下なのに洋風の洒落た街路灯が並んでいたりする。

ワインを注いでいるいるスタッフがいるし、THE・表参道といった感じハイソなお客さんばっかりだし、ふらっと入るには気が引けていたのだが……もしかして、あれがそうなの?そんなに有名なの?

 

 

気になったので、行ってみた。

表参道駅Echika(エチカ)の中にある「マルシェ・ドゥ・メトロ」.

名前がフランス語。

なんだか鼻につくので、「表参道・ドゥ・フードコート」と呼ぶことに決めた。

 

 

緊張しつつも、周りのお客さんに倣い店内の中の方まで入っていった。

 

確かに……ここはフードコートだった。

壁に沿ってお店がいくつか並んでいて、中央には椅子とテーブルがありフリースペースとなっている。

お客さんはお洒落な雰囲気の人が多く、ワインやシャンパンを飲んでいる人をチラホラ見かけた(平日の昼なのに!)。あたしの知っているフードコートには、世間話をするおばちゃんや、ゲームボーイをしている子供(今はゲームボーイじゃなくてPSP?)がいるのだが、そんな人はひとりもいなかった。

 

先にテーブルをとっておこうと思い、客席をうろつく。すると、なんだこれ?各テーブル上に小さな札が置いてあるのを発見。

表面には「食器を下げてください」と書いてあり、裏は「食器はそのままにしておいてください」とある。なるほど自分で片付けないでいいフードコートのようだ。

 

 

フードコートと言えば「たこ焼き」「焼きそば」「うどん」「ラーメン」「クレープ」の定番5種は外せない。しかしここにあるのは、イタリアン、ベトナム料理、フランスのパン屋、サラダ屋さん、などなど、フードコートと思えないお洒落なラインナップ!

迷ったが、小腹が空く程度だったのでパンとコーヒーを購入した。パン2つとコーヒー1杯で830円。うーん。高いのか安いのか分からない。普通のフードコートやイートインのパン屋さんに比べたら高い気がするのだが、「表参道でお茶をする」という点では安い方かもしれない。

「お召し上がりですか?」と聞かれうなずくと、一見まな板にも見えるお洒落な木のトレーに紙のシートを引き、パンを乗せてくれた。お皿というものは存在しないようだ。さすが表参道・ドゥ・フードコートである!

 

 

さてこのフードコートには、片づける専門のスタッフがいる。

黒ベストに白いサロンを巻いた彼らは、店内を徘徊し、席が空いたらサッとテーブルの上の食器を下げテーブルを拭く……という仕事だけをしている。毎日黙々とトレー下げばかりでつまらなくないのか、と変に感情移入していると……すごいことに気が付いた。

 

……なんと、まぁ、イケメンさんばっかりだ!!

 

片づけスタッフは男性が多い!しかもみんな整った顔でさわやかに働いていらっしゃる!

OH!なんて素敵なフードコート!

Kis-My-Ft2の藤ヶ谷くん似のスタッフが気に入ったので、とりあえず目で追いながらパンをかじりコーヒーを飲んで、とてもいい時間を過ごした。

 

 

パンを食べ終えると、木のトレーが邪魔になった。今からパソコンを広げて仕事をしようと思っている。

できれば、下げて欲しい。

できれば、藤ヶ谷君似のスタッフに下げて欲しい。

トレーの上から飲みかけのコーヒーを外し、テーブルの端の方(もう下げていいよーと言わんばかりの位置)にトレーを置いてみた。しかし10分放置しても、片づけ係のお兄さんたちは前を通り過ぎるだけで、使用済トレーを持って行ってくれない。

 

その時「食器を下げてください」の札が目に入った。席を立つときに使う札ではなくて、こういう時に使うのだろうか。今は裏返って置いてあり「食器はそのままにしておいてください」が表になっている。これをひっくり返して「下げてください」にしない限り、イケメンボーイたちは持って行かない、そういう仕組みなのだろうか。あたしは悩んだ。

札を立ててみるか。

違ってたら恥ずかしいな。

でも、藤ヶ谷君に持って行ってほしいし、立ててみようか。

どうしよう。。。

……ええーーいっ!

 

「かちゃり」

(札を立てる音)

 

立ててみた!

……ドキドキ。

パソコン作業をするふりをしながら、画面越しにイケメンたちの行動を目で追った。

1分経った。イケメンたち気付いてくれない。

3分経った。イケメンたち何度も通るが気付いてくれないし、持って行ってくれない。やっぱりこの札の使い方、間違っていたのか。

5分経った。藤ヶ谷君が、あたしのテーブルの前を通る。「下げてください」の札をチラリと見た。(お、見た!)と心の中で大興奮のあたし。しかし藤ヶ谷君、両手にトレーを持っているので、あたしのトレーは持てない。

いったんバックヤードに戻った藤ヶ谷君は、持っていたトレーを片づけたあと、あたしのテーブルまで来てくれた。

「お下げします」

あたしは無言でぺこりと頭を下げたが、心中は大騒ぎ。(やったー!藤ヶ谷君が来てくれたー!ばんざーい!)

しかし、その時になって気付いた。あたしの使用済みトレーは先ほど食べたクロワッサンのパンくずや、こぼれたコーヒーを拭き茶色く変色したおしぼりなんかで、ぐっちゃぐちゃである。

あたしも女の子。ちょっと恥ずかしくなって、うつむいてしまい、もう藤ヶ谷君の顔を見れなくなってしまった。

 

 

そんな表参道・ドゥ・フードコートでの思い出を忘れまいと、

パソコンを立ち上げ、その場で必死にメモするあたし。

どうか、隣の席の人が見てませんように。。。

 

第19回 いまだに迷う新宿駅


 

 

「新宿」は大阪でいう「梅田」だ!
(大阪人の勝手な見解です。反論しないで)
大きな中心都市だし、鉄道が何社も乗り入れているターミナル駅だし、商業施設、オフィス街、足をのばせば歓楽街もある……やっぱ似てると思う。

この前、大阪に行ったことのある東京人が「梅田駅の地下街は迷路みたい」だと言っていた。
確かに梅田の地下は距離が長いし(かるく一駅分は歩ける)いろんなところがつながっているから、地下だけでどこでも行ける。慣れない人にとったらダンジョンのように思うだろうが、あたしはかなり便利な抜け穴だと思っている。

あたしからすると断然、新宿の方が難易度が高い!(まぁ、慣れてないからだろうが)初心者に優しくない街、新宿。何度迷子になったかわからない。

まずはJR新宿駅が難関である。
まだ東京に住んでいないころ「JR新宿駅はホームの階段が要注意」だと友人に言われたことがある。
だいたいやってしまいがちな失敗例を挙げてみよう。

① 電車、新宿駅に到着

② 新宿で乗り換える人が多いから、一気に乗客が降りる。<注1>

③ 人に流される。流されるままに階段を上る。<注2>

④ 改札階に到着。何となーく改札を出る。

⑤ あれー、ここどこ?

こうやって新宿迷子が完成する。むろんあたしも経験済みだ。
では詳しく検証してみよう。

まず大事なのは<注1>だ。新宿駅はどの階段を使うか……で運命が決まる。
階段を下降りてしまったら、そこは東口(もしくは西口方面)絶対に南口に行けないし、
階段を上ってしまったら、そこは南口方面。東口や西口には死んでも行けない。
そう、階段を間違えると取り返しのつかないところに来てしまうのだ!ぼやっとしてないで案内表示を毎回確認!これ初心者の鉄則である。
だいたいどのホームも混んでる新宿駅……利用する階段の近くで下車できなかった場合は大変だ!「すみません、すみません」と片手をあげながら、目的の階段目指し人ごみを逆流するはめになる!

そして<注2>。
なんとなーく改札を出る。これも非常に危険である。
「どこか分からないし、とりあえず改札出るか」この流儀は新宿では通用しない!西口改札を出てしまったら、もう新宿の東方面(紀伊國屋とかマルイとか)に行けない(注意:あたしの場合はである。もちろん新宿を熟知している人は行ける)
地下に潜ってもつながっていないし(というか改札口がそもそも地下)、地上階の駅ビル(?)を使っても横断できない。
どうしてもというなら、駅を離れて大きく迂回することになるが……ヘタすると余計に迷ってしまう。
方向音痴で途方に暮れかけたあたしは、東にいち早くたどり着く方法を考え出した。それは……入場券を購入しもう一度改札をくぐる、という方法!これは早い!(あたりまえ)……ただし悔しいことに入場料がかかってしまうので、東京に来てまだ一回しか使ったことのない技だ。

JR新宿駅といえば新南口が不思議な存在だ。
馴染の無い人の為に説明すると、新南口とはホームをひたすらに南に向かって歩いて歩いて……人が少なくなってきたけどまだ歩くの?とすこし心細くなったころに、現れる改札のことだ。
この出口はなんというか、あたしにとってどこでもドアみたいな存在だ。改札を出た瞬間、そこはもう新宿ではないにおいがしている。
新宿駅って利用客が多いイメージだが、この新南口だけは別物。
なんだか人が少なくて、閑散としている。高島屋に行くときしか利用したことがない。ついでにその横にはサザンテラス口ってのもあるらしいが、まだこの改札は利用したことがない。

新宿という街を語ろうと思っていたのに、JR新宿駅の話ばかりになってしまった。
まだまだ語りたいことはあるのだが、最後に地下通路から地上へ出る階段の話だけしておこう。

あたしは西口方面にある郵便局によく行くのだが、なかなかここにたどりつけない。

西口の地下通路にはいっぱい階段がある。交番のところらへん、京王モールから上がる階段。あと、百貨店のそば(中?)にあるエスカレーター。あの階段たちが、どこにつながっているのかが分からない。

郵便局に行くためには、まず高速バス乗り場のところに行かないといけない。
地下通路をさまよっているあたしは、高速バス乗り場はこの辺だろう、と大方目星をつけて階段を上がる。
しかし……!なんでだろう、いつも道路の真ん中にある都営バス乗り場(?)に出てしまう。ここは車道に囲まれた孤島だ!横断歩道すらない!ついでに、バスがあたしの乗車を待ってドアを開けているが、ごめん、乗らない!
しかし、また引き返して階段を降りるのも、なんだかなーと思ってしまうので、いつも危険承知でこっそり車道を横断してしまう。だいたいいつも同じような失敗をしている人がいるので、その人たちと隙を見て、エイッと渡ってしまう。みんなで渡れば怖くないってやつだな。
でもびゅんびゅん飛ばしてるタクシーはいるし、道路わきに停車している車も多いから危ないっちゃ危ない。
だから!お願い!〝この階段は●●に出ます!〟、という案内をそれぞれの階段の上り口に書いておいてほしい!
もう、おみくじを引くような気持ちで階段を登るのはごめんだ!

第18回 芸能人と会えるのか


 

 

正月に実家に帰省した時、久しぶりに兄に会った。

兄は3つ上で、彼もまた実家を離れているのでほんとに顔を合わす機会が少ない。

この日も半年ぶりの再会なので「ちゃんと食ってるか」「頑張ってるか」と東京での生活を案じてくれるのかと思った。しかし兄はこう言った。

 

「直ちゃん、東京で芸能人に会えた?」

 

……あーのーねー。

ミーハー心、丸出しやないか。

返す言葉が思いつかなくて困ったので、苦笑いで対応しておいた。

 

 

いや、しかしだ。上京組なら、故郷に帰った時に一度は経験したことがあるはずだ。

「東京って芸能人っておる?」と質問されたことを。

 

大阪に限らずだが地方に住んでいて東京に馴染みの無い方々は、そこらじゅうに芸能人が歩いていると思っている。

かくいうあたしも、大阪にいるときはそう思っていた。道を歩いてたら「わ、今の浜崎あゆみだよね、超カワイイ!」とか、お洒落な店でご飯食べてたら「アレって小栗旬じゃない?」「わ、香里奈だ!ドラマのロケしてる!」みたいな、それが東京だと思っていた。

 

 

しかし……

あたくし、東京に住んでもうすぐ1年が経つが……

一度も芸能人と会ったことがありません!(どーん!)

 

いや、ちょっと待てよ。会ってないというと語弊があるな。細かい話だが、パーティやイベントとかで知り合いに紹介されて「どうも」というのはある。それもまぁ、東京でしか体験できないことと言われればそうなのだが……それはカウントしないということにして。

あたしが求めているのは……もっと、こうなんか、道でバッタリ!的なやつだ。「あそこでソフトクリーム食べてるの芦田愛菜ちゃんじゃない?」みたいなやつ。

 

 

どうやったら東京にて芸能人とばったり会えちゃうのか。こないだ美容院にパーマをあてに行ったとき美容師さんとそういう話になった。

ちなみにあたしが通っている美容院というのを説明せねばいかんのだが……えー、ごほん。表参道にあるカリスマ美容師がいるところで……その、まぁ分かりやすく言うと、このエッセイの第4回「おしゃれな美容院に行ってみる」に出てきたあのお洒落サロンだ。

あんなに大々的に記事にしたのでもう行かないだろうと思っていたのだが、まだ本名がバレていないので、懲りずにカラーモデルやパーマモデルとして通っている。

 

話を戻そう。その美容師さんは「フツーに芸能人に会う」と言う。「なんか見つけちゃうんですよねー」とまで言っていた。

「誰に会ったの?」と聞くと、そうそうたるメンバーだった。「ファッション雑誌のトップを飾る人気モデルのK、今一番人気の若手俳優M、人気芸人のM……」

ちなみにその美容師さんは芸能人を探し歩いたり、出待ちをしているわけではない。普通に生活してて、ばったり会っちゃうらしいのだ。なんで同じ東京都に住んでて、こうも違うのか……話しているうちに、あたしが芸能人に会えない3つの理由が明らかになった。

(〝私が芸能人に会えない3つの理由〟ってなんか本のタイトルっぽい。出版できないかな……ダメ?笑)

 

 

あたしが芸能人に会えない理由、その①

「あたしが杉並区に住んでいるから」

 

有名芸能人たちはみんなセレブなので、目黒区、港区、世田谷区あたりの高級住宅地や高層マンションに住んでいるのだとか。

そりゃそうだよな。福山雅治は杉並区・高円寺に住んでないよなー。そういうところに住んでないと、コンビニでばったりみたいなシチュエーションもなかなか難しそうだ。

それに遊びに行ったり飲みに行ったりするのも、もっと洗練された都会的なところに行かないといけないそうだ(……例えば表参道、青山、六本木、銀座とか?)もちろん入るお店もそれなりに高級店でないといけないらしい。たしかに魚民には米倉涼子はいないかなー。

 

 

あたしが芸能人に会えない理由、その②

「平日の昼に働いているのが悪い」

 

芸能人に会える時間帯というのは、平日の昼……らしい。

そりゃそうか、土日の混雑している時間にわざわざ街を歩かないだろう。ドラマのロケも同じらしく、平日の人が少ない時間にパッパッと済ませてしまうらしい。

うむ……あたしは平日の昼はアルバイトに行っている。「芸能人が見たいので休ませてもらえますか」と今度上司に頼んでみようか。はっ倒されるだろうな。

 

 

あたしが芸能人に会えない理由、その③

「あたしは目が悪い」

 

どっかーん。そうだった、あたしは目が悪い。視力は0.3くらい。メガネも持っているが映画とか芝居を見るときしかかけないので、普段は裸眼で過ごしている。裸眼だと3メートル先の人の顔がぼやけてしまう。そりゃ芸能人も見つからんわな。

それにあたし、結構ぼうっと歩いているらしいのだ。友達とすれ違っても気づかないことが多くて「とときさん!」とむこうから声を掛けてくれるパターンが多い。

そう、芸能人とバッタリ会うためにはもっと動体視力を鍛える必要がある。そして人ゴミの中で芸能人をキャッチできるよう、アンテナを張っておくことも大事だ。

 

 

最後に。美容師さんから、芸能人に会った時のリアクションの仕方を教わった。

それは……声を掛けない。サインを求めない。写メを撮らない。だそうだ。

向こうもOFFの日だし、それがマナーなんだという。(実際は声を掛けれないオーラを放ってる方も多いそうだが)

さすが東京のおしゃれスポット・表参道に勤めていらっしゃる方はスマートです。

でもやっぱり心騒いじゃうよね。

誰かいないかなー(キョロキョロ)

第17回 ルノアールに行ってみた


 

 

はじめての東京という地に訪れた時から、ずっと気になっていた店がある。

「喫茶室 ルノアール」

新宿でも渋谷でも吉祥寺でも銀座でも……どこの街にでもあるルノアール。しかも、大体なんかのビルの2階に入っている。
そして店の前には大きな看板。
珍しい白ベースの看板。ボタッとした筆文字で、大きく黒で「ルノアール」と書かれている。これがかなり目立つのだ。
なんだろ……この無意味なほどに大きなカタカナ文字。威圧感を感じ、つい街中でも見つけてしまう。それに、白地に黒文字というシンプルさが、ごちゃごちゃした繁華街でかえって目立つのだろう。

どうやらこの「ルノアール」という喫茶店、東京人には馴染みの店らしい。調べてみたところ関東地区だけの出店で(関西人のあたしが知る由もない)その数は100店舗以上もあるらしい! すごっ!どおりでよく見かけるわけだ。
名前が「ルノアール」なのだが、これはやはり印象派の画家「ルノワール」から来ているのだろうか。ということは……店内は、フランスの貴族たちが木漏れ日の下で優雅にお茶してる感じ……なのだろうか。
ということで「ルノアール」の実態を確かめるべく、調査しに行ってみた。

実はあたしの住む街、高円寺にも「喫茶室 ルノアール」がある。
駅前徒歩30秒ほどのところ。とあるビルの二階。なかなかいい立地にあって、引っ越し当初から気になっていた。

どうやら高価な店らしいので、お財布を分厚くするため、ATMに寄ってからの入店。
胸のドキドキを押さえながら「ルノアール」の門をくぐった。
「いらっしゃいませ」と礼儀正しそうな男性スタッフが迎えてくれる。
お洒落……とは言えないが綺麗な店内。昭和・モダン(?)な感じ。
これはまさしく〝喫茶店〟の匂いがする。〝カフェ〟ではなく〝喫茶店〟!
大阪で言う「喫茶館 英國屋」みたいなもん、とあたしは勝手に位置付けた。(余談だが「喫茶館 英國屋」は関西が中心のお店だとこっちに来て知った。大阪ではあんなにいっぱいあるのに、東京ではほとんど見かけない。何件かはあるらしい)

店員さんがお冷とおしぼりを持ってきてくれる。なんとこのおしぼり、温かい上にビニールに包まれており、なおかつおしぼり置きに乗っている!おしぼりだけで、なんかコストがかかってるじゃない!
どんだけ高級やねん、とドキドキしながらメニューを広げた。
……噂に聞いてはいたが、値段はやや高め。普通のコーヒーが510円もする。美味しいコーヒーが100円で飲めるこの時代に一杯500円以上なんて……これはもう大阪人としては、あのセリフが口から出てしまう。
「場所代、えらい高いなぁ~」

しかし、せっかく来たのに普通のコーヒーじゃつまらない。「ルノアール」っぽい飲み物を頼もうと思い「芳醇黒蜜カフェオーレ ¥690」というのを注文してみた。690円!おお、結構ええ値段するやないの。

改めて店内を見渡してみる。スタバやドトールに比べ、年齢層がかなり高い。40代~60代の男性客ばっかり。この温かいおしぼりは顔をワシワシ拭くためにあるのだな、とこの時思った。
そしておひとり様がやたら多い。パソコンを持ち込み仕事していたり、新聞を読んでいたり。ちなみにコンセントを自由に使っていいらしくパソコンの電源は取り放題。新聞も入り口のところにおいてあるので勝手に読んでいいらしい。
井戸端会議をするようなおばちゃんも、ギャーギャー騒ぐ学生もおらず、店内はとても静かだ。ジャズの音楽が優雅に流れているのが聞こえてきた。

エッセイ用に店内の様子をメモし、メニューをこっそり写メしていると「芳醇黒蜜カフェオーレ ¥690」がやってきた。
お、なんだかお上品な器に入っているぞ!(訳:量が少ない)
ひとくち飲む。……美味しい。美味しいのだが……そういえばコーヒーには砂糖を入れない派のあたし。口の中が甘ったるくなってしまった。なんでこんな甘い飲み物を頼んだんだろう、と数分前の自分を恨んだ。
とはいえ電源を借りられるし、席と席の間はゆっくりしてるし、仕事をするにはもってこいの環境。あたしはみんなに倣いパソコンを広げた。

滞在30分ごろ。この時間になると「ルノアール」だけのオリジナルサービス、噂に聞いていたアレが出てきた。
……そう
〝熱いお茶〟!

実はお店のことを事前調査していたあたし。「ルノアール」でネット検索していると、ヤフーの知恵袋の、とある質問が目に留まった。
「ルノアールに初めて行ったのですが、お茶を出されました。帰れと言う合図ですか?」
それに対してルノアールバイト経験者と名乗る回答者が丁寧に答えていた。
「もう少しゆっくりして行ってくださいね、という意味ですよ」と。

おかげで貴重な前知識を得たあたし。突然の熱いお茶提供にも動じることなく「ありがとう」と余裕の笑みを店員に返すことが出来た。

「ルノアール」に滞在して、1時間ほどが経った。
その日は4月だと言うのに真冬並みの気温で、北風が冷たく外は雨まで降っていた。
入り口付近の席だからだろうか、窓のそばだからだろうか。冷え性のあたしは寒くて寒くてたまらなくなってきた。コートを羽織っても、寒さは和らがない。どうしよう。
しかし、ここは天下のルノアールだ、何か防寒具を貸してくれるだろう……と、思い切って店員さんに声を掛けてみた。
「寒いんですが……ひざ掛けとかありますか?」
すると背の高い女性店員が言った。
「申し訳ございません、そう言ったものを用意してなくて……」
ペコリと一礼、早々にキッチンの方に行ってしまった。
その後すぐにキッチンの方から、さっきの店員の声が聞こえてきた。
「なんか、さっきお客さんに寒いって言われてぇ―……」

おいおいおーい、陰口か。なんか感じ悪いぞ。
裏で悪口を言われ、ムスッとしたあたし。もう店を出てやる、と支度を始めたその時、
さっきの店員さんが小走りで戻ってきた。
「あの……熱めに入れたお茶と、熱いおしぼりです。これでどうぞ温まってください。あと、窓から冷気がきてると思うんで、ロールカーテン下しますね」

(……じーーーん……)
きた、優しさが胸に染みる音。

さっきの裏での会話は、陰口でもなんでもなかった。ただの勘違い。熱々のお茶を入れてくれるよう、キッチンの人にお願いしてくれてただけだった……。
わがままを言うあたしの為に、一生懸命にカーテンを下してくれる店員さん。
カーテンのおかげでなんだか背中のひんやりがなくなり、暖かくなってきた。そして熱いお茶も、手に取った熱いおしぼりもあたしの身体を温めてくれた。
(……じーーーん……)
あったかいよ、色んな意味で。

店内はずっと満席。お客さんは入れ替わり立ち替わりやってきた。それもなんだか頷けた。だって居心地がいいのだもの。スタッフの対応がとってもいいのだもの。
これはお値段が高くても納得だ。
嗚呼、ハマりそうだな、ルノアール。

第16回 関西人への偏見


東京人に、こんな悔しいことを言われた。

「あれぇ今のボケに対する、本場のツッコミが見たかったなぁ~」

……ええ?
ええーーっ??
マジですか。まさか東京に来て「ツッコミでくれ」と要求される思わなかった。
っていうか、そもそも本場のツッコミって何?「なんでやねん」「もうええわ」漫才でお馴染みのセリフ?……それともあれ?
「そうそう、コレコレ、……ってなんでやねん!」
ってノリツッコミをすればよかったの?

……いや、ちょっと待てよ。「本場のツッコミが見たかったなぁ~」って言いますけど、そもそも今、あんたはボケてたのか?と言うところが問題だ。
東京人の発信するボケはどうもキャッチしにくいのだ。ボケなのかちょっと不思議な世間話なのか、判断しにくい絶妙なところを責めてくる。もっと分かりやすくアホをやってもらえば、さすがのあたしもツッコめたはずだ。

関西人が発するボケは非常に分かりやすい。「はい、今ツッコミどころよ」と言う空気を醸し出してくれる。なんなら「今からボケるで」と鼻を膨らましてくるので、タイミングが掴みやすい。ツッコミがうまく決まるとこちらも気持ちいいし、ボケた方も嬉しい。笑いが起きるともっと嬉しい。それが関西人。

……と、こんな話をしておいてなんだが、そもそも関西人が全員うまいツッコミが出来るとは限らない。ツッコミよりどちらかというとボケ役という人もいるし、なんなら笑いから遠い世界で生きている人もいる。
関西人は確かに明るくて親しみやすい人が多いけど、関西人=みんなオモロイ人とわけではないので、気を付けていただきたい。

そう、東京に来て感じたこと。
あたしが東京に対して偏見を持っているように、東京人も大阪に偏見を持ってる。
「大阪出身です」と自己紹介すると「関西ってこうだよね」「大阪って○○じゃん」と非常に偏った情報を話してくれる。
やっぱり一番多く言われるのは……

「関西って、一家に一台たこ焼き器があるんでしょ」

これ、よく聞かれる。

「……んー。あるんじゃない?」とあたしは答える。

実際に一軒一軒聞いて回ったわけじゃないから分からないが、大体の家にはあるんじゃないだろうか。
もちろん我が家にもたこ焼き器はあった(いまは……ないのかな?)小さいころ、みんなで集まってたこ焼きパーティしたり、晩御飯としてたこ焼きが登場したり。

そう言えば、この「晩御飯にたこ焼き」ってのを話すと東京人にびっくりされる。東京人いわく「たこ焼きはおやつ」らしい。
えー、ダメ? 別に晩御飯としておかしくないと思う。おなかなるし。むしろ晩御飯がたこ焼きやったら嬉しい。
他にも「たこ焼きをおかずにご飯を食べてるってほんと?」と聞かれることも多い。うーん、それはすごく少数派?あたしは、たこ焼きはたこ焼きだけで食べる。ひとり20個以上は食べるので、ご飯が入るスペースがないというのが理由。ちなみに「お好み焼きをおかずにご飯を食べる」人は、結構いると思う。お好み焼き定食とかあるし。これも関西だけか。

「幼稚園児がたこ焼きをひっくり返せるってホント?」とも聞かれたことがある。なんかテレビでやってたらしい。
……たしかに、あたしは物心ついたときからたこ焼きをひっくり返していた。最初はヘタッピだったが、回数を重ねるごとにピン(千枚通し)の回転の仕方だとか、はみ出た生地の処理法を学び、最終的には鉄板の油の乗り具合まで見れるようになったのだ。誰から教わるでもなく、ごく自然に学習したように思う。
これって変なんだろうか。

たこ焼き以外の話をしよう。
「大阪と言えば」で、こんな話を良く聞く。

「大阪のおばちゃんってヒョウ柄着てるよね」

うん、着てるねー。ははは。
ちなみにヒョウ柄を着ているのは、おばちゃんに限らない。(さすがにヒョウの顔がプリントされたTシャツとかはおばちゃんしか着てないけど)
若い女の子たちもファッションのポイントとして取り入れている。ヒョウ柄をワンアイテム入れてると、大阪では「なんかお洒落やん」となる。そういえばNMB48の制服の柄もヒョウ柄だ。

最後に……とある東京人の大阪旅行の感想にビックリした。

「大阪行ったらさ、みんな大阪弁喋ってるからびっくりしたよ!」

……そりゃ大阪やもんっ!!!
と一応ツッコミを入れておきました。
(あれ、これはボケじゃないの?真剣な話なの?東京人のこの微妙なラインの会話が難しい)
聞き慣れていない人からすると、大阪弁は「テレビの中の言葉」らしい。
まあ、あたしも東京にきたとき聞き慣れない東京弁にビックリしたもんな、それと同じか。

日本と言えど、西と東でこうも違うもん。
お互いに偏見はあるんやね。