第15回 え、あれってローカル番組だったの?


 

金曜の夜。11時過ぎた、慌ててテレビのスイッチをON。
……あれ、なんでやってないの?
そう関西の人はおわかりだろう。関西で視聴率No.1番組。
「♪タッ、タ、タラン~」馴染のイントロで始まるあの長寿番組。

「探偵!ナイトスクープ」

依頼者(一般視聴者)の無茶な依頼や無理難題に、探偵(芸人さん)が悪戦苦闘し依頼を解決していくと言う番組。「電子レンジで爆発卵を作りたい」「マネキンと結婚したい」という爆笑の依頼もあれば、「戦場からきた父の手紙を解読したい」という涙必須のVTRもある。
笑いと涙を体験できる、あんなに面白い番組。なんで東京でやってないの?

ナイトスクープだけじゃない。東京に来て「え、あれって関西ローカル?こっちで見れないの?」と悲しくなることが多い。

例えば、
「痛快!明石家電視台」
「ちちんぷいぷい」
「せやねん!」
「土曜はダメよ!」
「たかじんのそこまで言って委員会」

……嗚呼、大好きな番組たち。(ほかにもいっぱいある)
東京で見ることが出来ず、あたしはかなりストレスをためている。

なんだろう、大阪の番組は空気がゆるくて見ていて和むのだ。
「ちちんぷいぷい」という平日午後の情報番組はなんか、和み系番組の筆頭だ。〝のほほーん〟という言葉が良く似合う。街の若者がアポなしで自宅に電話を掛け「今日の晩ごはんなに?」と聞くコーナーがあったり、夜中の終電間際ほろ酔いのサラリーマンに声を掛け熱く語ってもらうコーナがあったり。見ていて「なんかええなぁ」ってそんな番組だ。

そう関西ローカルの特徴をもう一つあげるなら、〝一般人がよく出てくる〟ということ。「探偵ナイトスクープ」「ちちんぷいぷい」もそうだが、「明石家電視台」の観覧客や、「土曜はダメよ!」のコーナーの「浪速コレクション」のおばちゃん達。
このテレビに映る一般人が面白すぎて笑ける。時に芸人を食っているほど。
この前東京の人に「ケンミンSHOWで見たんだけど、大阪の人はみんなノリツッコミできるって本当?」と聞かれた。
……うーん。否定はできない。
大阪人は上手いボケが来たらツッコミをするのは礼儀だと思っている。サービス精神旺盛な人種なのだ。

話は変わるが……
植村花菜さんの「トイレの神様」の歌詞の中に「新喜劇 録画し損ねたおばあちゃんを 泣いて責めたりした」というのがある。このフレーズの絶妙さ、東京人には分からないだろう。関西人なら誰しも共感できる歌詞だ。
あたしが小学生の頃。土曜は午前中だけ学校があって、4時間目が終わったらダッシュで家に帰っていた。ダッシュしないと12時54分スタートの番組「よしもと新喜劇」を見逃すからだ。帰ったらお母さんがお昼を用意してくれてて、(メニューはだいたい焼きメシか焼きそばだった)それを食べながら新喜劇を見る、というのが毎週のお決まりだった。そんな当たり前の日常を東京人に話してみるが「へー」という反応。
新喜劇で育ったあたしたち。東京の人は土曜の昼は何見てたんだろう。

東京人とテレビの話をしているとき、よく分からない言葉が出てきた。
「昨日ブランチでさー」
ブランチ?なんですか、それ。ご飯のこと?
……どうやら土曜日にやっている、東京ローカルの情報番組
「王様のブランチ」
のことらしい。
「王様のブランチ」??……けっ、さすが東京。気取った番組名つけますねー。

そういえば東京ローカルを知らない。どんなもんやねん、と土曜朝(いつも昼くらいまで寝てるのだけど)頑張って早起きしてテレビをつけた。
衝撃だった。

……え、谷原章介が司会をしている!!!
ドラマや映画にしか出ない俳優さんだと思っていたので、「では、次のコーナーです」と健気に番組進行している姿は受け入れがたかった……。(っていうか谷原さんがセリフ以外で喋っている姿を初めて見た)
そして女性司会者は……優香ですか!
なんともまあ、お洒落でさわやかな2人!
ツーショットが綺麗すぎる!
……これが東京ローカルなのか!と、衝撃で目が覚めた。

もちろん番組の内容もスマート。
びっくりしたのはレポーターが、カワイイ女の子であること。
ロケに行って情報をつたえるアイドル系女子たち。なんてキュートでいちいちカワイイんだ!
大阪の番組だと、まずこの役割は芸人さんがする(シャンプーハットとか千鳥とかね)。
笑いを交えつつ、やんわりロケが進むのが特徴だ。

「ブランチ」はスタジオのコメンテーターたちもなんかシュッとした人が多い。発言も知的でスマート。
紹介された商品をけなしたり否定することは、まずない。そしてゲストをいじったり、話にツッコんだりと言うこともない。
大阪だとコメントする人たちも芸人さんで(たむけんとか未知やすえさんとかね)なんか適度にオモロイことを言っている。出演者同士でツッコんだり、掛け合い漫才が始まったり。そんな番組を見て育ったせいか、どうも「ブランチ」は馴染めない。

そして最後に。
リモコンのチャンネルにいまだに苦戦している。
旅行先のホテルでテレビをつけると、何チャンがどの放送局なのか分からず困っちゃう、アレだ。
「お、やべ。もう9時だ」毎週見ているドラマを見逃すかい、と思ってテレビをつけるが、何チャンなのか分からずいつもてんてこ舞い。チャンネルの番号を順番に押している。だから冒頭30秒は見逃すことが多い。そろそろ覚えなきゃ。
日テレ、4チャン
テレ朝 5チャン
TBS 6チャン
このへんが大阪と違うのでややこしい。
よし、そろそろ覚えるぞ。

第14回 地震こわい


 

大阪のみなさん、東京は地震が多いです。

あたしが上京したのは6月。
本当は春になったらすぐに(4月くらい)上京する予定だったのだが、震災が起きたことで延期した。それでも「なんで今の時期に東京に行くんだ」「あと2、3年待ってみたら?」と周りのみんなは心配。そりゃそうだ。テレビでは震災関連のニュースが続いているし、放射能の心配もある。

頃合いを見て、東京に住んでる友人に聞いてみた「東京どうでっか?」と。
「もう普通だよぉー」と返事がある。
物流も通常通りだし、電車も普通に動いているし、目立った混乱はないよーとのこと。

ということで東京にやってきた。

ええーと?……どこが普通なの?
大阪のみなさま、関東は揺れまくってます。地震だらけです。ものすごい短いスパンで地震が発生してます。(東北地方、震源地にお住まいの方はもっと怖い思いをされているかと思います)

「もう普通だよぉー」
というのはつまり、「地震はしょっちゅう起きてるけど、それが普通だよぉー」という意味なのか。……いやいやいや、それは普通じゃない!
「もう慣れたよねぇー」
こらこらこら。地震に慣れてたまりますか。

特に東京に来たてのころ、恐怖心が強かった。
右も左も分かららぬ東京の町。今いる場所が、海から近いのか遠いのかも分からない。
関東の地図を正確に思いだせないあたしは「震源地・茨城」「震源地・千葉沖合」……といわれてもここから遠いのか近いのかも分からない。

それにすぐそばに家族や友達がいない、というのがとにかく怖いのだ。周りは得体の知れない東京人だらけ。なにか起きても頼れるのは自分だけ。
もし直下型の大きいのが来たらどうしよう。毎日ビビりながら生活している。
上京して9か月経った今も、地震に慣れることはまずない。

アイフォンで「ゆれくるコール」というアプリを入れている。
なまずのアイコンで有名な、緊急地震速報通知アプリだ。自分の住んでる「地域」と、警報が鳴る「震度」を設定できて、地震がくるときに警告音がなるというアプリだ。
東京に引っ越ししてから「杉並区」「震度3」に設定した。
……なんだこれ、ジャンジャン鳴るんですけど。
大阪に設定していた時は警報が一回も鳴らなかったのに、東京に設定した瞬間に鳴りまくっている。

通知音はNHKの地震速報と同じ音で「チャンチャーン・チャンチャーン」というサイン音。仕事をしているとき、料理をしているとき、突然鳴り響く「チャンチャーン・チャンチャーン」この音がとにかく怖い。怖すぎる。音が鳴るたびにあたしは身構え、命の危険を感じている。
ガタガタガタ……
おぇーー!怖えぇーー!
揺れが終わっても、しばらくは落ち着けない。

アプリに限らず、最近の携帯はどの機種も地震速報の機能がついているらしい。
電車に乗っているときに地震が来て、乗客たちの携帯が一斉に鳴りはじめたのにはびっくりした。
「ビー・ビ―」「チャンチャーン・チャンチャーン」「ウーウー・ウーウー」
みんなの携帯が一斉になるこの現象。それでも電車は普通に走っている。焦ったあたしは非常停止ボタンを押すべきかすごく迷った。が、周りの東京人は平常心。幸い大きな地震ではなかったので、大事には至らなかった。

困ったことに、緊急地震速報が鳴った時点では、どの規模の地震なのかが分からないのだ。
(設定した震度はあくまで予測震度なので、実際には震度3以下でも警報がなる)
毎回毎回警報が鳴るたびに「……だ、大地震かも」と身構え、スナイパーに狙われている級の、恐怖があたしを襲う。
「チャンチャーン・チャンチャーン恐怖症」になってしまった。
……毎回ビクビクしていては心臓に悪いので設定を「震度4」に変えた。実際に周りの東京人の人たちも、あまりに鳴りまくるので設定を「震度4」にしている人が多いらしい。
ちなみに「震度4」に変更してから一回も警報は鳴っていない。震度3と震度4は、そんなに規模が違うのだろうか。
こんど警報音が鳴った時のことを思うと、恐ろしい。

そして地震のとき建物が揺れる、ギシギシ音が怖い。
あたしが住んでいるマンションは築年数が割と経っている。どこかの部屋の人がドアを乱暴にあけたり、階段を勢いよく降りたりするだけでギシギシと音がなってしまう。
普段なら気にならない程度の生活音なのだが、テレビや音楽をつけずに生活していて、さらに地震に対する恐怖心がうえつけられていると、気になって気になってしょうがない。
物音がするたびに「地震?!」と身構え、周りをキョロキョロしてしまう。天井からぶら下がっている電気のひもを目安にしているのだが、大抵はひもは静止したまま。
つまり、地震が起きているという錯覚に陥っているのだ。

最近はあまりにもビビりすぎて、自分の心臓の鼓動で錯覚地震を起こすようになってきた。
ベッドで横たわっているとき、ソファーに座っているとき。スプリングやクッションみたいなふわふわしたものの上にいるときに、この錯覚を起こすことが多い。
ドクンドクンと脈打つたびに、「ゆ、揺れてる?!」と思って身構えてしまう。
どんだけ鼓動が激しいねん、とツッコミが入りそうだがこれマジな話。
さらに追い打ちをかけるように、マンションの壁がギシ……というもんなら、それはもうかなりのパニック。

調べてみると、こんな風に錯覚地震を起こす人はどうやら多いようだ。その大半は精神的な不安が原因だそうだ。あたしも心配し過ぎなのかもしれない。
(ただし平衡感覚を失う病気だったり、貧血だったりで地震と錯覚するケースもあるらしいので、不安な方は病院に)
これからは、もうちょっとリラックスして東京生活を送りたいと思う。

明日3月11日で震災から一年……。
こんな記事を書きましたが、被災地の皆様のことを思うとあたしの心配なんか小さいもんです。
地震や生活の不安がなくなって、被災地が一刻も早く復興することを願っています。

第13回 ほうげんの戦い


最近、自分が何弁を喋っているのか分からない。

早いもので、あたしが東京に来て、9か月経った。
このエッセイでも書いたが、上京したてのころ街中から容赦なく聞こえてくる東京弁にはかなりやられた。(プロローグ:上京物語を参照→こちら)「じゃん」「だよねー」「ウケるー」そんな言葉を耳にするたびに、違和感を感じ、嗚呼あたし東京におるんやなと感慨深い気持ちになった。
そして、上京して間もなくのあたしは目標を立てた。
大阪弁と東京弁を違和感なくつかいこなせるバイリンガルになろうと。
東京で大阪弁を大声で喋るにはちょっと勇気がいるのだ。苦い経験がある。

そのころあたしはまだ大阪在住で、東京に遊びに来ていた。
あたしは友達と二人で、渋谷に買い物に行こうと都心を走るバスに乗っていた。久しぶりに友達に会い嬉しかったので、あたしはとっておきの「すべらない話」を披露した。そう、コテコテの大阪弁で。「一万円を拾った」話で一番お得意のネタなのだ。
「こないだ、めっちゃオモロイ話があってなぁー……」
〝ちょっとテンションの高い大阪の女の子が、コテコテの大阪弁で喋っている〟……いつのまにかざわついていた車内が静かになり、気づいたらバスの中はあたしの独演会になっていた。しーんと聞き耳を立てるバスの乗客たち。張りつめた空気。きっとみんな思ってるに違いない「大阪の笑いってやつ、見せてもらおうか」と。
ビビった。大阪の芸人さんが東京では緊張してうまく喋れない、と言っていた理由が分かった。話を途中で辞めようかと思ったがここで止めたらもっと不自然だ。なんとかオチまで話せたが、「すべらない話」は見事にすべってしまった。
恐るべき殺傷力!
あたしは大阪弁を封印しようと決めた。

しかし、だ。
完璧に東京に染まってしまうのもいけない。
地元大阪に帰った時に「その話、マジでウケるじゃん」なんて言おうもんなら、仲間にボコボコにされる。あいつは東京に魂売った、と言われてはしゃくだ。
つまりバイリンガルになる必要があるのだ。
その時々に応じて【大阪←・→東京】の言語スイッチを切り替える。
東京では「その話、マジでウケるじゃん」と言い、大阪に帰ったら「あんた、めっちゃオモロイやん」と。そうTPOに合わせた使い分けが大事だ。

この9か月間、東京弁を習得しようと頑張り、そして大阪弁を出さないように気をつけていた。
しかし数日前、初対面の人に会話5秒で関西出身を見抜かれてしまった。

東京人「どちらの駅までですか?」
あたし「赤羽橋まで行きます」
東京人「関西出身ですか?」
あたし「……ぅえ?!」

出てるの?!……関西の風味、出てるの!

そうか「赤羽橋まで行きます」ってイントネーションが間違ってたのかもしれない。〝あかばねばし〟は「ね」がアクセントだと思っていたが「あ」かもしれない。「あ」かばねばし。いや、それはないか。

そう、関西と関東ではイントネーションが違う。とくに地名。
たとえば〝きょうどう(経堂)〟という東京の地名。あたしは頭文字の「きょ」にアクセントを置き、「きょ」うどう、だと思っていた。大阪でいう「京橋」と似た発音。しかし、東京人は「きょーどー」と言うのだ。抑揚なくなんかのっぺりとした発音で「きょーどー」。なんだこれ、気持ち悪い。
例えその②。〝てんのうじ(天王寺)〟という大阪にある地名。大阪人は当たり前のように「の」にアクセントをつけ〝てん「のー」じ〟と抑揚たっぷりに発音するが、東京の人は違う。「て」にアクセントを置く。〝高円寺〟みたいな感じに〝「て」んのーじ〟。この前東京の人が「とときさん〝「て」んのーじ〟ってどの辺?」と言ってきて、ぷぷぷっと笑ってしまった。
……いやいや。笑い事ではなかった。あたしも笑われぬように、東京アクセントをマスターしなくては。

アクセントと言えば。あたしが大阪でシナリオの勉強をしていた時、同じスクールに通う鹿児島出身の男の子がいた。彼は特有の方言単語(「おいわぁ」とか「そげん」とか)は使っていないが、地方出身者だとすぐに分かった。教科書通りの言葉を話していても、イントネーションが鹿児島なのだ。一言で言うと、なまっている。
きっとあたしも同じで、「~やねん」「~ちゃう?」というコテコテの大阪弁単語を封印したとしても、なまっているのだろう。

アクセントという大きな壁を越えられない理由に心当たりがある。
最近、東京にいるのに大阪の知り合いが増えてきたのだ。東京在住の大阪人ってのは本当に多い。そして出会ってしまうと、出身が一緒というだけですぐに仲良くなってしまう。
大阪出身者と会う時は、もちろんためらいなく大阪弁だ。隣の席からものすごい東京弁が聞こえてきて、THE・TOKYOを感じさせられても、仲間の団結力で大阪弁を喋る。
変な話だが、大阪人とつるんでいるときだけは「東京に染まったヤツ」という風に見られたくないのだ。普段は「あたし、東京人間よ」と澄ました顔で街を歩いているくせに。

なーんや結局、大阪弁ぜんぜん抜けてへんやーん。と最近、開き直っていたのだが……
気づかぬうちに東京に染まりつつある自分もいた。

この前、「いつもの電車に乗り遅れるー」とダッシュしたのに、駅に着くと人身事故で電車が止まっていた。
ホームにある掲示板を見ながら、あたしはポロッと呟いた。
「止まってんじゃん」
言った後で、びっくり。「じゃん」がでた。「じゃん」が!あたしの口から!
まさか、呟きが東京弁になってるとは。対外的に東京弁を喋ろうと思って努力して失敗してんのに、自分に掛ける言葉に「じゃん」がでた……。

……もうよく分からん。
コトバ問題に奮闘し、たどり着いたのがこれだ。「交じった」
【大阪←・→東京】の記号で示すなら矢印のちょうど真ん中にある【・】の位置にいる。ニュートラルな位置。
しかもこのスイッチは自分では制御不可能で、なにかのタイミングで【大阪】になったり【東京】になったりする。そう、スイッチは壊れているのだ。

まぁ、まだこれは途中経過報告だ。ゴールではない。もう少し時間が経てば、完璧なスイッチを身に着けていることだろう。
なにか変化があったら、またここで報告しようと思う。

第12回 東京に来てホクロができた


ある日朝起きたら、顔にホクロが出来ていた。

手鏡を覗き込みながら「うわ」と声をだす。
昨日まではなかった。右の頬のど真ん中。かなり目立つところに黒く小さいポッチリ。まだ皮膚の奥の方にいらっしゃる感じで、なんというかホクロが生まれそうな感じ。
27年間生きてきて、こういうのは初めてだ。

私はもともとホクロが少ない。これは体質とか遺伝的なものだと思う。
顔に小さいホクロが3つ。からだ中、数えてみても20個くらいしかないのではないか。

そう言えば昔、深夜のバラエティ番組で『ホクロ100』(たしかそんな名前)というコーナーがあったのを覚えている。街行く女性に声を掛け、体中にホクロが100個あったら一万円あげるという趣旨。超小型カメラで顔、腕、足を舐めるように撮影。そして時には下着ギリギリラインのホクロを撮影するために、服の中にカメラを入れたり……そういうちょっとエッチな内容だった。
もし私が街で声を掛けられてそのコーナーに出演依頼されたとしても、ホクロを100個お見せする自信がないので即断るだろう。当時、そんなことを考えながらテレビを見ていた。
なにが言いたいのかと言うと、それくらいホクロの無さは自信があるということだ。

ホクロ発見から一週間。表皮の奥に眠ったホクロの卵が、ついに顔を出した。
ほっぺたのど真ん中。やばい、どんどん目立ってきたぞ。前は手鏡を覗いたら「あ?」って気になる程度だったが、今となっては少々距離をとっても「ああ」とはっきり分かるくらいだ。
しかしこの新生ボクロ……どうもほかのホクロと雰囲気が違う。
ホクロと言えば黒い色素沈着のイメージだが、コイツは濃い茶色でなんだか突起している。触ると、指に出っ張りを感じられる。ニキビか?ソバカスか?と一瞬考えたが、でもやっぱりホクロというのが一番しっくりくる。
気になって観察し続けると、なんと左の目尻のあたりにも、黒いポッチリ予備軍が。さらによく見ると、右の目の下にも。
えーーー!まさか、まさか。顔中、ホクロ大量発生?
私の身体の中で何かが起きている。ぶるぶるぶる、恐怖で震えた。

というのも、過去に一度似たような経験をしている。
小学生の頃、ある日突然左の手のひらにイボが発生した。鉄棒のしすぎでできるマメでも、勉強のし過ぎのペンだこでもない。得体の知れない、固いイボが手の柔らかな部分にできている。良く見るとミカンのヘタを裏返したみたいな模様になっている。(どんなやねんと思った方はミカンをめくってみよう)
何もしていないのに、どんどん成長し続けるイボ。直径1センチくらいになって怖くなったので「イボころり」を手のひらに貼ってイボを除去した。
綺麗にとれて安心したのは束の間、今度は右手にイボが生えてきた。目を凝らして良く見ると、両手合わせてイボ予備軍が10個くらい潜んでいる。……イ、イボの逆襲だ!
私は、いつか体中がイボだらけになるのではと、恐怖で夜も眠れなかった。
……しかし、イボはいつの間にかいなくなっていた。あんなに悩まされた日がウソみたい。約一ヵ月の時を経て、あたしの手のひらは綺麗な手のひらに戻った。

――で、まさかのセカンドシーズン到来。今度はホクロか。
短期大量発生に驚いたあたしはインターネットでホクロを調べまくった。大人になってからホクロが生えてくるという例はまれに有るらしい。しかし原因は不明だそうだ。(遺伝的にホクロが生えやすい体質と、そうでない体質の人はいる)

原因不明だとか言われても納得はできない。自分なりに理由を考えてみた。

ホクロが発生したのは、東京に住み始めて5カ月くらい経ったころ。そろそろ生活に慣れてきたころなのでストレスではなさそうだ。じゃあ食べ物か?あ、水か?
色々考えた末、一つの仮説に行きついた。
東京の空気のせいではないか、と。
やっぱりここは大都会・東京である。実感はないが、やはり空気が汚れているのだろう。
もしかすると……(ここからは勝手なイメージである)都会の空気中に含まれるなにかゴミゴミとした塵のような異物が、鼻を通って肺に吸収され、そして体を巡り巡って、顔のほっぺたにたどり着いたのではないか。(……いや、だから勝手なイメージである)
大都会・東京。やっぱり恐ろしい街である。

ホクロ発生から3週間経ったある日のことだ。
ファンデーションを塗っていたらなんだか違和感を感じた。んん?……ホクロが出っ張っている。いや、以前から出っ張っていたのだが、より突出感がある。しかも触ると痛い。ニキビほど根は深くないが、カサブタのような手ごたえを感じる。なんだこれ。

ホクロじゃないのか?カサブタなのか?
とれるか?……とろうか。悩むあたし。
……いやいやいや、ここは慎重に考えろ。これがカサブタなはずはないだろう。もともと傷なんてなかったのだから。
それにイボの逆襲の時のように、ホクロにも逆襲(さらなる大量発生)に見舞われるのは嫌だ。
ということで私は、腫れ物に触るようにそっと……そぉっとして扱った。

そしてホクロ発生から一ヵ月経った。
朝、顔を洗おうと鏡を見てびっくりした。ホクロがいなかった。
とれた?寝てる間にとれたのか?
慌ててベッドの周りにホクロの断片が落ちていないか探したが、1ミリに満たない小さな黒いポッチリを見つけることはできなかった。
そしてその2週間後に左の目尻のホクロも取れる。
やっぱりこのホクロは大気中のゴミだったのだ、と私は確信した。口から入った食べ物が、便として排泄される。それと同じ摂理で、体に入った異物が外に出たのだ!

しかし三番目にできた右目の下のホクロがいまだご健在だ。発生からゆうに3カ月が経つ。
……最近、認めたくないのだが思うことがある。
もしかしてこの小さいポッチリ〝シミ〟じゃないの……?
それはそれで怖い話だ。
27歳。お肌の曲がり角、確実に曲がったようだ。

※この話はもちろんノンフィクションですが、ホクロの話は個人的な体験・見解です。悪性のホクロもあるらしいので、ホクロで不安のある方は皮膚科に行ってくださいね。

第11回 ラーメンがうまいらしい


 

まずは、今日学習した東京用語(?)をひとつ。

「白金高輪」は「シロカネ タカナワ」と読むらしい。「シロガネ コウリン」だと思っていたあたしは、電車のアナウンスを聞いて驚きを隠せなかった。

白金=ハッキンではないだろうと思っていたが、さらに上行く変化球……あなどっていた。

 

 

さて、本題。今回はラーメンの話である。

 

男の人はどうしてあんなにラーメンが好きなんだろう。

「毎日毎食ラーメンでも飽きない」

「シメはラーメン」

「ラーメンの為に電車を乗り継いで見知らぬ街へ」

……マジですか?そのうちラーメン風呂に入りたいとかいうツワモノ男子も出てくるだろう。

 

ラーメン好きの女子もいるだろうが、やはり男性に比べると人口は少ない。ラーメン屋に女ひとりで入りにくいというのが大きな原因だろう。でもほかにも要因があるとと思う。

理由その① 「あんまり濃ゆいものはちょっと……。それに太るでしょ」という感じでラーメンを敬遠。たしかに毎食ラーメンはお肌に悪そうだ。

理由その② 女の人は「一つのモノをガッツリ」より「色んなものをちょこちょこ」食べるのが好きだ。ラーメンを一杯よりも、カフェで「セット」みたいなのを食べたいのだ。

そして、そして……

理由その③「大事な人とゆっくりご飯を食べたい」……これが乙女の本音なのじゃないか。

ということで男性のみなさん、くれぐれも初めてのデートでラーメン屋に行かないように。ラーメンじゃなくてパスタに行ってください。

 

 

 

 

ところで大阪在住のころ、こんな噂を聞いた。

「うどんは関西がうまい。でもラーメンは関東がうまい」

 

……正直、そんなにラーメンを愛していないあたしは、「へぇ」の一言で済ませた。しかし、あたしの隣でワクワクと鼻を膨らませている人物がいる。このエッセイでは久しぶりの登場、あたしの彼氏である。(彼氏という言葉がこっ恥ずかしいので相方さんと呼びます)

 

大阪在住の相方さんは大のラーメン好き。二人でよくラーメンを食べに行った。(初デートでは行っていないのでご安心を)近所のラーメン屋を巡ったり、中津にある人気店「弥七」のラーメンを食べるために、寒空の下1時間半並んだこともある。

毎日ラーメンでも構わない、そんな相方さんにあたしは言った。「東京に遊びに来てね。美味しいラーメン案内するから」

 

ということで、相方さんが東京に遊びに来るたびにラーメン屋をめぐることになった。

今日はここ。明日はあそこ……。

別にラーメンが嫌いなわけじゃないし、お腹いっぱいになる割に安いし、いいんだけど……。いいんだけど……

やっぱり3日連続のラーメンは女子には厳しい。

……たしかそのとき世田谷区の経堂にいて、ネット上で見つけたラーメン屋さんに向かっていた。店の前までやってきたものの、なんとなく躊躇するあたし。やっぱり3日連続でラーメンを食べていると、気分がのらない。それよりも、その手前にあるカレー屋さんの匂いに惹かれていた。なんとか相方さんを説得しその日の昼食はカレーに。そこのカレーはなかなか美味しかったので満足だった。

 

しかし後悔したのは数日後。

あたしが店の前で引き返した経堂のラーメン屋「らーめん秀」がテレビの『人志松本のヨダレがでる話(人志松本の〇〇な話)」で紹介されていたのだ……!

タレントの勝俣さんが、ここのラーメンの良さを語る語る。豚骨スープのツヤツヤした表面が画面アップで映る。ヨダレじゅるり。

「ああ、食べときゃ良かったーー!」

大後悔したのは言うまでもない。

 

 

 

 

あたしが住んでる高円寺の町は、若い男性が多く住んでいるのかラーメン屋がめちゃめちゃ多い。駅前にはラーメン横丁というフードテーマパークまである。

相方さんが東京に来ているときに何件か行ってみた。「田ぶし」と「じゃぐら」が美味しかった。でもどんなに美味しい店があると分かっていても、ひとりでラーメンには行かない。

やっぱりラーメン屋にはひとりで入りにくい。おひとり様をするなら、カフェかファーストフードに行ってしまう。

 

 

こんなにラーメンに執着のないあたしが、東京に来て一度だけ「ああラーメンが食べたい」と心の底から思うことがあった。

その日は冬の始まりを告げるような冷たい風が吹いていて、締め切り前でヘコタレ気味だった。何か温か~いスープ的なもので身体をあっためよう……ラーメンとかどうかな。うん、ラーメンいいかも。……ラーメン、ラーメン……ラーメン!!

唱えているうちにすっかりラーメンのお腹になったあたし。

この日が記念すべき一人ラーメンデビューとなった。しかし、このあとあたしに悲劇が訪れる……

 

どこの店に行ったらいいのか分からなかったので、駅前のラーメン横丁に向かった。

どの店に入ろうか……。フードパークの狭い通路を何往復もするあたし。お客さんで溢れ返っているお店も嫌だし、ガラガラのお店も嫌。味よりもまず、店の雰囲気で選ぶあたりがラーメン初心者である。ほどほどの込み具合のラーメン屋〝N〟に飛び込んでみた。

 

ほんとに一人でラーメン屋に入ったことのないあたしは、ラーメン屋の作法というのが分からない。食券を買うのも一苦労。どこに座ったらいいのかも分からない(結局誘導されたカウンター席に座った)。ラーメンを待ってる間、何をすればいいのか分からない。

そして出てきたラーメンをひとり黙々とすするのは、なんか変な感じがした。

ラーメンを食べながら不安が頭をよぎる。

(やっぱり男のヒトばっかりやな)

(女ひとりで変に思われてへんかな?」

(食べ終わったラーメン鉢は、カウンターの一段高いところに置いた方がいいのかな?)

そんなことを考え、あんまり味わうことが出来なかった。

 

でも、身体はポカポカに温まった。外は北風が吹いて寒かったが、胃袋がカイロになったみいだ。あたしは小説を書くためにその足でカフェに向かった。

いつものサンマルクカフェでコーヒーを頼み、支払おうと財布を開けた……その瞬間。

「……あれ?」

財布の違和感に気付く。

「……あれ、一万円札が入ってたはず?」

考えるあたし。リモコンの[巻き戻し]を押したように、さっきのラーメン屋での映像が5倍のスピードで早戻しされていく。

 

……食券機だ。

 

一万円入れて、お釣りを取り損ねた。

 

ガーン。と言うベタな効果音があたしの耳元で鳴った気がした。すぐにラーメン屋に戻った。あたしが店を出てからもう10分くらい経っている。……もう、今から行っても、どうにもならないかも?でも行くしかない。

ラーメン屋に着いて、店の人に事情を説明。

 

店員「はぁ……どうしようもないですね」

 

ガーーーン。聞きたくない効果音がまた鳴った。

どうやらあたしの9千円以上のお釣りは誰かに持ち去られた様子。誰かって、それはあたしの次に食券を利用した人である。

そういえば……あたしがカウンターの席に座ってすぐに、大柄の男性が隣に座った……絶対、その人が犯人!!その人は昼間っからビールをうまそーに飲んでた。……そのビールってつまり「臨時収入に乾杯」ってやつじゃないのか?ゆ、許せんーーーっ!

 

こういう事例は警察に通報しても犯人は捕まらないことが多い、と店員さんが言う。

そもそも、あたしがどんくさいから悪いのだけど、悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

初めての〝ひとりラーメン〟だったのに……

勇気を出してみたのに……グズッ……

東京はラーメンが美味しいって……うううっ……(泣く)

 

……実際は泣いてないが、ラーメンという言葉にかなり抵抗感を持つようになったあたし。

東京のラーメンがどれほど美味しいとしても、もう一人で行くことはないだろう。

何かのはずみで、どーしてもラーメンを食べたくなったら、千円札だけ持って家を出ようと思う。

 

 

あーそれにしても高いラーメンだった……。

ひとりラーメン、デビューまだのみなさんは……どうぞお気を付けください。

第10回 このまち大好き。高円寺


 

あけましておめでとうございます。

「東京、アホちゃうか~」も、いつのまにか連載10回目。

いつもゆる~く、楽しく書かせてもらっているこのエッセイ。これからもボチボチやるつもりなので、今年もどうぞひとつ、よろしくお願い申し上げます。

 

 

さて、記念すべき10回目。

あたしが住んでいる高円寺について書きたいと思う。

 

まずはなんで高円寺という街を選んだのか、だ。

 

〝東京でどこに住むのか〟

上京を計画している人にとって、これはなかなか重要な問題であろう。

一般的には「大学の近く」「職場の近く」そんな感じで住む場所を決めるのだろうが、なんせあたしは夢を追って東京に出てくる身。拠点となる場所を自分で決める必要があった。

 

そりゃ、まあ……東京に来たからには、新宿とか六本木とかの『THE・TOKYO』ってとこにも住んでみたい。しかし〝住みたい〟と〝住める〟は別なわけで……。どうにもならないお財布の事情も踏まえ、あたしは〝東京まち探し〟を始めた。

 

 

実は、あたし。昔から下町ってのが大、大、大好き。

大阪の地名を上げれば「天満」とか「谷町六丁目(略して谷六)」とかね。

(※どうでもいい話だが、天満の発音はテ「ン」マね。「ン」にアクセントです。東京の人は「テ」ンマと発音したりするので違和感を感じてしまう)

「天満」というのは、日本一長い天神橋筋商店街がある街。人がたくさんいて賑やかで活気づいている感じが好き。「谷六」は昔ながらの町並みが広がっていて、道を歩いてると匂いがして「あ、ここのうち今日カレーだな」って、そんな生活感を感じられる空気が好き。

はたして東京にも、人情と風情溢れる街はあるのだろうか……。

 

 

東京に住む友人に聞いてみる。

「東京で下町って言ったらどこなん?」

すると返ってきた言葉はこれ。

「浅草とかどぉ?」

……いやいやいや、浅草はないわー。

大否定するあたし。

……だってアレでしょ?浅草って「てやんでぇい、ばかやろー」の街でしょ?

「オイラ、生粋の江戸っ子だぃ!寿司食いネェ!」そんな粋のいい人たちと仲良くお付き合いできる自信がない。

 

 

浅草を却下したところで、別の情報が入ってきた。

「中央線界隈はどう?中野とかさぁ下町だよ……」

ほうほう、どれどれ……と調べてみる。

 

どうやら中央沿線は音楽や演劇をやってる人が多くて、文化の街らしい。調べてみると、家賃相場や物価もそんなに高くないし、結構住みやすそう。新宿までのアクセスもいいし、吉祥寺とか「住みたい街ランキング1位」になっている。

 

……ふ~ん、中央線かぁ。まぁまぁええんちゃう?

 

ということで、下調べをするべく東京にやってきた、あたし。

どこに住むか絞りたかったあたしは、中野から吉祥寺まで各駅停車で降りて、それぞれどんな特徴がある街なのか、実際住めそうなのかを調べてみた。(丸一日かけたが「西荻窪」だけは時間的に回れなかったので、ご了承を)以下がレポートである。

 

 

「中野」

なんでも揃ういい街だと思ったが、中野ブロードウェイのオタク一色な空気にビックリ。サブカルチャーを舐めていた私はノックアウト。この街に呼ばれていない気がして、候補地から外した。

 

「阿佐ヶ谷」

ドラマ「ひとつ屋根の下」の舞台と聞いていただけあって、いい感じの下町。隣の家からカレーの匂いがしそうな感じも高得点。道を歩いていると愛想のいい猫がいて「かわいいー」と近づくと牙を向けられた。猫が怖い、という猫好きのあたしにとってはかなり悪い印象の街となった。

 

「荻窪」

便利な街だろうが、あんまり惹かれなかった。フィーリングかなぁ?駅前が賑やかで、栄え過ぎてるのが好きじゃないのかも、と思った。

 

「吉祥寺」

そりゃみんな住みたいわ、と思う街だった。便利すぎるやん、楽しすぎるやん。でもこの街に住んでしまうと、楽しすぎてお金を使ってしまいそう……。ということで候補から外すことに。

 

 

そして最後に、一番惹かれた「高円寺」のことをじっくり語ろう。

 

まず高円寺の駅に初めて降りた時「あれ、ここ天満?」って思った。なんとも言えないゆる~い空気が流れている。「あ、ここスッピンで歩けるわ」と感じたほどだ。

 

駅前の感じもなんか好き。荻窪みたいな背の高いビルやショッピングモールはない。小さな商店がゴチャゴチャとひしめきあっている感じ。活気のある商店街がいくつもあるのが高得点で、「いらっしゃい、安いよー」と叫んでる八百屋さんがあったのも良かった。

 

そして街を歩いて見つける『ランチ500円』の看板。

「ええっ?!ありえへんっ」

そう、事前に聞いてはいたが、高円寺は物価がめちゃくちゃ安い。安いもん好きの大阪の血が騒ぐ、騒ぐ。

どうやらスーパーの激戦区でもあるらしく食料品も激安だ。大阪でもおなじみの『業務スーパー』。そして『OKストア』とかいう東京で一番安い(ホンマに?)ディスカウントスーパーもある。ちなみに『OKストア』は関西にはないチェーンで、初めて店の前を通った時に「ふざけた名前つけてんなぁ」ってバカにした覚えがある。今じゃ一番お世話になっているスーパーで、OK様には頭が上がらない。

 

 

そんな物価の安さも素晴らしいのだが、

高円寺という街に一番惹かれたのは……

若い人がいっぱい住んでいる、という点。

音楽と古着の街ということもあってか、街を歩いている人たちが若い。店で働いている人たちも若い。もちろんお爺ちゃんお婆ちゃんもいるんだろうが、生き生きとした若い人たちがこの街を作っているんだな、って感じがした。

ここに住んでたら楽しいことが起きそう!

面白い人たちと出会えそう!

そんなワクワク感を抱き、あたしは高円寺に住むことを決めた。

 

 

……で、実際住んでみて、どうだったって?

 

 

それはもう、大正解!

 

高円寺に来てよかったと心の底から思っている。

ちなみに〝住んでみたい街ランキング〟ではなく〝住んで良かった街ランキング〟で高円寺は堂々の第2位を取っている(1位はなんと。サブカルノックアウトの中野)。

街を歩いていて楽しいし、美味しい店も多い。強いて不満を言えば、ツタヤがないことくらいか。

 

そして……住んでる人たちが、ゆるくて優しい。

あたしのマンションから駅までの間に何件かお店があるのだが、毎日歩いているうちになんとなしにお店の人と顔見知りになり、最近じゃ「おはよー」「行ってらっしゃーい」と挨拶を交わすようになった。これも下町ならではの人情だろう。

 

 

最後に、特記すべきことがある。

最近、高円寺に住んでるお友達が何人かできた。紹介してもらって知り合ったのだが、近所に友達が住んでいるというのは楽しいし心強い。

こないだなんか「高円寺会開くよー」って言って声をかけると、22時という明らかに終電を意識していない集合時間にも関わらず、高円寺の改札のところに8人(!)も集まった。自分で誘ったくせに「みんなこんな遅い時間によく来るね……」と言ってしまった。

でもね、ひそかに感動してました、あたし。「みんなで盛り上がろうぜ」って、そんな高円寺の人たちが好き。

この街に住んで良かった、と思った最高の瞬間。

 

 

……どうですか?みなさん、高円寺に住みたくなりましたか?

上京を考えてるかたは高円寺にいらっしゃい!

一緒に飲もう!大歓迎!

第9回 東京登山部。やっとこさ登山編


登山口のすぐ横に、ロープウェイの乗り口が見えた。このロープウェイに乗れば一気に山の中腹まで行くことが出来るらしい。乗り口に流れていくお客さんを横目で見て、心の中で呟いてみた。
「山の良さを分かってないな」と。
そうだ自分の足で登らないとどうする。あたしたちが目指すは健康という名の頂上なのだ!
ゆけ!ゆけ!登山部!

まず、あたしたち登山部を待ち構えていたのは、アスファルトの路面であった。山を登っているというより、林の中を散歩している気分。
登山部が三人で並んで歩くことができるほど広い道で、こうなったら女子三人、喋る喋る喋る。仕事のこと、家庭のこと、恋愛の話……。
Kさん、Hさん、あたし。そういえばこのメンバーでゆっくり話す機会ってなかったよね。大自然の中という解放感のせいか、みんな饒舌に。いやぁ、ほんとによく喋って笑った。

……と思っていたのは最初だけ。
5分も経つとどんどん口数が減ってくることになる。

……ハァハァ
喋ると息が切れる。

……ゼェゼェ、ゴホォッ
面白い話をして大笑いなんかしたら、むせこんでしまう。
あれ、高尾山ってなんか……思った以上にキツくない?日常生活で感じることのない、〝アキレス腱の伸び〟感じていた。顔を上げると目線の、はるか上の方に人が歩いてる!なにこれ、山やん!(当たり前)めっちゃ角度、急やん!
運動不足のあたしたちにとてはかなり過酷な道。ついに三人、無言に。じんわり……というかダラダラ汗が流れ落ちる。登って30分も経っていないのに、この運動量。先が思いやられるという言葉が、ふさわしい展開になってきた。

あたしたちは登っては休憩、登っては休憩を繰り返しながら足を進めて行った。なめてたわ、高尾山。
そう言えば……
「ちびまる子ちゃん」の遠足に行く話を思い出した。「後ろ向きに歩けば楽だ」とか「身体を前に倒すと勝手に足が出て、否応なしに進める」とかいうエピソード。あたしがまるちゃんと同じ年のころ、遠足で実践済みの技である。懐かしいし、是非やってみよう、ということで2つとも試してみた。
……うん、意外にいい。
とくに後ろ向き。アキレス腱への負担が軽減され、なんとなく楽に登れている気がする(あくまで個人的に)
……でも、なんか……ちょっと……周りの目が恥ずかしい。あ、あいつらちびまる子ちゃんやってるじゃん、そう東京人に思われてはしゃくだ。
ということで、前を向いて普通に歩くことに。
あたし、大人になった。

頑張って一時間くらい歩くと、見晴しのいい場所に来た。ロープウェイの終着点なんかがあるポイントだ。すこし開けた場所で、東京のビル群が見渡せる。遠く見えないところまで広がる人工的な建物に、東京って巨大な都市なんやな、と改めて感じた瞬間だった。

そう、ここまで来たら山登りは後半戦に突入。
そろそろ、吊り橋コースのある4号路への分岐点があるはず。
でも分岐点が見当たらない。
……あれ?どこ?もう過ぎた?……ってか、立て看板とか出てないの?
道に迷ったあたしはアイフォンのアプリ〝マップ〟を起動させ操作したが、東京のくせにまさかの圏外!(……まぁ、山だし)まったく役に立たなかった。やばいぞ。登山部部長たるもの、みんなを頂上へ導く義務があるのに!
駅前にあった案内板の地図を必死に思い出す。たしか、なんとかっていう門をくぐったら4号路の入り口があったはず。これではないかという門をくぐり、こちらではないかという方へ行ってみる。「ここから4号路・吊り橋コースです」とかいう決定的な看板がなかったので、ちょっぴり不安なまま前に進んでいく。
選んだ道は、舗装されておらず、でこぼこの山道で歩きにくい。しかもやたらと細い道で、その幅は1.5メートルほど。そんな細い道を下山客とすれ違うのはかなりスリリング。お互いに道を譲りあいながら、ちびちびと足を進める。

100メートルほど歩いて気が付いた……なんか下山客が多くない?と。現在時刻はAM11:00。まだまだ午前中なのに、頂上に向かう人より、降りてくる人の方が多いのだ。あれ?なんで?山登る人たちってめちゃめちゃ早起きなの?
疲れきった脳みそをフル回転させ、洞察力のダイヤルをMAXにして考えてみた。
……もしかして……これって、みんな……
引き返しているのでは?
実は4号路だと思って進んでいるこの道。そもそもコースなんかではなく、ただの山中の私道なんじゃ?……ってことは行きつく先は……民家だったりして。
そしてさらに不思議なことに、頂上に向かって登っているはずが、さっきから下り坂が続いている。……なんで?不思議と不安があたしを襲う。
でももう引き返せないくらい歩いたぞ。もう、こうなったら4号路だと信じるしかない。そんな葛藤のさなかに、私の目というレーダーが一つの建造物をとらえた。

……あ

……もしかして、アレ?

はいでましたー、吊り橋。
この道、ちゃんと4号路でした。チャンチャン♪
……それにしてもこの吊り橋。想像していたのと……なんか全然違うんやけど。
目の前の吊り橋は、割と小さくて吊り橋というほどの繊細さがなく、100人乗っても大丈夫なほど頑丈そうだ。
あたしの想像では……高さ50メートルくらいの高所で、下を見るとゴウゴウと流れる川が。手すりがロープ。歩くたびに橋が揺れてドキドキ。ちょっといたずらっ子の男子がわざと橋の上でジャンプしたりなんかして、女子が「きゃー揺らさないでー」で叫んだりする……なんかもっと、こう、スリリングで危うい吊り橋を思っていたのに……。「キャー怖い」とか言えないこの環境に、ちょっとがっかり。
15秒ほどで安全に渡りきって、また山道を歩き始めた。

皆黙々と登って2時間ほどたったころ。あたしたちはいつの間にか細い山道から、舗装された道に合流した。そろそろ頂上ではないか?と期待していると、なんか広場に出た。まぁ広場というには狭い感じなのだが、とにかく……なんやここ。もんのすごい人が地べたに座ってご飯を食べている。こないだ台風の時にテレビで見た、新宿駅の帰宅難民の映像が脳裏をよぎる。
人ごみをかき分け広場の中央にたどりつくと〝高尾山頂〟という文字を見つける。あたしたちが目指していたゴールはどうやらここのようだ。もっと見晴しのいい高台なのかと思っていた。しかし山頂での見晴らしの景色は……人の山であった。

なんとか3名が座れるスペースを見つけ、お弁当を広げた。
人がひしめき合う中ではあったが、ちょうど近くに綺麗に染まった紅葉の木があり、なかなかの特等席ではあったと思う。

少し話をして、下山の前にお手洗いに寄りたいね、って話になった。近くのトイレを借りようと行ってみると、思った通り列が出来ていた。「40分待ち」の張り紙。ここはディズニーランドか。
……待ち時間の短いトイレを探し、山頂付近をウロウロするあたしたち。なんとか空いてる公衆便所を発見することができたので大事に至らなかったが、このシーズンの登山には膀胱炎がつきものとなることを思い知らされた。

あとはもくもく下山である。今度は最もポピュラーな1号路を通って帰った。
登りよりは下りは楽。でも疲労というお土産を背負っているあたしたちの足取りは、そう軽くない。何か話しながら帰った気がするが正直言って、話した内容を覚えていない。ゆえに下山のエピソードが書けなくて、今非常に困っている。
……そういえば下山途中に神社があって寄ってみると、いろんな天狗がいた。が、どんな顔をしていたのかほとんど覚えていないが、どうやら名所のようだったので立ち寄れて良かったということだけ書いておこう。

朝にぐびっと飲んだ栄養ドリンクのパワーはもう使い果たしてゼロ。
リフトやロープウェイを使って降りることも、ひそかに検討したが「50分待ちです」のアナウンスを聞き、余力で降りる決意をした。最悪、寝転がってコロコロ転がれば、下まで行けるだろうとまで考えた。それくらい、あたしは疲労を抱え歩いていたのだ。

そして、何とか無事下山。
ふらふらとした足取りでお茶屋に入った。
糖分の威力はすごい。あんみつを食べた瞬間に脳みそがまたギュンギュン回り始める。すこし部長らしい発言でもしてしようと、今回の活動の総括をしてみた。
「みなさん、お疲れ様でした。今日はどうでしたか」
部員たちの顔には疲労の色がにじんでいる。
「それで……今後の登山部の活動ですが……」
あたしは、歩きすぎてパンパンのふくらはぎをさすりながら言った。

「……今後は……登山にとらわれない活動をしましょう」

部員たちが、ホッとした表情を浮かべる。そう、運動不足のあたしたちからすると、高尾山はちょっとレベルが高すぎた。ゆくゆくは富士山山頂……とか無謀なことを考えていたが、それは身の程知らずってやつだ。
「……これからは、山にとらわれることなく、ボーリングとかカラオケとか飲み会とか……みんなでワイワイできるレクリエーションを企画していきましょう」

……ということで、3回にわたって書いてきたこの〝東京登山部。〟やっとこさ終わりです。しばらく登山に行くことはなさそうなので、シリーズ化はできません。あしからず。
ではみなさま、よいお年を。

第8回 東京登山部。準備編


朝、目が覚めると、窓から差し込む日差しが眩しかった。
でも念のためにiPhoneのアプリで、天気予報を確認すると、〝秋晴れ晴天、レジャー日和〟と出た。
よかった。雨女だから心配していたが、今日は最高の天気になりそうだ。

顔を洗ったあたしは昨日のうちに選んでおいた服に袖を通す。ジーパンに、ロングTシャツ。そしてパーカーに帽子。山ガールに近づいていく自分を鏡の前でチェックし、にんまり。

しかし、残念だがリュックがない。購入する時間がなくて今回は見送ったのだ。
でもリュックがなくても大丈夫だろう。高尾山のことを調べてみると、両手を使う岩山でもないし、危険と隣り合わせの崖道もない。登山レベルとしてはかなりイージーな山らしい。別にリュックでなくても登れるそうだ。
あたしはいつもつかってるトートバックに荷物を詰め込んだ。
タオル、レジャーシート、お茶。
荷物は出来るだけ軽い方がいいと思って、必要最低限だけを詰め込んで行った。

次にお弁当作りに取り掛かった。
お弁当作りと言っても、おかずは前日の晩に作っておいたので、詰めるだけ。メニューは唐揚げとポテトサラダ。じゃこのお握りとゆかりのおにぎり。最後にウサギの形にリンゴを切って弁当箱に詰め、お弁当は完成! 山頂で食べたいものをイメージしたらこんなメニューになった。どうみても小学生の遠足のお弁当である。
お弁当箱は、いつも使っているのだったら愛想がない上に重いので、前日のうちに購入しておいた使い捨てのパックを使う。久しぶりに段取りよくできた自分に感動した瞬間だった。

そして朝9時すこし前。家を出て電車に乗った。

「高尾行き」の電車の車内。誰もあたしのことなんか見ていないのだろうが、なんとなく他人の目が気になってしまった。今日のあたしは頭の先から足の先まで、山ガールなのだ。
きっと車内の誰もがあたしを見てこう思ってるはず。
「ああ、あの子、高尾山に登るんだろうな」と。
だからなんなんだ、と読者の皆様は感じるだろうが、あたしはそーゆーのが嫌なのだ。

実はトラウマがある。
中学3年の修学旅行。東京ディズニーランドに行く道中、舞浜行の電車に乗っていた時のことだ。私服での旅行だったが、いかにも地方から来た修学旅行生ですってオーラを出していたあたしたち。同じ電車に乗車していた東京男子高校生がこちらを見てこんな会話をしていた。
「ふふ。どうせ、ディズニーランドにでも行くんじゃない?」
聞き慣れない東京弁が、相当の破壊力を持っていたというのもある。しかし、何となく小馬鹿にされたような気がしたのだ。完璧な被害妄想だろうが、思春期のあたしはなんだかムカついた。俺らは近所だからいつでも行けるけどー、と言ってるように聞こえたのだ。

そんなトラウマがあってか、どうも車内での視線に敏感になっているあたし。
周囲の「ふふ、どうせ高尾山にでも登るんじゃない?」という視線に対し、あたしもジーパンをはいた人やリュックを背負った人を見つけては「はっはーん、この人も登るんやな」「あの人、山っぽい顔をしてるやん」というリアクションで対抗しまくった。

しかし、それどころではなくなってきた。実は昨日、朝の5時まで原稿を書いていたうえに、張り切って早起きをしたので2時間しか寝ていないあたし。荷物を詰めたり、お弁当作ったりしているときはまだ良かったが、じっと電車に乗っていると、とてつもない眠気が襲ってくる。

やばい、山ガール風の格好をしているのに、車内で眠そうにしているなんて格好がつかない。山ガールたるもの、車窓の風景が町から山へ変わっていくのを楽しまなくてはならない。しかし、窓の外を見てもまぶたが落ちてくるので、眠気を紛らわすため音楽を聴くことにした。iPhoneを操作し、以前作っておいた〝元気の出る曲〟という名前のプレイリストを再生する。(プレイリストとは、自分で好きな音楽をまとめリスト化できる機能のこと)
ちなみにこの〝元気の出る曲〟というプレイリストの内容は非常に偏っていて、ドリカムの「何度でも」が5回流れたあとに、ミスチルの「fanfare」が1回流れ、終わるというものになっている。一年前に作ったこの〝元気が出る曲〟というプレイリスト。確かに元気がでる曲のチョイスだが、「何度でも」を5回も聞かせる理由が自分でもよくわからない。何度でもすぎるやろっ、と今更つっこんでみた。
たまに「自分は変な奴だな」と思うことがあるが、この日も電車に乗りながらそう確信し、気づけば眠気は覚めていた。

高尾山駅に到着。さすが行楽日和なだけあって、すごい登山客で溢れていた。

携帯電話をチェックすると、部員の一人から連絡が入っていた。
昨日行ったスマップのコンサートで疲労困憊になったうえに、今日も夕方からスマップのコンサートに行かないといけないので、登山は欠席したい、という内容だった。……あたしはアイドルのコンサートには行ったことがないが、たしかに黄色い声を出して団扇を振り続けるには相当な体力がいるだろう。もしかすると、山に登るよりもよっぽど健康になれるんじゃないだろうか。
ということで本日の参加部員は3人ということに。

集合時間よりちょっと早く来てしまったあたしは、売店で栄養ドリンクを購入した。さっき〝元気の出る曲〟を聞いて一瞬目が覚めたが、根本の疲労は取れていない。部員の集合を待ちつつ、ぐびっと栄養ドリンクのビンを傾けた。ほかの部員がやってくる前に、この空きビンをどこかに捨ててしまいたかったのだが……なんちゅーことだ。ゴミ箱がどこにもない。駅前をかなりウロウロして「ゴミは持ち帰りましょう」という看板は見つけたが、ゴミ箱は見つけられなかった。やっぱ、持ち帰るのか。せっかく荷物を減らしてきたのに、重たいビンをカバンの中にしまった。

そして、何故かその日は高尾山の駅前で「青少年健全育成キャンペーン」みたいなのが行われていて、同じ色のジャンバーを着たオジサマ、オバサマ方がなにかを配っていた。ポケットティッシュだと思ったあたしは、差し出された物を受け取った。観光地のトイレっていうのは、紙がないところが多いから、これはGETできて嬉しい。……と思って手の中を覗くと……まさかの綿棒である!
テ、ティッシュをくれ!
綿棒自体は嬉しいが、登山する前に受け取るアイテムではない。また荷物が一つ増えた。

しばらくしてHさん、Kさんがやってきた。少ない人数ではあるが全員集合。
まずは、高尾山駅の前にある登山案内の看板を見上げつつ、今日登るルートを確認した。
高尾山は頂上まで向かうコースがいくつもある。滝が見えるコースや、途中神社に寄れるコース。どのコースがいいんだろう、と首をひねるあたし。
そういえば……と前に交わした会話をふと思い出した。
「東京にきたら、高尾山に登ってみないと」と勧めた東京人の彼が言っていた気がする。「登るんだったら、湖が見えるコースが、キレーだよ」と。

湖の見えるコース……

さて、はて……。駅前の登山案内の看板を前に眉間にしわを寄せるあたし。
サル園、薬王院、展望台……見どころを示すイラストが描かれているが、湖のマークは見当たらない。滝の絵はある。コレのことか?
しかし、滝よりももっとワクワクするコースを見つけてしまった。

4号路:吊り橋コース

きゃー!(心の中の叫び)
あたし、こういうの大好き。山の中の吊り橋なんて素敵だし、第一こういうスリリングなのが大好物!幸い部員たちの中に高所恐怖症はおらず、みんなも大賛成。ということで、メインロードである1号路を登り、途中の分岐点で4号路に向かうというコースに決定!湖を進めてくれた東京人には悪いが、今回はこのコースで頂上を目指すことにしましょう!

レッツ、ゴー!

さっき飲んだ栄養ドリンクが効いてきたのか、寝不足のせいか変なテンションのあたし。興奮で息を弾ませ、登山口に向かった。
頭の中ではさっき聞いた「何度でも」がローテーションで駆け巡る。さすが〝元気の出る曲〟なだけある!

なんだか長く続いてしまった「東京登山部。」次回をお楽しみに。やっと山に登ります(笑)

第7回 東京登山部。結成編


「東京で観光って言ったらどこですか?」
大阪から上京したてのあたしが尋ねると、とある東京人がこう言った。
「東京に来たらまず、高尾山に登ってみないと」

……。

……。

……都会に出てきたのに、なんで山登らなあかんねん!

そうは思っていたが、親切に教えてくれた手前「へー行ってみたいですぅ~」と、いかにも興味を示したように振る舞った。

だって山になんてほんとに興味がなかった。東京に来たからには、渋谷で買い物したり、銀座あたりの高級なカフェでお茶したりしてみたい。なんでわざわざ山に行かにゃならんのだ。
しかしこの数か月後、自らの意志で「山に登りたい」思うようになる。

ところで東京に来てからのあたしは、
……かなり不健康だ。

とにかく、自分でも自覚があるのが、コレ。
運動不足。
東京に来てからというもの、運動・スポーツをする機会なんて、まぁまずない。毎日毎日座り仕事なので、寝てるか座ってるか、で一日が過ぎていく。そんなだから筋力が異様に落ちてきた。10回は余裕できた腕立て伏せも、今は3回でギブアップ。
筋力だけではない。こないだ、駆け込み乗車をするためにちょっと走ってみたとき。(駆け込み乗車をするな、と突っ込まないでね)階段を何段か駆け登っただけで、心臓がバクバクし、乱れた呼吸がもとに戻らなくなった。倒れてしまうんではないかと思ったほどだ。つまり本当に身体がなまってきているのだ。

そして不健康の要因、その2はコレ。
暴飲暴食。
いやぁ~、一人分の料理って難しいのよね。さじ加減が分からなくて、ついつい作りすぎちゃう。大抵余ってしまうが、「もったいないから食べちゃうか」の精神で、鍋を綺麗に空っぽにしてしまうのが最近の日課に。(翌日食べろよ、とか突っ込まないでね)そんな毎日を続けていると、いつのまにか胃袋が膨張し、かなりの大食い娘になってしまった。そして思わぬ副産物として、お腹の周りにムチムチとした脂肪が……。

……嗚呼、これはいかん!健康にならないと!
曲がりなりにも20代。若々しく元気に生きたい。しかしながら、三日坊主のあたし。ジョギングするぞ、そう思うことは毎日あっても実際走ったことは一度もない。食事制限のダイエットなんかも、もちろん無理……。
さてどうするか……。

そんなことを考えながら中央線の電車に乗ると、聞こえてきたアナウンスはこれだ
「この電車はぁ~、高尾行きぃ~、高尾行きです」
……タカオ。記憶の奥の方にしまっていた〝タカオ〟という山。そしてその後、運命的に、電車の車内にある液晶テレビの広告が目に留まった。

紅葉の落ち葉舞う、美しい山の風景。「高尾山に行こう。」の文字。

これだ!とすぐに思った。
――山に登って健康になろう!
イメージがすぐに沸いてきた。……鳥のさえずり、木々の木漏れ日、澄んだ空気。さわやかな汗をかいて山を登るあたし。そう、山ガールってやつだ。

山ガールになる決心をしたあたし。
形から入るのはダメだと分かってはいるが、まずはスニーカーを買いに行った。実はあたし靴はサンダルとか、パンプスしかもっていない。このあたりから、あたしが普段いかに運動していないかというのが分かると思う。
靴を買いに、近所の商店街の靴屋さんに行った。
スニーカーを買うなんて10年ぶりかもしれない。いや、ほんと冗談抜きで。久しぶりに買うので、どういうスニーカーが自分にあっているのかがよく分からない。普段ヒールのパンプスを履いているあたしからしたら、スニーカーはどれも履きやすいし楽だ。結局1時間くらい試履きをして、お値段と相談し、ナイキの黒いスニーカーを選んだ。

次はメンバー集めである。さすがに一人で登る勇気はなかった。うっかり足を踏み外して転落したら……遭難してしまったら……そんなことを考えあたしは一緒に山に登ってくれる仲間を探すことに。
何人かに声を掛ける。「山に登らない?」「高尾山に登らない?」と。

余談だが、「高尾山(タカオサン)に登らない?」と何度も言っていると、気づかぬうちにいつの間にか「高野山(コウヤサン)に登らない?」と言っていた。大阪に住んでいたあたしは高野山(和歌山にある仏教の聖地)の名前の方がなじみが深かったようだ。
「修行に行くつもり?」と笑われてしまった。

声を掛けていると、ある一人の女の子の発言が引っかかった。
「山登りは嫌だ。でも高尾山はいいよ」
……ん?んんん?
どういう風に解釈すればいいのだ?高尾山は山登りではないのか??
話を詳しく聞く。高尾さんはすごい人気スポットで、観光客がいっぱいいるらしい。ロープウェイとか、リフト、極めつけにビアガーデンまであるらしい。
……もしかして高尾山は、ただの観光地?
私が抱いていた〝山〟のイメージがバラバラと崩れ落ちる。
果たして頂上まで行って〝健康〟は手に入るか、という疑問がわいてきた。
ビール飲んでプハーって、それはあたしのイメージする〝健康〟とは程遠いような気がする。
しかし何人かに声を掛けたし、家には新品のスニーカーが待機している。もう後には引けない。

第6回 電車にうまく乗れない その2


もしも、入学試験にこんな問題が出たら、あたしは受験に失敗してしまうことだろう。

【問1】
中央線と総武線の違いを述べよ。

なんて難易度が高い問題なんだ……!
ちなみにあたしは高円寺に住んで半年たつ。毎日のように利用しているのだが、この二つの線路の違いが分かっていない。
悩んだ末に、回答欄にはこう書くことだろう。

【回答】
中央線→オレンジ色の電車(割と早い)
総武線→黄色い電車(遅い)

今回は「中央線」「総武線」の違いが分からない、という記事を書こうと思っている。しかし、今書きながら「ネタ選びに失敗した」と後悔している。
「なにが分からないのか」すら分からないのである!
分からない点が漠然としていて、何を書いたらいいのか分からない……!
これは、困った!

電車の違いについては詳しく語れないので(むしろ誰かに熱く語ってほしい!)あたしの東京電車ライフの話をしよう。

新宿から我が町高円寺まで帰るとき、できるだけ中央線に乗るようにしている。「場合によっては総武線が早いよ」と阿佐ヶ谷の友人が教えてくれたが、この「場合」というのが良く分からない。一度「発車時間が早いから」と思って総武線に乗ってみたら、それは「中野止まり」で結局中野で乗り換え。いつもだったら新宿→高円寺まで6分なのに、15分もかかってしまった。

この「中野駅」というのが、なかなかよく分からない駅だ。
(ちなみに東京住まいではない人に説明すると、中野と高円寺は隣同士の駅。電車で2分ほどの短い距離である)
中野で買い物したり、中野のTSUTAYAに行ったりと、割と利用することが多い中野駅。
で、帰り。一駅先の高円寺まで帰ろうと思うのだが、ええっと、どうしたものか。……何番線のどの電車に乗ったらいいのかがまったく分からない。
中野駅は全部で8つもホームがある。中央線、総武線のほかに、東京メトロ東西線も通っている。東京メトロは高円寺には止まらないので、このブルーの電車には乗ってはいけないという知識は一応ある。

分からない時は、彼の登場だ。
〝乗換案内〟先生だ!
まるでドコモのCМの渡辺謙のように私に付き添ってくれている、カレ。
出発駅「中野」到着駅「高円寺」と入力すると「●○分初」の中央線高尾行きに乗れと優しく教えてくれる。中央線は一番端のホームでちょっと遠い。
時計を見ると、時計の針は今まさに「●○分」を指している。
頭上の方から電車がホームに入る音。

……〝乗換案内〟先生は時にスパルタです。

あたしはダッシュで階段を駆け上がる。そんな努力むなしく電車は●○分ちょうどに発車。ハアハア……。乗れなかった……。ハアハア……そりゃ階段ダッシュさせられちゃ、息も切れるわ。
乗換案内は〝現在時刻出発〟で検索すると、ほんとに現在時刻で結果表示しはります。このへんが融通聞かない。頭固いな。

●○分初の電車を見送ってしまったので、もう一度乗換案内検索を検索。すると先生は「◆◇分初の」総武線三鷹行きに乗れと仰る。時計を見る。今度は大丈夫。「◆◇分」にはまだ5分ほど時間がある。しかし、総武線ということはホームが違うやないか。さっき駆け上がった階段をトボトボ降りる。
何番線に乗ればいいのかが分からないので、電光掲示板を見に行く。確認して、またホームに続く階段を上がる。なんかこの作業が……むなしい。さっきも階段上ったばっかり。
なんかこの振り回されてる感が、イヤ。

で、5分ほど待っていると、ホームに電車がやってきた。やっとかー。とベンチから腰を上げる。
しかし……やってきた電車を見てびっくり。

……ブルーの電車だ。

ここは総武線(黄色)のホーム。何故、東西線(ブルー)の電車が……?
さっきも言ったが、東西線は高円寺に止まらない電車だ。乗っちゃいけないという知識だけはある。でもそのブルーの電車は「三鷹行き」と書いてある。どうも、乗換案内先生が指示した電車のようだ。
……乗るべきか、乗らざるべきか。

迷っているうちに、扉が閉まる。
高円寺方面に走っていく、ブルーの電車。見送ったとたんに、乗れば良かったと後悔。

そしてもう一度、乗換案内先生に尋ねます。高円寺に帰りたいのですが、どうすればいいのですか、と。
隣の駅なのに……たった一駅乗りたいだけなのに、なんでこんなに振り回されるのでしょうか。普段なら2分で着くところ、結果何故か15分も足止め。

……どっと疲れました。

恐るべし、中野駅。
歩いて帰った方が早いんちゃうかな?