第29回 青山に着て行く服で迷う


 

 

高校時代の先輩が結婚するということで、二次会に招待いただいた。
新婦の先輩は現役の女優さんでとても綺麗な方、そして旦那さんも業界の方らしい。パーティ前夜、いったいどんなところが会場なのかなと住所を確認。息を飲んだ。

〝東京都港区南青山▲-☆-◆〟

……あ、青山でございますか!!
住所に〝青山〟とついてるだけなのに、なんかオサレ感が漂っている。
絶対普段行かないようなお洒落なお店に違いない、と会場となるお店の名前をパソコンに入力し検索ボタンを押した。現れる洗練されたHP。むむう。
そこはレストランでもなくカフェでもなく、いわゆる〝クラブラウンジ〟といわれる場所だった。しかもそのお店、キャッチフレーズが

「パリの高級クラブが東京に」
んまあ!
大阪コテコテガールには敷居高すぎる気がするんですけど!田舎もん丸出しで周りから浮くのは嫌だ!
いったい何を着て行けば?!とあたしはタンスの中をひっくり返した。

青山って何度か通ったことがあるけど、それはそれはオサレなところだと記憶している。
なんだか高級なブティックが並んでいて、あたしの読んでる赤文字系ファッション誌にはとうてい出てこない、ハイソなブランドのお店ばっかり。お店の中に入ったことがないのでお値段がどれほどなのかは分からないけど、パルコやマルイとは違い大体どのお店もお客さんは少なく(お客がいたとしても、ハリウッドセレブのような恰好をしている人が大半)きっと運悪く何かの間違いで入店してしまったら、とても売り上手な店員さんに掴まり、何か物を買うまで外に出れない雰囲気になり、そのお店の最低価格品の1万円のタンクトップとか買ってしまいそう。

そして青山は、アパレルショップ以外にもカリスマ美容師がいる高級ヘアサロン(カット8000円とかだろう)があったり、間接照明を使いまくってやたらとスタイリッシュなカフェ(コーヒー一杯いくらするんだろう)とかがある。
そして青山を歩いている人たちもまた洗練されたファッションで、いわゆるモード系の服をに身を包んでいる人たちが多い。ジャージやサンダルの人は間違いなくいない。スッピンでちょっとコンビニまで♪とかも無理そうだから、絶対に青山には住めない。まぁ家賃高いから住めないケド。

さあ、そんな青山にある高級クラブラウンジに行くとなれば、かなり張り切らないといけない。あたしは念入りに服を選ぶことにした。

まずはドレス選びだ。あたしはクローゼットを開け衣装ケースの中をまさぐって、パーティドレスになりそうなワンピースたちを引っ張り出した。安物だけど、ドレスは何着か持っている。
明らかに夏物だな、というドレスは外し、候補は三着に絞られた。

一着目。黒の切り替えワンピース。清楚系で、胸の下あたりからフワッとスカートが広がっているので、とにかくどんなに食べてもお腹のポッコリが目立たないというメリットから、結婚式とあらばこの服を使っている。
早速ワンピースに袖を通し、どんなもんかと鏡の前に立ってみた。
ううーん。
この服って、青山系というより神戸系ってかんじ。清楚なお嬢様って雰囲気で、ピアノの発表会に向いてそう。まあピアノなんて弾けないけど。膝丈のスカートも、なんだか守りに入ってる感がある。
悪くないけど、これは……青山じゃない。

と言うことで二着目。茶色のガーリー系ワンピース。
袖が丸くてちょっぴり少女趣味だけど、色が秋っぽくていいかな、なんて思って着てみた。
ツイードっぽい厚めのしっかりした生地。スカートのすそは膝上10センチはあるので割とミニめで、黒のワンピースより攻めに入ってる感じで良い。シンプルなワンピースだから、パールのネックレスやらカチューシャなんかを装着して鏡の前に立って見る。
……あ。
……なんか、田舎もんが頑張って着飾ってる感じ。
アクセサリーをごてごてとつけたのが悪かった。でもそれ以上に、この厚手の茶色い生地が田舎くさい……。
だめ、これじゃ青山には出掛けらんない。即、ワンピ、脱ぐ。

最後、三着目。
青色のマーメイド型ワンピース。
これは、ノースリーブで肩出しだし、スカート膝上15センチだしかなりセクシーな感じだぞ。このドレスに、白のふわふわファーマフラーを合わせて……、鏡の前に立ってみる。
……おー!
これだったら青山に行けるかも!!
シンデレラが魔法でドレスを手に入れた時の気持ちがよく分かった。
ほどよく色気が出てるし、それに、生地のペラペラ感がいいっ!!!茶色の厚手生地のワンピを着たあとだからか、このペラペランのテロンテロン感がなんか都会っぽく思えた。
でも実はこれ、フォーエバー21で買ったワンピで2990円。青山に行くドレスにしては一桁足りない気がする。でもタグが見えるわけじゃないしね。
ということで、パーティドレスはこの青色のマーメイドドレスに、大、決定。

当日。
前夜に選んだワンピースに袖を通したあたしは、いつもより時間をかけて化粧をして、ツケマまでつけて、そして髪の毛をひとまとめにアップにした。香水を持っていないあたしはドレスに、CMの石原さとみのように「しゅしゅしゅしゅと」フレアフレグランスをふりかけてから会場に向かう。

結婚式の二次会の会場は、想像通りオサレなところだった。
地下に設けられたお店は、店内照明が赤くてなんだか妖艶な空気。そしてクラブなだけあって、ガンガンに音楽が鳴り響いている。会場中央にはポールダンス用のバーがあるのだが、普段このお店ではそういう演目もやっているのだろう。
クラブなんて生まれてこのかた来たことのないあたしは、とにかく場所に浮かないように、エレガンスに振る舞うので必死だった。
一緒に行った友人と、久々の再会を喜びながら、彼女のドレスもまたテロンテロン系なのにホッとする。女性招待客のほとんどはテロンテロンの服を着た人ばかりで、このドレスを選んで良かったと確信した。

そして結婚式二次会のパーティが開始。
普段からお綺麗な先輩だけど、真白のウエディングドレスを着た先輩はそれはもうめちゃくちゃ綺麗だった。新郎新婦、仲良さそうな二人に目を細め、美味しいお酒をチビチビと飲んでいると……突然会場が怪しい空気に包まれた。

開場の隅から、突如出てくる下着姿のセクシー美女。
ミラーボールが光り出し、恥ずかしくなるほどのエロい曲と共に、会場の中央のバーにて、美女によるポールダンスが始まった。
生まれて初めてみるポールダンス。
セ、セクシーすぎる!お、開脚!?

ビックリするくらいに妖艶なダンスに目を背けることはもはやできず、思春期の中学生がエッチな本を見るかのように目が離せず凝視してしまった。

とんでもない洗礼を受けたあたし。
青山、思っていたよりスゲェ街だ……。

☆私伝言☆
M先輩、ご結婚本当におめでとうございます!
ポールダンスにはビックリしたけど、楽しいパーティでした♪

第28回 池袋でオアシスを探せ?


 

 

さて今回は「第27回 いけふくろうを探せ」の続きである。

友人Sちゃんによって池袋系女子と勝手に分類されたあたしは、よく知らない街池袋にて、待ち合わせのメッカ「いけふくろう」を探していた。

すると、今から「いけふくろう」に向かうと言う男子中学生たち5人組が!こっそり彼らの後をつけながら、地下道を歩いていた。

 

さすが土曜の午後とあって、池袋の地下道は人でごった返している。

流れの速い雑踏の中、彼らの背中を見失わないようにして歩いていると、その中ひとりの男子が一方を指でさした。

「お、なんかさ……☆◆○※?」

なにを言ってるのかは分からなかったけど、彼の指の先に注目する。なんだか妙に人が群れて立っているぞ。……ん、よく見るとその群れの奥の方に、金属の手すりで小さく囲われた石のかたまりが……。

 

まさか、これが……?

 

 

いけふくろう?

 

 

……さ、冴えない。

 

 

ここ、さっきからあたし何回も通り過ぎたし。それで気付かないってどんだけの存在感?待ち合わせ場所だと聞いていたので、もっと広い広場を想像していた。そしてその中央に堂々たるふくろうがそびえたっているのかと……。

でも実際のいけふくろうは、人が行き交う狭い地下通路に置かれた「石」だった。像のフォルムはというと、ずんぐりむっくりな胴体。「たまたま削ったらふくろうっぽい形になったので、ちょちょっと目と口もつけてみましたー」という感じの、荒削り感。

あたしが予想していた、翼を広げ今にも飛び立ちそうな緊張感……はどこにもなく、岩の上にででーんと座っているふくろうが、やや左向きでドヤ顔しているようにも見える。そして左側前方に三匹の子分ふくろう(?)を従えていた。

 

エッセイのネタとして後で記事にするために、あたしはアイフォンを取り出しカメラを起動させる。いつもこうやって、あとあとの為に写真を撮るのだけど、実はこのカメラを構える瞬間が一番恥ずかしい。

 

「うわ、あの人、いけふくろうなんか撮ってんじゃん?」

「いけふくろうが珍しく感じるなんて、ウケる~」

「どっか田舎から出てきたんじゃね?」

 

 

そういう声が聞こえてくる気がするのだ(被害妄想)。

だって地元の人たちはいけふくろうの写真なんかとらないだろうから(あたしだって大阪にいたころは、難波のグリコの看板なんか撮らなかったし)写真を撮ろうとしているあたしは、周りから見ればお上りさん全開だ。

あたしはアイフォンから発せられる「カシャリ」とシャッター音が周りに聞こえないように、スピーカーの部分を指で抑えながら写真を撮った。

 

 

 

 

池袋と言えば「池袋ウエストゲートパーク」だ。

東京人からは笑われそうだが、東京をよく知らない大阪人は池袋に対してそんくらいの知識しか持っていない。

しかしここまで断言しておいてなんだが、あたし石田衣良さんの小説も読んだことないし、実はテレビドラマも……見てない!どっひゃーん!

 

いけふくろう捜索を終えたあたしは、次の目的地を「池袋ウエストゲートパーク」の舞台となった「池袋西口公園」通称「IWGP」に決めた。

池袋訪問二回目のあたし、もちろんIWGPがどんなところなのかも知らない。

 

うん、たぶんそれなりに大きい公園だろう。

都会のオアシス、大人たちの憩いの場ってやつだろう。

大阪でいう「靭公園」みたいな。

緑に囲われたひっそりと静かな公園。木の下のベンチで午後の穏やかな木漏れ日を浴び、綺麗なお姉さんがトイプードルを散歩させているのを見ながら、カフェラッテでも飲もうかな。IWGPへの期待が高まったあたしは都会のオアシスへ向け、足を速めた。途中自販機でカフェラッテを買う。

でも想像していたIWGPは、そこにはなかった。

 

 

だだっぴろい広場。

それが、I、W、G、P。

 

 

優雅にお茶ができるようなベンチや、生い茂る木々、そして午後の木洩れ陽なんてどこにもない。っていうか現在時刻・夕方5時。もう日が沈みそうなこの時間に、木々の木漏れ日を期待したのがバカだった。

そこにあるのは、水の出ていない噴水と、芸術的(すぎてよくわからない)オブジェ。そして円形広場にぐるりと設置されたベンチのようでベンチでない鉄の太いパイプに座り、何となく時間を潰しているおっさんたち。

 

あれ?

都会のオアシス、どこ?

あたしは熱々の缶コーヒーを手に握り、パイプに座るおじさんたちの視線を集めながら円形広場のそのど真ん中を突っ切り、静かに公園を立ち去った。

木の生えていない公園もあるのだな、とIWGPにて学習する。

 

 

IWGPを後にし、缶コーヒーを持ったあたしは途方に暮れた。いけふくろう捜索で疲れた足はパンパンになっている。早くどこかで足を休めたい……。

こういうときはアイフォン先生にご指示を頂くとするか。とディスプレーを優しく人差し指で撫で、地図アプリを起動。

お、なんと!IWGPから少し歩いたところにもう一つ公園「西池袋公園」があるらしい。「池袋西口」「西池袋公園」だから「WIP」?なんて考えながら、そこで缶コーヒーを飲むことにしようと、芸術劇場を抜けずいずい西に進んでいった。

日が暮れ、人通りも少なくなってきて、ちょっぴり心細さを感じていると、うっそうと木が生い茂る公園が見えてきた。

これが、もしや「西池袋公園」?敷地内へ入ってみる。

 

いやー。

これまた、やられた。

行った時刻がまずかったのかな……。

 

人気のない電燈の怪しい光に照らしだされた公園。

そろりそろりと入ると、まずあたしを迎えてくれたのは公園の隅に設置された小さなキャンプ用のテントだった。……の、野宿者?

公園野宿者にビクビクしながら足を進めると、3人の男の人たちが駅の方を見つめながら花壇の端に座っていた。なんの待ち合わせ?

そしてそんな怪しい男たちを見張るように遊具の周りを、制服を着た警察官が2人ほど、目を光らせてパトロールをしている。

なんか怖いんすけど、ここ。

座れるベンチを見つけたけど、ゆっくり落ち着けるわけもなく……。

あたしはパトロール中の警察官に怪しい人物と目を付けられぬよう細心の注意を払いながら、公園を脱出した。

都会のオアシスはここにもなかった。

 

 

すっかり冷え切った缶コーヒーを手に持ったまま、結局駅前に戻ってきてしまった。

池袋の公園……休まらねえ。

オアシスなんて、どこにもねえ。

 

疲れた足でふらふらと西口付近を歩いていると、なんと偶然にも緑色のふくろう三匹を発見。植物で覆われた巨大な像は「えんちゃん」という名前がついていて、いけふくろうに比べると随分キャラクター化されてて可愛い。しかも「えんちゃん」の足を触るといいことがおきると言う縁起付き!お前はビリケンさんか、っとツッコミたくなった。

 

 

結局、あたしは三匹のえんちゃん像を見ながらコーヒー・ブレイクをすることにした。

一息入れつつアイフォンで調べものをする。

なんと池袋には何匹ものふくろうのオブジェがあるらしい。

あたしが「いけふくろう」像として思い描いていた、羽ばたいてるリアルなふくろうも街のどこかにいるらしい。そういや、ふくろうの形をした派出所もあったし、どこまでも「ふくろう」推しの街なのだな。

 

よし、次回は「ふくろう探しオリエンテーリング」だ!

第27回 いけふくろうを探せ!


 

 

「ととちゃんは池袋系だよね」

と東京在住の友人Sちゃんに言われ、戸惑いを隠せなかった。
「池袋系」ってなんだ?原宿系、渋谷系なら分かるけど、池袋系って……。
池袋に一度も行ったことのなかったあたしは、そこがどんな街なのか、どんなジャンルの人が歩いているのかも見当つかない。
でもなんとなくパッとしない感はある。
「青山系」とか言われたかった……。

そういうSちゃんはいつも、いちごやさくらんぼがプリントされたラブリーなワンピースを着ていて、フェミニン全開・毎日乙女大放出である。池袋系と分類されてしまったあたしは「あんたはいったい何系なん?」と逆にツッコミたくなったが、その前に未知の街・池袋に行って自分の立ち位置を知ることにした。

池袋といえば……
・サンシャインシティ
・いけふくろう
・池袋ウエストゲートパーク
・治安が悪い?
・埼玉県民が多いらしい
これがあたしの勝手なイメージ。はは、池袋系女子として嬉しい響きがひとつも何もないぞ。

初めて池袋に降り立ったのは今年の1月某日。
ちょうどたまたま大阪から来ていた友人Eに「池袋系と言われた」という話をすると「じゃあ、その街を見に行ってみよう」という話になったので行ってみた。でもその日は、Eの新幹線の出発時間が迫っていて、あまり時間がなかったので、サンシャインシティをざっくり回るだけだった。

サンシャインシティは、ショッピングモール、水族館、プラネタリウム、展望台……なんでもあって一日遊べそうな大きなアミューズメントビルだった。その全部を回ったわけではないけれど、サンシャインという場所の空気はなんとなくわかった。

とにかく、
なーんでも有り。

客層は老若男女様々で、幅広い人に受け入れられている感。なんとなく漂う「地元」風の空気。高級すぎない庶民感?
「池袋系」=誰にでも親しみやすい。と、良い風に無理やり定義づけ、その日は池袋を後にした。

10月某日。池袋リベンジ。
前回の訪問からだいぶと月日が経ってしまったが(池袋系として失格か)、また行ってみることにした。

そう言えば先日、とある雑誌のとあるワンコーナーで「東京デビューでたどり着けなかったところランキング」というのを見かけた。

1位 ハチ公の銅像
2位 アルタ前
3位 いけふくろう

とある。池袋の待ち合わせのメッカ「いけふくろう」が堂々の3位にランクイン!
……そういやあたし、いけふくろう見たことない。池袋系としてなんたることか!
ということで、池袋再訪問の目的は「待ち合わせでもなんでもないけど、いけふくろうに行ってみる」となった。

ウワサに聞いたところによると「いけふくろう」は駅の施設内、地下にいるらしい。
改札を出たあたしは、小学校の林間学校のオリエンテーリングをなんとなく思い出しながら、人ごみの中「いけふくろう」捜索を始めた。

「いけふくろう」の写真すら見たことないあたしは、それが大きいのか小さいのか、石像なのか銅像なのかはたまたガラス製なのか、キャラクター化されているのかアーティスティックなモニュメントなのか、飛んでいるのか座っているのか、すら知らない。
あたしの予想では、渋谷のハチ公像くらいの大きさの銅像で、やや高めの台に両方の翼を大きく開き、鋭い眼球、今にも飛び立ちそうな迫力。そんな野生のふくろうをイメージしていた。

しかし、いけふくろう……どこを探しても見当たらない。
改札出たらすぐと聞いていたのに、もうすでに地下街を30分は歩き回っている。
……まあ途中色々と、百貨店のスイーツコーナーを覗いたり、パルコの地下1階の靴屋さんを覗いたり、アップルロード、オレンジロードというネーミングに笑ったりしてしまったので、こんなに時間がかかっているのだが……それにしても、ないよ、ない!駅のいたるところに貼ってある、構内見取り図を見るけど、どこにも載ってないし、いない。
さすが「東京デビューでたどり着けなかったところランキング」の3位だなだけある。難易度高いぜ。

最初は「いけふくろう」探しにワクワクしていたあたしも、さすがに足がパンパン、少々うんざり気味になってきた。
ああ、こうなったら最後の手段か。
観光客を装って「いけふくろうはどこですか?」と誰かに聞いてみよう。
渋谷系女子が「109ってドコォ?」と聞くのがダサいように、池袋系のあたしが「いけふくろうってどこ?」と聞くのは少々気後れしていたのだが、もう仕方がない。
誰に聞こうかとキョロキョロしていたその時……中学生らしき男子5人グループが向こうからやってきて、あたしとすれ違うときにこう言った。

「あ、そうだ、いけふくろうに○×※△……」

最後の部分が聞こえなかったが「いけふくろうに……」と言った!
坊やたち、「いけふくろう」、行くの?!
5人の中学生の背中が、ものすごく頼もしく見える。あたしは歩いていた方向を180度転身させ、彼らのすぐうしろにぴったりとつき、行動を共にした。
周りから、中学生を追っかける怪しい女に見られてなかったらいいけど。

さて、そんなあたしは、果たして「いけふくろう」にたどり着けるのでしょうか。
長くなってしまったので次回に続く。

第26回 ヒトカラと椎名林檎


 

 

 

「あー、カラオケ行きてー」

 

仕事のストレスが溜まりに溜まったある夜、ひとりで暗い夜道を歩きながら呟いた。

無性に歌いたい。

しかし現在時刻、深夜0時。そして間違いなく今日も明日も平日だ。

この時間からカラオケに付き合ってくれそうなフリーランスの夜型の友人を探したけれど、東京にはまだそんな友達がいない……。

 

ひとりカラオケ……するか……?

 

ファミレス、カフェ、映画……あたしは結構おひとりさま行動が好きなのだけど……カラオケだけは未体験だ。部屋でひとりで盛り上がっている図を想像すると、なんか恥ずかしくなってくる。

でもどーしてもカラオケに行きたい。歌いまくってこの体中に溜め込んだストレスを開放したい、いま、すぐにっ!

 

 

ということで、駅前にある「カラオケ館」通称カラ館に向かった。

ちなみに大阪のみなさん、大阪では圧倒的に幅をきかせている「ジャンボカラオケ広場」通称ジャンカラは、東京にはございません。丸い笑った顔にマイクを持った手がついてるあのマスコットキャラクター(?)と瓜二つの「歌広場」と言うカラオケ屋さんが東京にはあるけれど、あれはジャンカラとは別ものです。ジャンカラの携帯クーポン10パーセント割引は使えないのでご注意を!!

 

 

「カラオケ館」にはなんと「ひとりカラオケ専用ルーム」というのがある。東京先行で始まったシステムみたいで、今は徐々に関西や他の地区にも増えてきているらしい。

受付で「何名様ですか?」「ひとりです」と答えるのもひとりカラオケの恥ずかしさだと思っていたけど、これなら堂々と入れる。

受付をちゃっちゃと済ませ、私はひとりカラオケ専用ルームに向かった。

 

 

「・・・・・・・おお~」

 

指定された部屋の扉を開け、私は呆然。

ひとりカラオケ専用ルームは、普通の部屋とは一味違った。

1畳半くらいの横長の小さい部屋で(狭い!)、扉や壁や空気が他の部屋とは違い、どこかレコーディングスタジオみたいな雰囲気が漂っている。カラオケ機材も全然違うくて、吊り型のコンデンサーマイク、その前には丸いポップフィルター、そしてプロも使っているというモニター用のヘッドフォンを受付でレンタルして使う(レンタル代300円は別料金)。

そう、この部屋にはスピーカーがない!

自分の歌声がヘッドフォンから聞こえてくるという、レコーディングスタイル!ナルシシズムに浸れるルームにあたしは大感激!

 

しかし、あたしは受付で借りたヘッドフォンを握りしめ、しばらく入り口にたたずんでいた。

 

……なんかよくわからん。

 

機械がいっぱい。つまみがいっぱい。小っちゃい穴がいっぱい。ええっと、どれにヘッドフォンをさせばいいの?

途方に暮れかけていたその時、

部屋の隅にある小さな勉強机のようなテーブルの上に「困ったときにはこれを見よ!!!」と言わんばかりにファイルが置いてあった。どうやらこの部屋の使用説明書のようだ。

ファイルをめくると……このマイクがいかに高性能だとか、このヘッドフォンはプロ仕様でどれほどのものかとか、うんちくがいっぱい!こちとら早く歌いたいんだよー、とイライラしてきたところで……やっと歌うまでのプロセスが書かれてあった。

指示された通りに準備をして、ヘッドフォンを頭に装着!

 

「あ~、ああ~」

マイクに向かって声を出してみる。

自分が話した声が、すぐ耳元で囁かれているかのようにヘッドフォンから聞こえる。

・・・・・・・・・おおー、これは面白い!!

テープに録音した声を聞くように「自分の声ではないような自分の声」を聞くのはなかなか愉快だ!

っていうか、ヘッドフォンから聞こえてくるのは自分の声だけじゃない。部屋の中の音、すべてがヘッドフォンから聞こえてくる。椅子を引く音、お茶を飲むときのグビグビ、鼻が詰まってスピースピーしてる音、リモコンで選曲するときのピピピ、大きな音から小さい音まですべてヘッドフォンから聞こえるのだ!

 

「オモチローーーイ!!!」

 

とマイクに向かって思いっきり叫んだ。

深夜12時過ぎ。小さなカラオケボックスにてあたしのテンションは上最高潮に!

 

 

ではでは、早速、唄ってみましょう♪

せっかくだから、なんかどっぷり浸れるバラードがいいな。

ということで一曲目は……HYの「366日」に。

 

「♪それでもい~い……ふふふふ。それでもいいと思える恋だった~。はははは!」

 

自分の歌声がヘッドフォンから聞こえてくる……それがおかしくておかしくて、笑えて歌えない。そりゃもう歌手になった気分だけど……これ、全然浸れないし!!あはははははは!

と一曲目。笑い過ぎたせいでほとんど歌えないまま、曲は終わった。

 

そのあと何曲か歌ってるとヘッドフォンからの声にもようやく慣れることができた。

あたしはマニアックなアニソンやら山本リンダやら、森高千里やら、尾崎豊やら、普段友達の前では歌えないやつを歌いまくった。

バラード続きでも、おんなじ曲を何回歌っても、誰にもとがめられることはないし、気を使うこともない!

これが「ヒトカラ」の醍醐味かー!!!と、その楽しさを存分に味わった。

 

 

深夜2時ごろ。

あたしのテンションは上がりっぱなしでちっとも勢いは衰えず、そろそろ「あのへん」いっとくかーと、リモコンを操作し曲を入れた。

 

 

椎名林檎「丸の内サディスティック」

 

 

椎名林檎そして彼女がボーカルのバンド東京事変ってなんだか「THE・TOKYO!」って感じがする。

上京したての頃、渋谷のスクランブル交差点のモニターで東京事変のPVが流れてて「これが東京なんやなぁ~」と興奮した思い出があるからだろうか。

それに椎名林檎も東京事変も、歌詞に「歌舞伎町」「新宿」「後楽園」「銀座」なんて地名がいっぱい入ってるのが、また東京っぽい。

 

 

「♪終電で帰るってば 池袋~」

 

 

大阪に住んでるときは、東京の街の事をほとんど知らなかったし、歌詞を聞いていてもどんな街なのかいまいちピンと来てなかった。それどころか異国の遠い場所のような気がしていた。

 

でも今は分かる。

終電で帰ると言っている池袋がどんな街なのか。もしかしてそっから私鉄に乗り換え?とか。

「新宿は豪雨」うわー。人も多いし、その上豪雨とか最悪だろうなー、とか。

「JR新宿駅の東口を出たら」……アルタとかあるよな~、とか。

「銀座で警官ごっこ」コスプレパブ的な?とか。

 

いやー、分かるようになってきたんだなー、東京。

異国の街だと思っていた場所に、あたし住んでんだなー……なんて、なんだかしみじみしちゃった。

 

 

結局3時間歌って、あとの2時間はルーム内で仕事して、明けがた5時に店を出た。

うっすら明るくなりはじめた空の下を、心地よい疲労感と眠気でトボトボと歩く。

ヒンヤリとした朝の空気を吸う。

 

ああ、朝焼けがとっても綺麗……。

 

明日からもこの東京の街で頑張ろう、そう改めて決心できたヒトカラ明けの朝だった。

 

 

第25回 初めてのもんじゃ焼き


 

 

東京発祥のもんじゃ焼き。
ヤフーの知恵袋で「もんじゃ焼き」を調べてみたら、こんな質問が目立った。

「今まで生きてて、もんじゃ焼きを食べたことありますか」

「もんじゃ焼きって美味しいんですか」

「もんじゃ焼きの魅力を教えてください」

もんじゃ焼きという食べ物が美味しいものか……半信半疑な人は結構多かった。
かくいうあたしも「もんじゃ焼き」を食べたことがないし、果たしてそれがどんな味なのか、どうやって作るのか、どうやって食べたらいいのか、お好み焼きみたいに最後にソースをかけるのか、マヨネーズはかけるのか、そもそもいったい何でできているのか……さっぱり分からない。
関東ではメジャーな食べ物なのだろうが、大阪で生まれ大阪で育ったあたしにはまったく馴染みのない料理なのだ。

東京に来たからには一度は食べないと!と思っていた八月某日、東京人である友人のSさんから「今晩、もんじゃ食べに行こー!」とお誘いがあった。
その日は朝からずっと小説を書いていて、でも全然うまくいってなくて、正直ちょっぴし凹み気味で……はっきり言うと、こんな落ち込んでいる時に食べたことのない未知なる料理にチャレンジする気分ではなかったけど、これを逃したら一生食べる機会もないかもしれないと思い、行くことにした。

もんじゃ焼きと言えば月島らしい。月島は築地をもうちょっと東に行ったあたりで、あたしが住む高円寺の駅から電車で40分の距離だ。その日は朝に食パン食べただけだったので、お腹はペコペコ……。空腹で意識が飛びそうになりながら電車を乗り継いで待ち合わせ場所に向かう。

友人Sと合流したあたしは、月島の駅を出てすぐのところにある「もんじゃストリート」に向かう。商店街のような通りに所狭しと軒を連ねるお店は全部もんじゃ焼き屋さん。右も左ももんじゃしかなくて、フードテーマパークのような雰囲気だ。

Sさんのおススメだという「おしお」に入店。
賑やかな店内は8割ほどお客さんで埋まっていて、各テーブルごとに鉄板を囲み、わいわい楽しそうな雰囲気。しかしみんなが笑顔でつついている鉄板には……あの、べちょーっとした液体。

食欲、
半減。

お腹減ってたんだけどなぁ、不思議だなー。
下品な話、ゲ●焼きとか呼ばれてしまうもんじゃ焼き……やっぱり美味しそうに思えない。でもみんなビール片手に美味しそうにもんじゃを口に運んでいる。

さて、ここまで来たら引き返すこともできないので、もんじゃ焼きを頼むことに。メニューを広げ、とりあえず「おススメ」と書いてあったやつを注文してみた。
海鮮スペシャル1350円。明太子もちチーズ1250円。

むむう……思ったより高いぞ?

東京の子供たちは駄菓子屋で100円くらいのもんじゃ焼きをおやつ代わりに食べるとか言うのを聞いたことがあったのでもっと安価なものかと思っていた。さすがにココは大人の飲み屋だけど、まぁせいぜい大人価格で700円くらいのモノなのかと思っていた。

しばらくして、店員のお兄さんが注文品を運んできてくれる。お椀にてんこ盛のキャベツと具が、ドーン!
そうそう、そうなんだよな……。これが東京スタイル。
大阪のお好み焼き屋は注文したら焼き上がったやつが出てくるけど、東京は自分で焼かないといけない、と聞いたことある。
噂は真実だったようで、もんじゃももちろん自分で焼かないといけないらしい。(頼めば店員さんがやってくれるらしいけど)

作り方の分からないあたしはすべてをSさんに任せ、「海鮮スペシャル」のもんじゃ焼きの調理方法を観察する。大きめに切られたキャベツ投入後、調理用のへら(大)でキャベツを細かく刻む。鉄板から上がる湯気に額の汗をぬぐいながらキャベツを刻むSさん。ふと調理場の方を見ると、ホール担当の店員さんが三人ほど、暇なのかぼーっと突っ立って待機している。

……もんじゃ屋、なんだかあこぎな商売だ。
1350円もするのに、焼いてくれないしキャベツも細かく切ってくれてないし……。
これで商売が成り立つと思うなよー……。

そんな不満を募らせている間に、あたしの前の鉄板には、いわゆる土手みたいなものが築き上げられ、その中央に液体が投入され……気づけばぐっちょんぐっちょんのもんじゃ焼きが出来あがっていた。

つ、ついに……あたしが人生初のもんじゃ焼きを食べる瞬間がやってきた。
匂いは、たこ焼きとかお好み焼きと似てるけど……いったいどんな味?
ごくり……。

食べてみる。

あたし「…………。」
Sさん「美味しい?」
あたし「美味しいのかな?まずくはない。よく分からん」
Sさん「そんなもんだよー」

えっ!?……そんなもんなのか!?

「東京の人だって、めちゃくちゃもんじゃ食べたいーって来てる人は少ないよ。みんな『え、食べたことないの、じゃあ行く?』って感じだよ」
「……そんなもんなのですね」
どうやらあたしは不思議な文化食を食べているようだ。

小さなヘラでひたすらチビチビともんじゃを口に運んでいると、意外なことを発見した。
「コゲ」が美味い。
焼肉を焼いてる時だったらうっとおしいこの鉄板のコゲ。悔しいけど、この鉄板にこびり付いたおコゲをガリガリと剥がして食べるのが……んまい!ってか、ヘラで押さえつけてコゲを作るのがもんじゃの常識のようだ。
この鉄板、毎回ちゃんと綺麗に洗われているのかな……なんて心の片隅で思いながら、コゲを口に運ぶ。ねちゃっと香ばしい、初めての感じにちょっぴり病みつきになり、あたしはエビ、ホタテ、牡蠣などの豪華な海鮮に目もくれず、ひたすらコゲを食べ続けた。

「海鮮スペシャル」を平らげ、次は「明太もちチーズ」を焼くことになった。もんじゃ焼きを作ったという経歴が欲しかったあたしは自分から立候補して、見よう見まねで焼いてみる。Sさんがやっていたように、キャベツを刻み、炒め……熱い鉄板の上で汗だくになってもんじゃを焼く。
「初めてにしては上手じゃん」
最近、小説の執筆がスランプ中でうまくいっておらず、褒められるのが久しぶりなあたし。「初めてにしては上手いじゃん」という言葉が嬉しく、何度も反芻して、ああ今日はもんじゃに来てよかったなぁ、と痛感した。

土手を作って、チーズとか餅とか入れて、最後はぐちゃーって混ぜて。そしたら何となく、ひし形になったので北海道の形に整えてみた。
「なかなかのセンスだね」と言われ調子にのったあたしは、次はオーストラリアの形にでもしようと思ったけど、形が思い浮かばずに断念。
苦労の末に出来上がったもんじゃはなかなかのお味。チーズが鉄板にこびり付きやすいので、あたしはまたひたすらおコゲを剥がしまくって食べた。

最後のデザートに「あんこ巻き」というものを食べ、もんじゃ屋を出る。

静かになった商店街を歩く、
海に近いだけあって、潮のにおいがほのかに香る。
真っ黒な夜空に浮かぶ、満月が綺麗……。

――お父さん、お母さん、あたしもんじゃが焼けるようになったよ。

もんじゃを焼けたことで、東京で生きていく自信がちょっぴり沸いてきた。
頑張れあたし、またね、もんじゃ。

第24回 ここが変だよ、東京人


 

 

うちのマンションに遊びに来た、大阪の友人が「東京の人って冷たいよなー」とボヤいていた。

 

新宿駅でどの電車に乗ればいいのか分からず、改札の横にいる駅員さんに聞いたらしい。

「高円寺に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」

すると「11番線です」と即答され、素っ気なくてなんだかなーと思ったそうだ。

 

ええ、どこが冷たいの?普通でしょ?

と東京人には言われそうだが、チッチッチッ。

東京の駅員さんは淡々と業務をこなす印象だが、大阪の駅員さんは、めちゃめちゃハートフルでサービス満点、そして面白い人が多いのだ。

 

3年前の話をしよう。

友達とユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行く約束をしていたあたしは、大阪の天王寺駅で電光案内板を見ながら、どの電車に乗れば「ユニバーサルシティ駅」に早く着くのかを検討していた。聞いた方が早いわ、と思って改札の横の駅員さんのところに向かった。

「ユニバーサルシティ駅に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」

すると駅員さん、黙ったまま腕時計に目を落とす。

「…………。」

そして目線を上げた駅員さんは、真剣な表情であたしに言った

 

「……足に自信はありますか?」

 

唐突な質問。なんのことか分からず、あたしはきょとんと駅員さんを見た。

「……え?」

 

「足に、自信、ありますか?」

 

同じ質問をされる。

足には自信があるので「はい」と答えると、その駅員さんは目をカッと見開き、やや声を張りこう言った。

 

「18番線っ!26分発っ!」

 

ズバッと決めゼリフを言うかのように、言葉を放つ駅員さん。あたしは慌てて携帯で時刻を確認。現在時刻12時25分……。ひえ、あと1分?!駆け込み乗車しないと間に合わない。ってか駅員さんに、走って乗ることを勧められてるってどうなん?とか思いつつ、あたしはやや離れた位置にある18番線に向かってダッシュした。

走りながら、背後で「西九条で乗り換えてくださいね~」と叫ぶ駅員さんの声が聞こえた。

(結局走るほどでもなく、余裕で電車に乗れたけど)

これ、100%実話ですよ。

 

このユーモラスでハートフルな駅員さん比べると、東京の駅員さんはやっぱり冷たいよな~って思う。「11番線です」だけやもんね。

……って言うか、大阪が異常?

ちょっと慣れ慣れしすぎ、オモロすぎなのかもしれない。

 

 

ただ、これは駅員さんに限った話ではない。東京人すべてに当てはまると思う。

 

東京人に来て学んだこと、それは

〝初対面の人には、距離をとられる〟ということ。

別に人見知りされるというわけではない。きちんと目を見て話してくれるし、ものすごく友好的な人もいる。でもなんか距離を感じてしまう。こちらが本音爆裂トークをしたとしても、東京人は当たり障りないことしか聞いてこないし、本音を言ってこない。「誰だコイツ」と言う感じで、探り探り話をされてる気がするのだ。

 

なんで距離を取られるのか……理由は明確だ。

実は東京人ってのは、地方出身の集まりだからだ。

このエッセイの中では「東京人」という言葉を面白がってよく使っているが、東京生まれの東京で育ちという江戸っ子さんって実際はなかなか会わない。みんな他県から上京してきたひとばっかり。つまりみんながみんなアウェイ。探り探りなのも仕方がない。

 

大阪の場合は逆で、大阪に住んでる人の8~9割は関西出身者だ。

みんなのホームである大阪では、そりゃ気は遣わない。どーせみんな関西の人なんだからと、初対面から慣れ慣れしく、時には厚かましい。駅員さんが急に「足に自信ありますか」とか質問してきても、全然おかしくない。

 

 

東京には東北出身者が沢山住んでいる。

当たり前じゃん!とツッコまれそうだが、実はあたし東京に住むまで東北の人と話したことが無かった。実は大阪には、東北出身者がいない。近くに東京があるから、わざわざ大阪に出てこないのだろう。

 

「福島出身なんです」「以前仙台に住んでて」とか言われるとどーしよーと困ってしまう。

だって話が続かない!

行ったこともない、地名も分からない、名産品も分からない!

かろうじて言えるのは「地震大変でしたね……」くらい。でもそれも、関西出身・被害なしのあたしが軽々しく口にしていいのか分からないし、根掘り葉掘り聞いて嫌な思いをされたらどうしよう、と変に気を使ってしまうので話しにくい。

 

こないだ職場の人が仙台に出張に行ってきたらしく、仙台名物「笹かまぼこ」をもらった。

実は「ささかま」と初ご対面なあたし。大阪人はなかなか東北地方に旅行に行かないので、仙台名物をもらう機会もなかったのだ。

さて。「ささかま」困った……。

これは……いったい、どういう感じで食べたらいいんだろう。

「おやつ」なの?「おかず」なの?はたまた「つまみ」なの?

お茶のお供?ご飯を用意?はたまたビール?

わからん……。

 

周りを見渡すと、みんなパソコン仕事をしながら、「ささかま」片手にむしゃむしゃ食べている。

ほう、なるほど。よく分からんが「間食」なのだな、と理解したあたしは、皆に倣ってパソコンに向きあって食べた。

 

 

東京人の変なところ。

電車で30分を「遠い」というところ。

……どーゆーこと?

 

電車で1時間の場所だと「えー、めちゃくちゃ遠いじゃん!」

電車で2時間ともなれば、それはもう「プチ旅行」。……らしい。

 

 

30分で遠いって……ねぇ。

あたしは大阪在住の頃、片道1時間かけて通学・通勤していた。

そんなのに比べたら30分なんて、どこでもドアなみの便利さだ。

 

東京は都市がギュギュと凝縮されているので、たしかに移動時間は短いなと感じる。新宿から池袋までは電車で5分。渋谷までは7分。東京までは13分だ。

よほどの場所に行かない限り、目的地が「遠いなー」と思うことはない。

 

 

ついでの話だが、東京人はすぐにタクシーに乗る。

あたしはタクシーに気軽に乗れる身分ではないので、寝坊して大遅刻をしてしまった時とか、終電に間に合わなかったときなど、ピンチの時の最終手段にしか利用しかしたことがない。

東京人はセレブが多いから、タクシーに気軽に乗れちゃうと言えばそうなのかもしれない。

でも、やっぱり都市がギュっと凝縮されているので、電車に乗るよりはタクシーに乗った方が早いってのが理由のひとつだと思う。

 

なので、東京人はタクシー換算が早い。

「こっからだと2メーターくらいじゃない?」

「3人で乗って割ったら一人○○円だし、電車に乗るのと変わんなくね?」

あたしなんて初乗りがいくらなのかも、いまだに知らないのに……。

 

 

「ここが変だよ、東京人」

……とかちょっと大袈裟なタイトル付けちゃったけど、東京の皆様、お気を悪くされないでください。

あたしは東京人っぽく振るまえるように、違和感なく溶け込むために、日夜必死でございます。もう「ささかま」くらいで動揺したくない!

第23回 ウワサ通りの黒いそば


 

 

関東と関西では、うどん&そばの汁の濃さが違う。というのは有名な話。

あたしは生まれも育ちも大阪なので、うどん&そばといえば透き通ってる汁が思い浮かぶ。
うどんの塗り絵と色鉛筆を渡されたら(どんなシチュエーションだ)、汁の部分はベージュを薄ーく塗るだろう。
関東の人たちは何色を塗るの。茶色?まさか黒?

東京人は知らないだろうが、関西人はみんな、あの「黒いそば」のことを「食えたもんじゃない」「ありえん」「醤油地獄」と大批判している。
じゃあ関東の人は関西風の色の薄いうどん・そばのことをどう思ってるのか聞いてみた。否定的な意見が飛ぶのかと思えば、みんな口揃えて「だしが効いててめちゃくちゃ美味しい」と大絶賛してくれる。
そう、意見は一致しているのだ。関西風の方が美味しいと。
「じゃあ、関西風ばっかり食べたらいいやん!」そう東京人に意見してみたが、返ってくる言葉はみな一様にこれだった。

「黒いのに慣れてるから……」

……ええ、慣習で黒そばを食べ続けている東京人!!
美味しいと思うものを食べたらいいと思いますケド!!
みんな目を覚まして!!

と、まぁ、それはおいといて……
東京に来たからには、一回くらいは「黒いそば」を体験しないと……と思っていた。食べたこともないのに、批判するのはどうかと思うし。
でも蕎麦屋って牛丼屋と一緒で、女子一人ではなかなか入りにくい空気がある。じゃあ家で作るか、となるとやはりそれは慣れ親しんだ関西風になるわけで……。

そんな時、チャンスがやってきた。
東京に来て1カ月ほど経ったころ、バイト先の上司から「昼メシでも食い行くか」と誘われる。ちなみにこの上司は、うちの父くらいの年齢で生粋の江戸っ子。「てやんでぃ」と言ってても違和感ない人だ。
わーいわーいと呑気について行くと、先を歩く上司が入った店には「そば・うどん」と書いてあった。

ごくり……
ついにこの日が来たか……。
構えるあたし。

壁に貼ってあるお品書きには丼物もあるが(正直お米が食べたい気分ではあったが)ここはやっぱり「黒いそば」の洗礼を受けるしかない。もしかしたら上司も洗礼のために、あえて蕎麦屋に連れてきたのかもしれないし。
ということで、「きつねそば」をオーダー。運ばれてきたソレを覗き込んだ……。

……うーん、真っ黒。

テレビや写真で見たやつといっしょだが、目の前にあるというのが感慨深い。
黒々と濁った汁、すっぱそうな匂い……なんか食欲が減退していく。とはいえ、ここまで来たら腹くくって食べるしかない。上司もうまそうに食ってるし。

よしゃ、いただきます。
ずるずるずる。
……うーん。

初めて食べるそれは……
……なんというか「醤油」だった。
関西のそばがアルカリ性だったとすれば、関東のそばは酸性な感じがる。あ、分かりづらいですかこの表現。

「どう?ダメ?」
上司が聞いてくる。やはり関東風のそばを体験させてやろう、という昼食会だったのだ。ごちそうしてもらう手前、酸性の味がする、なんてわけのわからん感想は言えない。
「……美味しいです」
「ウソついちゃダメだよ」
「……思ったより美味しいです」
「思ったより?どんなふうに思ってたんだよ」
「……正直に言うと辛いです」
「辛い! 関西の人は辛いって言うよねー」
そう、「濃ゆい」という感想を「辛い」というのは西の人間だけだ。東ではこういう時「しょっぱい」というらしい。とうがらしのHOTな辛さにしか「辛い」は使わないのだそうだ。

もう一口。
ずるずるずる。

……うーん。
なんだろう、そばを食べているけど、これはそばではない。いやそばだけど。
うまく説明できないけど、「ちゃんぽん」は「ラーメン」ではないし、「お味噌汁」は「お吸い物」ではないでしょ?……そんな感じで「関東のそば」はあたしの知ってる「そば」ではないという感じ。

でもまぁ、「食いもんちゃう」と批判するほどではない。こういう食べ物だと思えば美味しくいただける。でもこの汁は……ちょっと……飲み干せないかな。途中でギブしちゃう。 東京人の上司も汁残してるし……いいよね、全部飲まなくても。

そして、食後しばし東京と大阪の違いの話になった。
ご存じの方もいるだろうが、関西には「たぬきうどん」が無い。(関西で天かすうどんは「はいからうどん」と言う)
そして、関西では薬味のネギといえば青ネギだが、関東では白ネギが主流。(黒い汁の上に緑色のネギが乗ってたら、見た目的にグロイかも)
……不思議だ。狭い日本なのに、そば・うどん一つとっても、こんなにも違うもんなんだ。
〝文化〟の違いについてしみじみ考えさせられた「黒そばデビュー」だった。

こないだ、知人に「東京名物の油そばを食べに行こう」と誘われた。
「油そば?!」見たこともないし、聞いたこともない。
どうやら新種のラーメンだという。
そのネーミングから想像するにきっと、ギトギトのぬるぬるのカロリー高くて胸焼けするやつに違いない!そう思ったあたしは「いや、ちょっといまお腹が……」とやんわり断った。でも「半分こしよう」という提案をされ、興味がなかったわけでもないので、ついて行くことにした。

注文品を待ちながら、数日前に見たテレビをふと思い出した。そういえば……グルメレポーターの彦摩呂さんが超ハイカロリーなラーメンを食べて「背油のゲリラ豪雨やぁ~」とか言っていたなぁ。
もしかして、それのことちゃう……?
どんぶり鉢の淵まで背油でギトギトなラーメンを思い出し、食べる前から胸焼けがしてきたが、やってきたのはそのラーメンではなかった。
油そばと初ご対面。器の中を覗きこんだ。

……なんと、汁がない!

どんぶりの中には、太めの麺と具のみ。背油もないし、汁気すら見当たらない。
そう「油そば」というのはテーブルの上のお酢とラー油をかけて食べる……というスープなしの、なんとも不思議なラーメンのことだった。
麺とスープが別になって出てくる「つけ麺」が最先端だと思っていたが、時代はいまや汁すらないのか!すごいな日本!

さてさて、初・油そばを頂く。

……お、おいしい!

驚いた。全然こってりしてない。むしろあっさりしている。
もともと麺にからんでいた醤油だれが、かけたお酢といい感じにマッチしてる。初めて食べる味に感動。あまりに美味しかったので、追加でもう一杯注文するくらい気に入った。

ということで、そばの固定概念を次々に打ち破ってくれる街、TOKYO。
大阪のみなさん、東京に来た際は「黒いそば」ではなく「油そば」をおススメしますっ。

第22回 東京は物価が高いのか


 

「東京は物価が高いでー、覚悟しぃや」

と大阪在住のころ誰かに言われたのを覚えてる。彼は昔東京に住んでいて、物価の高さを痛感したのだそう。
上京前、この件に関してはかなりビビっていた。
やっぱりモノの値段が高いと生きていくのが大変だし、それだけ稼がないといけない。

「でも大丈夫、東京は賃金も高いから~」
追加でこんなことも言われた。「3時間働いたら、1万円くらいにはなる。遊んで暮らせるで」
……ほんまに? 3時間1万円ってことは、時給換算で3000円以上じゃないか!おいしいな、東京!
上京後アルバイトで生計を立てる予定だったあたしは、インターネットの求人情報を早速チェックした。

カフェバイト時給850円
レンタルビデオショップ時給900円
居酒屋時給1000円……
……あれ、あれ、あれ?大阪とあんまり変わらへんやん。

パソコンに向き合ってるついでに東京の物件情報もチェックしてみた。
検索画面に希望を入力。「駅歩5以内」「南向き」「2階以上」「バス・トイレ別」「オートロック」……カチ、カチ、クリック!
……あれーあれれーあれれれー!105000円と出ましたよー!じゅ、じゅうまん!マジすか。時給850円で十万円の部屋……。

『どうやって暮らすねん!!!』

ある程度貯金を蓄えた上での上京だけど……これ、1年で破産してしまうんじゃないか?!大丈夫かあたし。いつのまにか夜の銀座で働いてたりしてないよね。そんなことも頭をよぎった。

でも、実際に東京に来てみると、そうでもなかった。家賃はやっぱりエラ高なのだが、普通で贅沢でない生活をしていれば、物価の高さを感じない。
自動販売機のジュースは120円だし、コンビニでもペットボトルのジュースは150円、おにぎりは120円だ。大阪と一緒。
なんならあたしが住む高円寺なんて、めちゃめちゃ物価が安くて、箱ティッシュは198円、キャベツは一玉100円。

銀座で働かなくてすむと、安心していたのだが……思わぬところに落とし穴があった。

先日渋谷にいた時、友人が「ヒールのかかと直ししたい」というので修理屋に同行した。男性には分からないだろうが、ヒールの先のゴムの部分が磨り減ると、滑りやすくなって危ないし、金属部分が露出して歩いた時カンカンうるさい。
そういえば今あたしが履いてる靴も、だいぶ歩いたせいかもうすぐゴムが磨り減りそうだ。音が鳴る前に修理をお願いしようかな。……そう思って靴を脱ごうとしたその瞬間、壁に掲げられている値段表が目に入る。言葉を失った。

「1200円から」?!

たっかーー!1200円から?!からってことはこれ以上高くなる可能性もあるってこと?(ちなみに友人は1600円払っていた)
この値段に慣れている東京人にズバリ言うが、これは法外な値段です。大阪ではかかと修理と言えば700円ちょっとでOK。梅田の駅前の一等地でこの値段。もちろん技術的にも問題なし。
2000円とかで靴を手に入れられるこの時代に、かかとだけで1200円ってちょっとおかしくないですか?!気に入ってる靴でなければ、買いなおした方がお得なんじゃないかな。
ということで靴修理は大阪に帰った時に一気にすることに決めた。みなさんも、大阪旅行&出張の際は是非靴修理をお勧めします。

あと、物価高いなぁと感じたのは外食した時だろうか……。
ファストフードとかチェーン店なんかはだいたい大阪と同じ値段なのだが……気を抜いていると、いつの間にか高級なお店に入っていて「どうしよう、注文した手前出ることできないし……」となる。

上京したての頃、六本木でお昼ご飯でもーと思いフラッと入った和食屋さんがランチ2000円~だったときは焦った。東京慣れしていなかったあたしは現金をそんなに持ち合わせておらず、カードで支払い。もちろん選んだのは一番安い2000円のランチだ。
たぶん土地柄もあると思う。六本木は気を抜いてはいけないということをあたしは学んだ。(特に上記の店は六本木ヒルズだった……当然か)

あと、銀座も気を抜いてはいけない。
こないだ、待ち合わせまであと30分くらいあるし、ちょっとお茶でもして待つかーと思いカフェを探した。さすがに百貨店に入っているカフェは高いと知っているので避ける。
大通りからちょっと外れにこじんまりとした可愛いお店を発見。
「ケーキセットあります」とのぼりが出ている。
「おお、ケーキ食べたい!」と入り口の扉に手を掛けたその瞬間・・・・・見つけてしまった。というか寸前で見つけれてセーフだった。
「ケーキセットあります」の下に「1600円~」と書いてある……。
「1600円~」からってことはこれ以上高くなることもあるわけで。。。
(ってか東京は「○○円~」っていうの多いと思う。「~」をつけることで高額な値段をやんわり誤魔化してるあたりが気に食わない)
さすがに30分お茶するだけに1600円は払えない。ということで店の前を去る。結局近くのドトールを探しだし、一杯380円のコーヒーを飲んで時間を潰した。
さすが銀座。うかうかしてられない。

しかし、六本木の和食屋も銀座のカフェも、高いからと言ってお客さんがいないわけではない。それなりに満席だったりするのだ。
そのへん東京人はすごいと思う。みんなお金持ちなのか?じっくり探してみれば3時間1万円のアルバイトはあるのかもしれない。(っていうかこの高給なバイト、あやしい匂いがプンプンするんだが)

そう言えばこないだ新宿のルミネを通りかかったら、とあるお店に人だかりができていた。
なになに?何の店―?と気になったで覗いてみると、色とりどりのマカロンがずらーと並べられている。(ちなみにこの店は、かの有名なマカロン屋「ラデュレ」である。東京以外にもあるけど)
ほう、美味しそう。お試しに買ってみようか、と思い真剣に選び始めたが、プライスカードの値段を見てびっくりした。
1個250円……
ちなみに箱入りは8個入りで3000円……
なんて、あこぎな店だ……。
しかしお店は大賑わい。お客さんはみんな手に1万円札を握って店員さんを待っている。さすが東京人。やっぱり違う。
あんな口に入れた瞬間にいなくなるような腹の足しにならない食べ物に250円も出せるなんて気がしれない。と急にマカロン批判をしながらあたしは撤退。
(でもラデュレの差し入れは大歓迎なので、皆さんのお記憶に留めていただけたらと思います。どうぞよろしく。)

一つ目標が出来た。
高級なお店にビクビクして入らないですむよう、しっかり稼ぐ!ということ!!
頑張って働くぞー!待ってろラデュレ!

第21回 東京に来て1年経ちました


 

 

先日6月9日で、ついに上京2年生へと進級しましたー(パチパチ)
東京に来て1年経つのかーと思うと、なんだか、ちょっぴり、しみじみしちゃう。

上京したてのころは、右も左も分からなくて、初々しいフレッシュな匂いをふりまいていたあたし。(自分で言うなよって感じだけど)
初対面の人と話すときのファーストトークの定番はこれだった。
「あたし東京に来たところなんで、この辺のこと、よく分からなくって!」
そしたらみんな親切にしてくれた。「あそこに行ってみなよ」「○○って街はいい街だよー」手取り足取り東京の情報を教えてくれた。

そして、東京初心者だったあたしは、大概のことを許してもらえた。
東京の地名を聞いて、ぴんと来なくても「まぁ東京来たばっかりだし、知らないよね」と言ってもらえたし、
乗換がうまくいかなくても「まぁ分からないよねー」と優しく教えてくれ、
道に迷って待ち合わせに遅れても「まぁこの辺初めてだもんね」と遅刻を多めに見てくれた。

……しかし、もう1年生ブランドは使えない。
あたしはもう2年生。マイナーな地名の一つや二つさらっと言えるようになってないとだし、地下鉄の色と名称くらいは把握しとかないといけない。
……でも、ぶっちゃけまだまだ分からないことだらけ。
つい最近まで、ゆりかもめが走ってるところは全部お台場だと思ってたし、「国立(くにたち)」は「こくりつ」と読むと思っていた。「自由ヶ丘」の場所なんか、いまだにぼんやりしている。

ということで今日はこの1年を振り返って、今まで記事にするほどでもなかったけど、でもやっぱり喋りたい、みたいなことをぼやぼやとボヤいてみようと思う。
最後までお付き合いいただけたら、幸いだ。

まずは1年を通して知った、「東京人」という人種について語ろう。

あたしはいつも何か面白いことや興味深いことがあると、ノートに書くようにしている。いわゆるネタ帳みたいなやつ。こないだ過去のメモを読み返しているとこんなのが出てきた。

「ハゲの人」→気にしている人

ハゲをネタにしている人

は?なんのこっちゃ、と言われそうだが特に深い意味はなくそのまんまで、ハゲている人は「気にしている人」か「ネタにしている人」か、どっちかだよなぁ……とその時しみじみ思ったらしい。
でも、今まさにこのメモに大共感。東西の気質の差を表してる上手い例えだなぁと思う。
「気にしている」は関東人で「ネタにしている」は関西人だ。

偏見かもしれないが、東京の人って〝自虐ネタ〟をあんまり言わない。
大阪人だと、アホ言うて笑かしてなんぼな所があるので「わての頭はチュルチュル~」なんて言えちゃう。ほんで周りのみんなも「あーなんかさっきから眩しいと思ったら、隣にあんたおったんやー」とか言って、その人をいじる。
でも、東京人はこういうわけにはいかない。薄毛で気にしているなんて言わないし、むしろ触れないでオーラを出している。周りも徹底していて、触れてはいけない、見つめちゃいけない、喋っちゃいけない、この三原則を無言で守っている。
ネタにしちゃったほうが楽なのにーと思うんやけど……そういうわけにはいかないの?東京人のみなさん。

では次。気候の話。
東京で春夏秋冬一通り過ごしてみたのだが、一番びっくりだったのは冬だ。

冬は寒いよーとは聞いていたが……こんなに雪が降るとは聞いてなかった。しかも1回降ったら、けっこー積もる。街で雪だるまを何体も見かけるくらい、積もりまくっている。
(まぁ今年がたまたま雪の年だったのかもしれないけど)

大阪は雪はほとんど降らないし、降ってもハラハラって感じで積もったりはしない。
だから、街一面が真っ白!というのも新鮮だったし、歩いてて前の人がいきなり「ツルッ」というのも新鮮だった。もしここで新聞記者がカメラを構えてたら一面の写真になりそうだな、と思う見事な滑りも何度か見た。

雪の日を何回か乗り越えていくと、あたしは「雪にはピンヒールの靴が有効」ということを学んだ。
雪の日だからってスニーカーとか長靴を選びがちだが、実はこの類は「ツルッ」といきやすい。思い切って高ヒールのお洒落な靴を履いてみる。意外や意外。ヒールがスパイク代わりになってザクザク地面に刺さり、滑らない。
雪用の滑り止めシューズを持っていない皆さんは、是非お試しを。ただし、怪我をされてもクレームは受け付けません、あしからず。

では最後に、東京で一番驚いたことをお伝えしよう。
それは……人の多さ!
これはほんとに、大阪と比べものにならない。どこにこんなに人が住んでんのって思うくらいに、人がわんさかいる。

休日の原宿・渋谷なんて、ほんとにエグい。大阪で言うと、天神祭の花火大会と同じくらいごった返している。分かりにくい?……じゃあ他で例えるなら……うーんと、ジャニーズのコンサートのあとの最寄駅くらい、混雑している。(分かっていただけただろうか?)
歩道は、〝ただ歩いてる人〟でなぜか大渋滞。全然前に進まないので、急いでいるときはイライラしてしまう。「駅から徒歩5分」と表記のあるところは実際10分もかかってしまう。

かの有名な渋谷のスクランブル交差点なんか、もうほんと怖い。大阪にもスクランブル交差点はあるが、違う。密度が違う。
以前何かの記事で、人が行き交う場所でぶつからずに歩ける方法、というのを読んだのだが、そこにはたしか「やや上を向き、キョロキョロしながら歩くと、周囲の人が自然とよけてくれる」と書いてあった。(要は、道が分からない田舎者のフリをするってことか)
やってみた。
……だめ。
5秒も持たずに、人にぶつかられた。
しかも迷惑そうな顔で見られた。全然効果なし。ってか流れがあまりにも早いので、誰もあたしのキョロキョロ振りなんか見ていない。

そうそう、スクランブル交差点と言えば、人ごみの中の急に出てくるキャリーバッグ、アレどうにかなんないかな。
人はよけた、でも足元のキャリーバッグにバンッ「痛てっ」みたいな。みなさんもご経験あるかと思う。
スクランブル交差点攻略のためには、華麗なフットワークも身に着けないといけない。

「東京なんて住むとこじゃない」なんていう人もいるが、一応1年、住むことが出来た。
「東京って住みにくい?」……うーん、どうかな、住みにくいのかな?
たしかに家賃は高いし、物価も高い。
人が多くてめまいがしそうな時もある。
流れが速くて戸惑ってしまう時もある。
空気が悪いし、星は見えない。
でも日食は見えた。
まあ友達も増えてきた。
なんとか借金せずに生きている。
周りみんな日本人だし、日本語通じるし。……とりあえずは、生きていけそう!

と、そんな感じで2年目、とつにゅー。
みなさん、これからも温かく見守ってください。

第20回 フードコートが洒落てる


 

 

先日、大阪から遊びに来た友人から

「表参道に有名なフードコートらしいから、行ってみたい」

と言われた。

 

はて。表参道の有名なフードコート……

「そんなとこ、知―らなーい」

返事をした直後に、ビビビッと稲妻が走るように一つのお店が頭に浮かんだ。

 

「もしかして……あそこ?」

 

たしか表参道駅直結の地下に、ヨーロピアーンでオッシャレーな巨大なカフェのようなものがある。まるでパリを歩いているような店内で、地下なのに洋風の洒落た街路灯が並んでいたりする。

ワインを注いでいるいるスタッフがいるし、THE・表参道といった感じハイソなお客さんばっかりだし、ふらっと入るには気が引けていたのだが……もしかして、あれがそうなの?そんなに有名なの?

 

 

気になったので、行ってみた。

表参道駅Echika(エチカ)の中にある「マルシェ・ドゥ・メトロ」.

名前がフランス語。

なんだか鼻につくので、「表参道・ドゥ・フードコート」と呼ぶことに決めた。

 

 

緊張しつつも、周りのお客さんに倣い店内の中の方まで入っていった。

 

確かに……ここはフードコートだった。

壁に沿ってお店がいくつか並んでいて、中央には椅子とテーブルがありフリースペースとなっている。

お客さんはお洒落な雰囲気の人が多く、ワインやシャンパンを飲んでいる人をチラホラ見かけた(平日の昼なのに!)。あたしの知っているフードコートには、世間話をするおばちゃんや、ゲームボーイをしている子供(今はゲームボーイじゃなくてPSP?)がいるのだが、そんな人はひとりもいなかった。

 

先にテーブルをとっておこうと思い、客席をうろつく。すると、なんだこれ?各テーブル上に小さな札が置いてあるのを発見。

表面には「食器を下げてください」と書いてあり、裏は「食器はそのままにしておいてください」とある。なるほど自分で片付けないでいいフードコートのようだ。

 

 

フードコートと言えば「たこ焼き」「焼きそば」「うどん」「ラーメン」「クレープ」の定番5種は外せない。しかしここにあるのは、イタリアン、ベトナム料理、フランスのパン屋、サラダ屋さん、などなど、フードコートと思えないお洒落なラインナップ!

迷ったが、小腹が空く程度だったのでパンとコーヒーを購入した。パン2つとコーヒー1杯で830円。うーん。高いのか安いのか分からない。普通のフードコートやイートインのパン屋さんに比べたら高い気がするのだが、「表参道でお茶をする」という点では安い方かもしれない。

「お召し上がりですか?」と聞かれうなずくと、一見まな板にも見えるお洒落な木のトレーに紙のシートを引き、パンを乗せてくれた。お皿というものは存在しないようだ。さすが表参道・ドゥ・フードコートである!

 

 

さてこのフードコートには、片づける専門のスタッフがいる。

黒ベストに白いサロンを巻いた彼らは、店内を徘徊し、席が空いたらサッとテーブルの上の食器を下げテーブルを拭く……という仕事だけをしている。毎日黙々とトレー下げばかりでつまらなくないのか、と変に感情移入していると……すごいことに気が付いた。

 

……なんと、まぁ、イケメンさんばっかりだ!!

 

片づけスタッフは男性が多い!しかもみんな整った顔でさわやかに働いていらっしゃる!

OH!なんて素敵なフードコート!

Kis-My-Ft2の藤ヶ谷くん似のスタッフが気に入ったので、とりあえず目で追いながらパンをかじりコーヒーを飲んで、とてもいい時間を過ごした。

 

 

パンを食べ終えると、木のトレーが邪魔になった。今からパソコンを広げて仕事をしようと思っている。

できれば、下げて欲しい。

できれば、藤ヶ谷君似のスタッフに下げて欲しい。

トレーの上から飲みかけのコーヒーを外し、テーブルの端の方(もう下げていいよーと言わんばかりの位置)にトレーを置いてみた。しかし10分放置しても、片づけ係のお兄さんたちは前を通り過ぎるだけで、使用済トレーを持って行ってくれない。

 

その時「食器を下げてください」の札が目に入った。席を立つときに使う札ではなくて、こういう時に使うのだろうか。今は裏返って置いてあり「食器はそのままにしておいてください」が表になっている。これをひっくり返して「下げてください」にしない限り、イケメンボーイたちは持って行かない、そういう仕組みなのだろうか。あたしは悩んだ。

札を立ててみるか。

違ってたら恥ずかしいな。

でも、藤ヶ谷君に持って行ってほしいし、立ててみようか。

どうしよう。。。

……ええーーいっ!

 

「かちゃり」

(札を立てる音)

 

立ててみた!

……ドキドキ。

パソコン作業をするふりをしながら、画面越しにイケメンたちの行動を目で追った。

1分経った。イケメンたち気付いてくれない。

3分経った。イケメンたち何度も通るが気付いてくれないし、持って行ってくれない。やっぱりこの札の使い方、間違っていたのか。

5分経った。藤ヶ谷君が、あたしのテーブルの前を通る。「下げてください」の札をチラリと見た。(お、見た!)と心の中で大興奮のあたし。しかし藤ヶ谷君、両手にトレーを持っているので、あたしのトレーは持てない。

いったんバックヤードに戻った藤ヶ谷君は、持っていたトレーを片づけたあと、あたしのテーブルまで来てくれた。

「お下げします」

あたしは無言でぺこりと頭を下げたが、心中は大騒ぎ。(やったー!藤ヶ谷君が来てくれたー!ばんざーい!)

しかし、その時になって気付いた。あたしの使用済みトレーは先ほど食べたクロワッサンのパンくずや、こぼれたコーヒーを拭き茶色く変色したおしぼりなんかで、ぐっちゃぐちゃである。

あたしも女の子。ちょっと恥ずかしくなって、うつむいてしまい、もう藤ヶ谷君の顔を見れなくなってしまった。

 

 

そんな表参道・ドゥ・フードコートでの思い出を忘れまいと、

パソコンを立ち上げ、その場で必死にメモするあたし。

どうか、隣の席の人が見てませんように。。。