第19回 いまだに迷う新宿駅


 

 

「新宿」は大阪でいう「梅田」だ!
(大阪人の勝手な見解です。反論しないで)
大きな中心都市だし、鉄道が何社も乗り入れているターミナル駅だし、商業施設、オフィス街、足をのばせば歓楽街もある……やっぱ似てると思う。

この前、大阪に行ったことのある東京人が「梅田駅の地下街は迷路みたい」だと言っていた。
確かに梅田の地下は距離が長いし(かるく一駅分は歩ける)いろんなところがつながっているから、地下だけでどこでも行ける。慣れない人にとったらダンジョンのように思うだろうが、あたしはかなり便利な抜け穴だと思っている。

あたしからすると断然、新宿の方が難易度が高い!(まぁ、慣れてないからだろうが)初心者に優しくない街、新宿。何度迷子になったかわからない。

まずはJR新宿駅が難関である。
まだ東京に住んでいないころ「JR新宿駅はホームの階段が要注意」だと友人に言われたことがある。
だいたいやってしまいがちな失敗例を挙げてみよう。

① 電車、新宿駅に到着

② 新宿で乗り換える人が多いから、一気に乗客が降りる。<注1>

③ 人に流される。流されるままに階段を上る。<注2>

④ 改札階に到着。何となーく改札を出る。

⑤ あれー、ここどこ?

こうやって新宿迷子が完成する。むろんあたしも経験済みだ。
では詳しく検証してみよう。

まず大事なのは<注1>だ。新宿駅はどの階段を使うか……で運命が決まる。
階段を下降りてしまったら、そこは東口(もしくは西口方面)絶対に南口に行けないし、
階段を上ってしまったら、そこは南口方面。東口や西口には死んでも行けない。
そう、階段を間違えると取り返しのつかないところに来てしまうのだ!ぼやっとしてないで案内表示を毎回確認!これ初心者の鉄則である。
だいたいどのホームも混んでる新宿駅……利用する階段の近くで下車できなかった場合は大変だ!「すみません、すみません」と片手をあげながら、目的の階段目指し人ごみを逆流するはめになる!

そして<注2>。
なんとなーく改札を出る。これも非常に危険である。
「どこか分からないし、とりあえず改札出るか」この流儀は新宿では通用しない!西口改札を出てしまったら、もう新宿の東方面(紀伊國屋とかマルイとか)に行けない(注意:あたしの場合はである。もちろん新宿を熟知している人は行ける)
地下に潜ってもつながっていないし(というか改札口がそもそも地下)、地上階の駅ビル(?)を使っても横断できない。
どうしてもというなら、駅を離れて大きく迂回することになるが……ヘタすると余計に迷ってしまう。
方向音痴で途方に暮れかけたあたしは、東にいち早くたどり着く方法を考え出した。それは……入場券を購入しもう一度改札をくぐる、という方法!これは早い!(あたりまえ)……ただし悔しいことに入場料がかかってしまうので、東京に来てまだ一回しか使ったことのない技だ。

JR新宿駅といえば新南口が不思議な存在だ。
馴染の無い人の為に説明すると、新南口とはホームをひたすらに南に向かって歩いて歩いて……人が少なくなってきたけどまだ歩くの?とすこし心細くなったころに、現れる改札のことだ。
この出口はなんというか、あたしにとってどこでもドアみたいな存在だ。改札を出た瞬間、そこはもう新宿ではないにおいがしている。
新宿駅って利用客が多いイメージだが、この新南口だけは別物。
なんだか人が少なくて、閑散としている。高島屋に行くときしか利用したことがない。ついでにその横にはサザンテラス口ってのもあるらしいが、まだこの改札は利用したことがない。

新宿という街を語ろうと思っていたのに、JR新宿駅の話ばかりになってしまった。
まだまだ語りたいことはあるのだが、最後に地下通路から地上へ出る階段の話だけしておこう。

あたしは西口方面にある郵便局によく行くのだが、なかなかここにたどりつけない。

西口の地下通路にはいっぱい階段がある。交番のところらへん、京王モールから上がる階段。あと、百貨店のそば(中?)にあるエスカレーター。あの階段たちが、どこにつながっているのかが分からない。

郵便局に行くためには、まず高速バス乗り場のところに行かないといけない。
地下通路をさまよっているあたしは、高速バス乗り場はこの辺だろう、と大方目星をつけて階段を上がる。
しかし……!なんでだろう、いつも道路の真ん中にある都営バス乗り場(?)に出てしまう。ここは車道に囲まれた孤島だ!横断歩道すらない!ついでに、バスがあたしの乗車を待ってドアを開けているが、ごめん、乗らない!
しかし、また引き返して階段を降りるのも、なんだかなーと思ってしまうので、いつも危険承知でこっそり車道を横断してしまう。だいたいいつも同じような失敗をしている人がいるので、その人たちと隙を見て、エイッと渡ってしまう。みんなで渡れば怖くないってやつだな。
でもびゅんびゅん飛ばしてるタクシーはいるし、道路わきに停車している車も多いから危ないっちゃ危ない。
だから!お願い!〝この階段は●●に出ます!〟、という案内をそれぞれの階段の上り口に書いておいてほしい!
もう、おみくじを引くような気持ちで階段を登るのはごめんだ!

第18回 芸能人と会えるのか


 

 

正月に実家に帰省した時、久しぶりに兄に会った。

兄は3つ上で、彼もまた実家を離れているのでほんとに顔を合わす機会が少ない。

この日も半年ぶりの再会なので「ちゃんと食ってるか」「頑張ってるか」と東京での生活を案じてくれるのかと思った。しかし兄はこう言った。

 

「直ちゃん、東京で芸能人に会えた?」

 

……あーのーねー。

ミーハー心、丸出しやないか。

返す言葉が思いつかなくて困ったので、苦笑いで対応しておいた。

 

 

いや、しかしだ。上京組なら、故郷に帰った時に一度は経験したことがあるはずだ。

「東京って芸能人っておる?」と質問されたことを。

 

大阪に限らずだが地方に住んでいて東京に馴染みの無い方々は、そこらじゅうに芸能人が歩いていると思っている。

かくいうあたしも、大阪にいるときはそう思っていた。道を歩いてたら「わ、今の浜崎あゆみだよね、超カワイイ!」とか、お洒落な店でご飯食べてたら「アレって小栗旬じゃない?」「わ、香里奈だ!ドラマのロケしてる!」みたいな、それが東京だと思っていた。

 

 

しかし……

あたくし、東京に住んでもうすぐ1年が経つが……

一度も芸能人と会ったことがありません!(どーん!)

 

いや、ちょっと待てよ。会ってないというと語弊があるな。細かい話だが、パーティやイベントとかで知り合いに紹介されて「どうも」というのはある。それもまぁ、東京でしか体験できないことと言われればそうなのだが……それはカウントしないということにして。

あたしが求めているのは……もっと、こうなんか、道でバッタリ!的なやつだ。「あそこでソフトクリーム食べてるの芦田愛菜ちゃんじゃない?」みたいなやつ。

 

 

どうやったら東京にて芸能人とばったり会えちゃうのか。こないだ美容院にパーマをあてに行ったとき美容師さんとそういう話になった。

ちなみにあたしが通っている美容院というのを説明せねばいかんのだが……えー、ごほん。表参道にあるカリスマ美容師がいるところで……その、まぁ分かりやすく言うと、このエッセイの第4回「おしゃれな美容院に行ってみる」に出てきたあのお洒落サロンだ。

あんなに大々的に記事にしたのでもう行かないだろうと思っていたのだが、まだ本名がバレていないので、懲りずにカラーモデルやパーマモデルとして通っている。

 

話を戻そう。その美容師さんは「フツーに芸能人に会う」と言う。「なんか見つけちゃうんですよねー」とまで言っていた。

「誰に会ったの?」と聞くと、そうそうたるメンバーだった。「ファッション雑誌のトップを飾る人気モデルのK、今一番人気の若手俳優M、人気芸人のM……」

ちなみにその美容師さんは芸能人を探し歩いたり、出待ちをしているわけではない。普通に生活してて、ばったり会っちゃうらしいのだ。なんで同じ東京都に住んでて、こうも違うのか……話しているうちに、あたしが芸能人に会えない3つの理由が明らかになった。

(〝私が芸能人に会えない3つの理由〟ってなんか本のタイトルっぽい。出版できないかな……ダメ?笑)

 

 

あたしが芸能人に会えない理由、その①

「あたしが杉並区に住んでいるから」

 

有名芸能人たちはみんなセレブなので、目黒区、港区、世田谷区あたりの高級住宅地や高層マンションに住んでいるのだとか。

そりゃそうだよな。福山雅治は杉並区・高円寺に住んでないよなー。そういうところに住んでないと、コンビニでばったりみたいなシチュエーションもなかなか難しそうだ。

それに遊びに行ったり飲みに行ったりするのも、もっと洗練された都会的なところに行かないといけないそうだ(……例えば表参道、青山、六本木、銀座とか?)もちろん入るお店もそれなりに高級店でないといけないらしい。たしかに魚民には米倉涼子はいないかなー。

 

 

あたしが芸能人に会えない理由、その②

「平日の昼に働いているのが悪い」

 

芸能人に会える時間帯というのは、平日の昼……らしい。

そりゃそうか、土日の混雑している時間にわざわざ街を歩かないだろう。ドラマのロケも同じらしく、平日の人が少ない時間にパッパッと済ませてしまうらしい。

うむ……あたしは平日の昼はアルバイトに行っている。「芸能人が見たいので休ませてもらえますか」と今度上司に頼んでみようか。はっ倒されるだろうな。

 

 

あたしが芸能人に会えない理由、その③

「あたしは目が悪い」

 

どっかーん。そうだった、あたしは目が悪い。視力は0.3くらい。メガネも持っているが映画とか芝居を見るときしかかけないので、普段は裸眼で過ごしている。裸眼だと3メートル先の人の顔がぼやけてしまう。そりゃ芸能人も見つからんわな。

それにあたし、結構ぼうっと歩いているらしいのだ。友達とすれ違っても気づかないことが多くて「とときさん!」とむこうから声を掛けてくれるパターンが多い。

そう、芸能人とバッタリ会うためにはもっと動体視力を鍛える必要がある。そして人ゴミの中で芸能人をキャッチできるよう、アンテナを張っておくことも大事だ。

 

 

最後に。美容師さんから、芸能人に会った時のリアクションの仕方を教わった。

それは……声を掛けない。サインを求めない。写メを撮らない。だそうだ。

向こうもOFFの日だし、それがマナーなんだという。(実際は声を掛けれないオーラを放ってる方も多いそうだが)

さすが東京のおしゃれスポット・表参道に勤めていらっしゃる方はスマートです。

でもやっぱり心騒いじゃうよね。

誰かいないかなー(キョロキョロ)

第17回 ルノアールに行ってみた


 

 

はじめての東京という地に訪れた時から、ずっと気になっていた店がある。

「喫茶室 ルノアール」

新宿でも渋谷でも吉祥寺でも銀座でも……どこの街にでもあるルノアール。しかも、大体なんかのビルの2階に入っている。
そして店の前には大きな看板。
珍しい白ベースの看板。ボタッとした筆文字で、大きく黒で「ルノアール」と書かれている。これがかなり目立つのだ。
なんだろ……この無意味なほどに大きなカタカナ文字。威圧感を感じ、つい街中でも見つけてしまう。それに、白地に黒文字というシンプルさが、ごちゃごちゃした繁華街でかえって目立つのだろう。

どうやらこの「ルノアール」という喫茶店、東京人には馴染みの店らしい。調べてみたところ関東地区だけの出店で(関西人のあたしが知る由もない)その数は100店舗以上もあるらしい! すごっ!どおりでよく見かけるわけだ。
名前が「ルノアール」なのだが、これはやはり印象派の画家「ルノワール」から来ているのだろうか。ということは……店内は、フランスの貴族たちが木漏れ日の下で優雅にお茶してる感じ……なのだろうか。
ということで「ルノアール」の実態を確かめるべく、調査しに行ってみた。

実はあたしの住む街、高円寺にも「喫茶室 ルノアール」がある。
駅前徒歩30秒ほどのところ。とあるビルの二階。なかなかいい立地にあって、引っ越し当初から気になっていた。

どうやら高価な店らしいので、お財布を分厚くするため、ATMに寄ってからの入店。
胸のドキドキを押さえながら「ルノアール」の門をくぐった。
「いらっしゃいませ」と礼儀正しそうな男性スタッフが迎えてくれる。
お洒落……とは言えないが綺麗な店内。昭和・モダン(?)な感じ。
これはまさしく〝喫茶店〟の匂いがする。〝カフェ〟ではなく〝喫茶店〟!
大阪で言う「喫茶館 英國屋」みたいなもん、とあたしは勝手に位置付けた。(余談だが「喫茶館 英國屋」は関西が中心のお店だとこっちに来て知った。大阪ではあんなにいっぱいあるのに、東京ではほとんど見かけない。何件かはあるらしい)

店員さんがお冷とおしぼりを持ってきてくれる。なんとこのおしぼり、温かい上にビニールに包まれており、なおかつおしぼり置きに乗っている!おしぼりだけで、なんかコストがかかってるじゃない!
どんだけ高級やねん、とドキドキしながらメニューを広げた。
……噂に聞いてはいたが、値段はやや高め。普通のコーヒーが510円もする。美味しいコーヒーが100円で飲めるこの時代に一杯500円以上なんて……これはもう大阪人としては、あのセリフが口から出てしまう。
「場所代、えらい高いなぁ~」

しかし、せっかく来たのに普通のコーヒーじゃつまらない。「ルノアール」っぽい飲み物を頼もうと思い「芳醇黒蜜カフェオーレ ¥690」というのを注文してみた。690円!おお、結構ええ値段するやないの。

改めて店内を見渡してみる。スタバやドトールに比べ、年齢層がかなり高い。40代~60代の男性客ばっかり。この温かいおしぼりは顔をワシワシ拭くためにあるのだな、とこの時思った。
そしておひとり様がやたら多い。パソコンを持ち込み仕事していたり、新聞を読んでいたり。ちなみにコンセントを自由に使っていいらしくパソコンの電源は取り放題。新聞も入り口のところにおいてあるので勝手に読んでいいらしい。
井戸端会議をするようなおばちゃんも、ギャーギャー騒ぐ学生もおらず、店内はとても静かだ。ジャズの音楽が優雅に流れているのが聞こえてきた。

エッセイ用に店内の様子をメモし、メニューをこっそり写メしていると「芳醇黒蜜カフェオーレ ¥690」がやってきた。
お、なんだかお上品な器に入っているぞ!(訳:量が少ない)
ひとくち飲む。……美味しい。美味しいのだが……そういえばコーヒーには砂糖を入れない派のあたし。口の中が甘ったるくなってしまった。なんでこんな甘い飲み物を頼んだんだろう、と数分前の自分を恨んだ。
とはいえ電源を借りられるし、席と席の間はゆっくりしてるし、仕事をするにはもってこいの環境。あたしはみんなに倣いパソコンを広げた。

滞在30分ごろ。この時間になると「ルノアール」だけのオリジナルサービス、噂に聞いていたアレが出てきた。
……そう
〝熱いお茶〟!

実はお店のことを事前調査していたあたし。「ルノアール」でネット検索していると、ヤフーの知恵袋の、とある質問が目に留まった。
「ルノアールに初めて行ったのですが、お茶を出されました。帰れと言う合図ですか?」
それに対してルノアールバイト経験者と名乗る回答者が丁寧に答えていた。
「もう少しゆっくりして行ってくださいね、という意味ですよ」と。

おかげで貴重な前知識を得たあたし。突然の熱いお茶提供にも動じることなく「ありがとう」と余裕の笑みを店員に返すことが出来た。

「ルノアール」に滞在して、1時間ほどが経った。
その日は4月だと言うのに真冬並みの気温で、北風が冷たく外は雨まで降っていた。
入り口付近の席だからだろうか、窓のそばだからだろうか。冷え性のあたしは寒くて寒くてたまらなくなってきた。コートを羽織っても、寒さは和らがない。どうしよう。
しかし、ここは天下のルノアールだ、何か防寒具を貸してくれるだろう……と、思い切って店員さんに声を掛けてみた。
「寒いんですが……ひざ掛けとかありますか?」
すると背の高い女性店員が言った。
「申し訳ございません、そう言ったものを用意してなくて……」
ペコリと一礼、早々にキッチンの方に行ってしまった。
その後すぐにキッチンの方から、さっきの店員の声が聞こえてきた。
「なんか、さっきお客さんに寒いって言われてぇ―……」

おいおいおーい、陰口か。なんか感じ悪いぞ。
裏で悪口を言われ、ムスッとしたあたし。もう店を出てやる、と支度を始めたその時、
さっきの店員さんが小走りで戻ってきた。
「あの……熱めに入れたお茶と、熱いおしぼりです。これでどうぞ温まってください。あと、窓から冷気がきてると思うんで、ロールカーテン下しますね」

(……じーーーん……)
きた、優しさが胸に染みる音。

さっきの裏での会話は、陰口でもなんでもなかった。ただの勘違い。熱々のお茶を入れてくれるよう、キッチンの人にお願いしてくれてただけだった……。
わがままを言うあたしの為に、一生懸命にカーテンを下してくれる店員さん。
カーテンのおかげでなんだか背中のひんやりがなくなり、暖かくなってきた。そして熱いお茶も、手に取った熱いおしぼりもあたしの身体を温めてくれた。
(……じーーーん……)
あったかいよ、色んな意味で。

店内はずっと満席。お客さんは入れ替わり立ち替わりやってきた。それもなんだか頷けた。だって居心地がいいのだもの。スタッフの対応がとってもいいのだもの。
これはお値段が高くても納得だ。
嗚呼、ハマりそうだな、ルノアール。

第16回 関西人への偏見


東京人に、こんな悔しいことを言われた。

「あれぇ今のボケに対する、本場のツッコミが見たかったなぁ~」

……ええ?
ええーーっ??
マジですか。まさか東京に来て「ツッコミでくれ」と要求される思わなかった。
っていうか、そもそも本場のツッコミって何?「なんでやねん」「もうええわ」漫才でお馴染みのセリフ?……それともあれ?
「そうそう、コレコレ、……ってなんでやねん!」
ってノリツッコミをすればよかったの?

……いや、ちょっと待てよ。「本場のツッコミが見たかったなぁ~」って言いますけど、そもそも今、あんたはボケてたのか?と言うところが問題だ。
東京人の発信するボケはどうもキャッチしにくいのだ。ボケなのかちょっと不思議な世間話なのか、判断しにくい絶妙なところを責めてくる。もっと分かりやすくアホをやってもらえば、さすがのあたしもツッコめたはずだ。

関西人が発するボケは非常に分かりやすい。「はい、今ツッコミどころよ」と言う空気を醸し出してくれる。なんなら「今からボケるで」と鼻を膨らましてくるので、タイミングが掴みやすい。ツッコミがうまく決まるとこちらも気持ちいいし、ボケた方も嬉しい。笑いが起きるともっと嬉しい。それが関西人。

……と、こんな話をしておいてなんだが、そもそも関西人が全員うまいツッコミが出来るとは限らない。ツッコミよりどちらかというとボケ役という人もいるし、なんなら笑いから遠い世界で生きている人もいる。
関西人は確かに明るくて親しみやすい人が多いけど、関西人=みんなオモロイ人とわけではないので、気を付けていただきたい。

そう、東京に来て感じたこと。
あたしが東京に対して偏見を持っているように、東京人も大阪に偏見を持ってる。
「大阪出身です」と自己紹介すると「関西ってこうだよね」「大阪って○○じゃん」と非常に偏った情報を話してくれる。
やっぱり一番多く言われるのは……

「関西って、一家に一台たこ焼き器があるんでしょ」

これ、よく聞かれる。

「……んー。あるんじゃない?」とあたしは答える。

実際に一軒一軒聞いて回ったわけじゃないから分からないが、大体の家にはあるんじゃないだろうか。
もちろん我が家にもたこ焼き器はあった(いまは……ないのかな?)小さいころ、みんなで集まってたこ焼きパーティしたり、晩御飯としてたこ焼きが登場したり。

そう言えば、この「晩御飯にたこ焼き」ってのを話すと東京人にびっくりされる。東京人いわく「たこ焼きはおやつ」らしい。
えー、ダメ? 別に晩御飯としておかしくないと思う。おなかなるし。むしろ晩御飯がたこ焼きやったら嬉しい。
他にも「たこ焼きをおかずにご飯を食べてるってほんと?」と聞かれることも多い。うーん、それはすごく少数派?あたしは、たこ焼きはたこ焼きだけで食べる。ひとり20個以上は食べるので、ご飯が入るスペースがないというのが理由。ちなみに「お好み焼きをおかずにご飯を食べる」人は、結構いると思う。お好み焼き定食とかあるし。これも関西だけか。

「幼稚園児がたこ焼きをひっくり返せるってホント?」とも聞かれたことがある。なんかテレビでやってたらしい。
……たしかに、あたしは物心ついたときからたこ焼きをひっくり返していた。最初はヘタッピだったが、回数を重ねるごとにピン(千枚通し)の回転の仕方だとか、はみ出た生地の処理法を学び、最終的には鉄板の油の乗り具合まで見れるようになったのだ。誰から教わるでもなく、ごく自然に学習したように思う。
これって変なんだろうか。

たこ焼き以外の話をしよう。
「大阪と言えば」で、こんな話を良く聞く。

「大阪のおばちゃんってヒョウ柄着てるよね」

うん、着てるねー。ははは。
ちなみにヒョウ柄を着ているのは、おばちゃんに限らない。(さすがにヒョウの顔がプリントされたTシャツとかはおばちゃんしか着てないけど)
若い女の子たちもファッションのポイントとして取り入れている。ヒョウ柄をワンアイテム入れてると、大阪では「なんかお洒落やん」となる。そういえばNMB48の制服の柄もヒョウ柄だ。

最後に……とある東京人の大阪旅行の感想にビックリした。

「大阪行ったらさ、みんな大阪弁喋ってるからびっくりしたよ!」

……そりゃ大阪やもんっ!!!
と一応ツッコミを入れておきました。
(あれ、これはボケじゃないの?真剣な話なの?東京人のこの微妙なラインの会話が難しい)
聞き慣れていない人からすると、大阪弁は「テレビの中の言葉」らしい。
まあ、あたしも東京にきたとき聞き慣れない東京弁にビックリしたもんな、それと同じか。

日本と言えど、西と東でこうも違うもん。
お互いに偏見はあるんやね。

第15回 え、あれってローカル番組だったの?


 

金曜の夜。11時過ぎた、慌ててテレビのスイッチをON。
……あれ、なんでやってないの?
そう関西の人はおわかりだろう。関西で視聴率No.1番組。
「♪タッ、タ、タラン~」馴染のイントロで始まるあの長寿番組。

「探偵!ナイトスクープ」

依頼者(一般視聴者)の無茶な依頼や無理難題に、探偵(芸人さん)が悪戦苦闘し依頼を解決していくと言う番組。「電子レンジで爆発卵を作りたい」「マネキンと結婚したい」という爆笑の依頼もあれば、「戦場からきた父の手紙を解読したい」という涙必須のVTRもある。
笑いと涙を体験できる、あんなに面白い番組。なんで東京でやってないの?

ナイトスクープだけじゃない。東京に来て「え、あれって関西ローカル?こっちで見れないの?」と悲しくなることが多い。

例えば、
「痛快!明石家電視台」
「ちちんぷいぷい」
「せやねん!」
「土曜はダメよ!」
「たかじんのそこまで言って委員会」

……嗚呼、大好きな番組たち。(ほかにもいっぱいある)
東京で見ることが出来ず、あたしはかなりストレスをためている。

なんだろう、大阪の番組は空気がゆるくて見ていて和むのだ。
「ちちんぷいぷい」という平日午後の情報番組はなんか、和み系番組の筆頭だ。〝のほほーん〟という言葉が良く似合う。街の若者がアポなしで自宅に電話を掛け「今日の晩ごはんなに?」と聞くコーナーがあったり、夜中の終電間際ほろ酔いのサラリーマンに声を掛け熱く語ってもらうコーナがあったり。見ていて「なんかええなぁ」ってそんな番組だ。

そう関西ローカルの特徴をもう一つあげるなら、〝一般人がよく出てくる〟ということ。「探偵ナイトスクープ」「ちちんぷいぷい」もそうだが、「明石家電視台」の観覧客や、「土曜はダメよ!」のコーナーの「浪速コレクション」のおばちゃん達。
このテレビに映る一般人が面白すぎて笑ける。時に芸人を食っているほど。
この前東京の人に「ケンミンSHOWで見たんだけど、大阪の人はみんなノリツッコミできるって本当?」と聞かれた。
……うーん。否定はできない。
大阪人は上手いボケが来たらツッコミをするのは礼儀だと思っている。サービス精神旺盛な人種なのだ。

話は変わるが……
植村花菜さんの「トイレの神様」の歌詞の中に「新喜劇 録画し損ねたおばあちゃんを 泣いて責めたりした」というのがある。このフレーズの絶妙さ、東京人には分からないだろう。関西人なら誰しも共感できる歌詞だ。
あたしが小学生の頃。土曜は午前中だけ学校があって、4時間目が終わったらダッシュで家に帰っていた。ダッシュしないと12時54分スタートの番組「よしもと新喜劇」を見逃すからだ。帰ったらお母さんがお昼を用意してくれてて、(メニューはだいたい焼きメシか焼きそばだった)それを食べながら新喜劇を見る、というのが毎週のお決まりだった。そんな当たり前の日常を東京人に話してみるが「へー」という反応。
新喜劇で育ったあたしたち。東京の人は土曜の昼は何見てたんだろう。

東京人とテレビの話をしているとき、よく分からない言葉が出てきた。
「昨日ブランチでさー」
ブランチ?なんですか、それ。ご飯のこと?
……どうやら土曜日にやっている、東京ローカルの情報番組
「王様のブランチ」
のことらしい。
「王様のブランチ」??……けっ、さすが東京。気取った番組名つけますねー。

そういえば東京ローカルを知らない。どんなもんやねん、と土曜朝(いつも昼くらいまで寝てるのだけど)頑張って早起きしてテレビをつけた。
衝撃だった。

……え、谷原章介が司会をしている!!!
ドラマや映画にしか出ない俳優さんだと思っていたので、「では、次のコーナーです」と健気に番組進行している姿は受け入れがたかった……。(っていうか谷原さんがセリフ以外で喋っている姿を初めて見た)
そして女性司会者は……優香ですか!
なんともまあ、お洒落でさわやかな2人!
ツーショットが綺麗すぎる!
……これが東京ローカルなのか!と、衝撃で目が覚めた。

もちろん番組の内容もスマート。
びっくりしたのはレポーターが、カワイイ女の子であること。
ロケに行って情報をつたえるアイドル系女子たち。なんてキュートでいちいちカワイイんだ!
大阪の番組だと、まずこの役割は芸人さんがする(シャンプーハットとか千鳥とかね)。
笑いを交えつつ、やんわりロケが進むのが特徴だ。

「ブランチ」はスタジオのコメンテーターたちもなんかシュッとした人が多い。発言も知的でスマート。
紹介された商品をけなしたり否定することは、まずない。そしてゲストをいじったり、話にツッコんだりと言うこともない。
大阪だとコメントする人たちも芸人さんで(たむけんとか未知やすえさんとかね)なんか適度にオモロイことを言っている。出演者同士でツッコんだり、掛け合い漫才が始まったり。そんな番組を見て育ったせいか、どうも「ブランチ」は馴染めない。

そして最後に。
リモコンのチャンネルにいまだに苦戦している。
旅行先のホテルでテレビをつけると、何チャンがどの放送局なのか分からず困っちゃう、アレだ。
「お、やべ。もう9時だ」毎週見ているドラマを見逃すかい、と思ってテレビをつけるが、何チャンなのか分からずいつもてんてこ舞い。チャンネルの番号を順番に押している。だから冒頭30秒は見逃すことが多い。そろそろ覚えなきゃ。
日テレ、4チャン
テレ朝 5チャン
TBS 6チャン
このへんが大阪と違うのでややこしい。
よし、そろそろ覚えるぞ。

第14回 地震こわい


 

大阪のみなさん、東京は地震が多いです。

あたしが上京したのは6月。
本当は春になったらすぐに(4月くらい)上京する予定だったのだが、震災が起きたことで延期した。それでも「なんで今の時期に東京に行くんだ」「あと2、3年待ってみたら?」と周りのみんなは心配。そりゃそうだ。テレビでは震災関連のニュースが続いているし、放射能の心配もある。

頃合いを見て、東京に住んでる友人に聞いてみた「東京どうでっか?」と。
「もう普通だよぉー」と返事がある。
物流も通常通りだし、電車も普通に動いているし、目立った混乱はないよーとのこと。

ということで東京にやってきた。

ええーと?……どこが普通なの?
大阪のみなさま、関東は揺れまくってます。地震だらけです。ものすごい短いスパンで地震が発生してます。(東北地方、震源地にお住まいの方はもっと怖い思いをされているかと思います)

「もう普通だよぉー」
というのはつまり、「地震はしょっちゅう起きてるけど、それが普通だよぉー」という意味なのか。……いやいやいや、それは普通じゃない!
「もう慣れたよねぇー」
こらこらこら。地震に慣れてたまりますか。

特に東京に来たてのころ、恐怖心が強かった。
右も左も分かららぬ東京の町。今いる場所が、海から近いのか遠いのかも分からない。
関東の地図を正確に思いだせないあたしは「震源地・茨城」「震源地・千葉沖合」……といわれてもここから遠いのか近いのかも分からない。

それにすぐそばに家族や友達がいない、というのがとにかく怖いのだ。周りは得体の知れない東京人だらけ。なにか起きても頼れるのは自分だけ。
もし直下型の大きいのが来たらどうしよう。毎日ビビりながら生活している。
上京して9か月経った今も、地震に慣れることはまずない。

アイフォンで「ゆれくるコール」というアプリを入れている。
なまずのアイコンで有名な、緊急地震速報通知アプリだ。自分の住んでる「地域」と、警報が鳴る「震度」を設定できて、地震がくるときに警告音がなるというアプリだ。
東京に引っ越ししてから「杉並区」「震度3」に設定した。
……なんだこれ、ジャンジャン鳴るんですけど。
大阪に設定していた時は警報が一回も鳴らなかったのに、東京に設定した瞬間に鳴りまくっている。

通知音はNHKの地震速報と同じ音で「チャンチャーン・チャンチャーン」というサイン音。仕事をしているとき、料理をしているとき、突然鳴り響く「チャンチャーン・チャンチャーン」この音がとにかく怖い。怖すぎる。音が鳴るたびにあたしは身構え、命の危険を感じている。
ガタガタガタ……
おぇーー!怖えぇーー!
揺れが終わっても、しばらくは落ち着けない。

アプリに限らず、最近の携帯はどの機種も地震速報の機能がついているらしい。
電車に乗っているときに地震が来て、乗客たちの携帯が一斉に鳴りはじめたのにはびっくりした。
「ビー・ビ―」「チャンチャーン・チャンチャーン」「ウーウー・ウーウー」
みんなの携帯が一斉になるこの現象。それでも電車は普通に走っている。焦ったあたしは非常停止ボタンを押すべきかすごく迷った。が、周りの東京人は平常心。幸い大きな地震ではなかったので、大事には至らなかった。

困ったことに、緊急地震速報が鳴った時点では、どの規模の地震なのかが分からないのだ。
(設定した震度はあくまで予測震度なので、実際には震度3以下でも警報がなる)
毎回毎回警報が鳴るたびに「……だ、大地震かも」と身構え、スナイパーに狙われている級の、恐怖があたしを襲う。
「チャンチャーン・チャンチャーン恐怖症」になってしまった。
……毎回ビクビクしていては心臓に悪いので設定を「震度4」に変えた。実際に周りの東京人の人たちも、あまりに鳴りまくるので設定を「震度4」にしている人が多いらしい。
ちなみに「震度4」に変更してから一回も警報は鳴っていない。震度3と震度4は、そんなに規模が違うのだろうか。
こんど警報音が鳴った時のことを思うと、恐ろしい。

そして地震のとき建物が揺れる、ギシギシ音が怖い。
あたしが住んでいるマンションは築年数が割と経っている。どこかの部屋の人がドアを乱暴にあけたり、階段を勢いよく降りたりするだけでギシギシと音がなってしまう。
普段なら気にならない程度の生活音なのだが、テレビや音楽をつけずに生活していて、さらに地震に対する恐怖心がうえつけられていると、気になって気になってしょうがない。
物音がするたびに「地震?!」と身構え、周りをキョロキョロしてしまう。天井からぶら下がっている電気のひもを目安にしているのだが、大抵はひもは静止したまま。
つまり、地震が起きているという錯覚に陥っているのだ。

最近はあまりにもビビりすぎて、自分の心臓の鼓動で錯覚地震を起こすようになってきた。
ベッドで横たわっているとき、ソファーに座っているとき。スプリングやクッションみたいなふわふわしたものの上にいるときに、この錯覚を起こすことが多い。
ドクンドクンと脈打つたびに、「ゆ、揺れてる?!」と思って身構えてしまう。
どんだけ鼓動が激しいねん、とツッコミが入りそうだがこれマジな話。
さらに追い打ちをかけるように、マンションの壁がギシ……というもんなら、それはもうかなりのパニック。

調べてみると、こんな風に錯覚地震を起こす人はどうやら多いようだ。その大半は精神的な不安が原因だそうだ。あたしも心配し過ぎなのかもしれない。
(ただし平衡感覚を失う病気だったり、貧血だったりで地震と錯覚するケースもあるらしいので、不安な方は病院に)
これからは、もうちょっとリラックスして東京生活を送りたいと思う。

明日3月11日で震災から一年……。
こんな記事を書きましたが、被災地の皆様のことを思うとあたしの心配なんか小さいもんです。
地震や生活の不安がなくなって、被災地が一刻も早く復興することを願っています。

第13回 ほうげんの戦い


最近、自分が何弁を喋っているのか分からない。

早いもので、あたしが東京に来て、9か月経った。
このエッセイでも書いたが、上京したてのころ街中から容赦なく聞こえてくる東京弁にはかなりやられた。(プロローグ:上京物語を参照→こちら)「じゃん」「だよねー」「ウケるー」そんな言葉を耳にするたびに、違和感を感じ、嗚呼あたし東京におるんやなと感慨深い気持ちになった。
そして、上京して間もなくのあたしは目標を立てた。
大阪弁と東京弁を違和感なくつかいこなせるバイリンガルになろうと。
東京で大阪弁を大声で喋るにはちょっと勇気がいるのだ。苦い経験がある。

そのころあたしはまだ大阪在住で、東京に遊びに来ていた。
あたしは友達と二人で、渋谷に買い物に行こうと都心を走るバスに乗っていた。久しぶりに友達に会い嬉しかったので、あたしはとっておきの「すべらない話」を披露した。そう、コテコテの大阪弁で。「一万円を拾った」話で一番お得意のネタなのだ。
「こないだ、めっちゃオモロイ話があってなぁー……」
〝ちょっとテンションの高い大阪の女の子が、コテコテの大阪弁で喋っている〟……いつのまにかざわついていた車内が静かになり、気づいたらバスの中はあたしの独演会になっていた。しーんと聞き耳を立てるバスの乗客たち。張りつめた空気。きっとみんな思ってるに違いない「大阪の笑いってやつ、見せてもらおうか」と。
ビビった。大阪の芸人さんが東京では緊張してうまく喋れない、と言っていた理由が分かった。話を途中で辞めようかと思ったがここで止めたらもっと不自然だ。なんとかオチまで話せたが、「すべらない話」は見事にすべってしまった。
恐るべき殺傷力!
あたしは大阪弁を封印しようと決めた。

しかし、だ。
完璧に東京に染まってしまうのもいけない。
地元大阪に帰った時に「その話、マジでウケるじゃん」なんて言おうもんなら、仲間にボコボコにされる。あいつは東京に魂売った、と言われてはしゃくだ。
つまりバイリンガルになる必要があるのだ。
その時々に応じて【大阪←・→東京】の言語スイッチを切り替える。
東京では「その話、マジでウケるじゃん」と言い、大阪に帰ったら「あんた、めっちゃオモロイやん」と。そうTPOに合わせた使い分けが大事だ。

この9か月間、東京弁を習得しようと頑張り、そして大阪弁を出さないように気をつけていた。
しかし数日前、初対面の人に会話5秒で関西出身を見抜かれてしまった。

東京人「どちらの駅までですか?」
あたし「赤羽橋まで行きます」
東京人「関西出身ですか?」
あたし「……ぅえ?!」

出てるの?!……関西の風味、出てるの!

そうか「赤羽橋まで行きます」ってイントネーションが間違ってたのかもしれない。〝あかばねばし〟は「ね」がアクセントだと思っていたが「あ」かもしれない。「あ」かばねばし。いや、それはないか。

そう、関西と関東ではイントネーションが違う。とくに地名。
たとえば〝きょうどう(経堂)〟という東京の地名。あたしは頭文字の「きょ」にアクセントを置き、「きょ」うどう、だと思っていた。大阪でいう「京橋」と似た発音。しかし、東京人は「きょーどー」と言うのだ。抑揚なくなんかのっぺりとした発音で「きょーどー」。なんだこれ、気持ち悪い。
例えその②。〝てんのうじ(天王寺)〟という大阪にある地名。大阪人は当たり前のように「の」にアクセントをつけ〝てん「のー」じ〟と抑揚たっぷりに発音するが、東京の人は違う。「て」にアクセントを置く。〝高円寺〟みたいな感じに〝「て」んのーじ〟。この前東京の人が「とときさん〝「て」んのーじ〟ってどの辺?」と言ってきて、ぷぷぷっと笑ってしまった。
……いやいや。笑い事ではなかった。あたしも笑われぬように、東京アクセントをマスターしなくては。

アクセントと言えば。あたしが大阪でシナリオの勉強をしていた時、同じスクールに通う鹿児島出身の男の子がいた。彼は特有の方言単語(「おいわぁ」とか「そげん」とか)は使っていないが、地方出身者だとすぐに分かった。教科書通りの言葉を話していても、イントネーションが鹿児島なのだ。一言で言うと、なまっている。
きっとあたしも同じで、「~やねん」「~ちゃう?」というコテコテの大阪弁単語を封印したとしても、なまっているのだろう。

アクセントという大きな壁を越えられない理由に心当たりがある。
最近、東京にいるのに大阪の知り合いが増えてきたのだ。東京在住の大阪人ってのは本当に多い。そして出会ってしまうと、出身が一緒というだけですぐに仲良くなってしまう。
大阪出身者と会う時は、もちろんためらいなく大阪弁だ。隣の席からものすごい東京弁が聞こえてきて、THE・TOKYOを感じさせられても、仲間の団結力で大阪弁を喋る。
変な話だが、大阪人とつるんでいるときだけは「東京に染まったヤツ」という風に見られたくないのだ。普段は「あたし、東京人間よ」と澄ました顔で街を歩いているくせに。

なーんや結局、大阪弁ぜんぜん抜けてへんやーん。と最近、開き直っていたのだが……
気づかぬうちに東京に染まりつつある自分もいた。

この前、「いつもの電車に乗り遅れるー」とダッシュしたのに、駅に着くと人身事故で電車が止まっていた。
ホームにある掲示板を見ながら、あたしはポロッと呟いた。
「止まってんじゃん」
言った後で、びっくり。「じゃん」がでた。「じゃん」が!あたしの口から!
まさか、呟きが東京弁になってるとは。対外的に東京弁を喋ろうと思って努力して失敗してんのに、自分に掛ける言葉に「じゃん」がでた……。

……もうよく分からん。
コトバ問題に奮闘し、たどり着いたのがこれだ。「交じった」
【大阪←・→東京】の記号で示すなら矢印のちょうど真ん中にある【・】の位置にいる。ニュートラルな位置。
しかもこのスイッチは自分では制御不可能で、なにかのタイミングで【大阪】になったり【東京】になったりする。そう、スイッチは壊れているのだ。

まぁ、まだこれは途中経過報告だ。ゴールではない。もう少し時間が経てば、完璧なスイッチを身に着けていることだろう。
なにか変化があったら、またここで報告しようと思う。

第12回 東京に来てホクロができた


ある日朝起きたら、顔にホクロが出来ていた。

手鏡を覗き込みながら「うわ」と声をだす。
昨日まではなかった。右の頬のど真ん中。かなり目立つところに黒く小さいポッチリ。まだ皮膚の奥の方にいらっしゃる感じで、なんというかホクロが生まれそうな感じ。
27年間生きてきて、こういうのは初めてだ。

私はもともとホクロが少ない。これは体質とか遺伝的なものだと思う。
顔に小さいホクロが3つ。からだ中、数えてみても20個くらいしかないのではないか。

そう言えば昔、深夜のバラエティ番組で『ホクロ100』(たしかそんな名前)というコーナーがあったのを覚えている。街行く女性に声を掛け、体中にホクロが100個あったら一万円あげるという趣旨。超小型カメラで顔、腕、足を舐めるように撮影。そして時には下着ギリギリラインのホクロを撮影するために、服の中にカメラを入れたり……そういうちょっとエッチな内容だった。
もし私が街で声を掛けられてそのコーナーに出演依頼されたとしても、ホクロを100個お見せする自信がないので即断るだろう。当時、そんなことを考えながらテレビを見ていた。
なにが言いたいのかと言うと、それくらいホクロの無さは自信があるということだ。

ホクロ発見から一週間。表皮の奥に眠ったホクロの卵が、ついに顔を出した。
ほっぺたのど真ん中。やばい、どんどん目立ってきたぞ。前は手鏡を覗いたら「あ?」って気になる程度だったが、今となっては少々距離をとっても「ああ」とはっきり分かるくらいだ。
しかしこの新生ボクロ……どうもほかのホクロと雰囲気が違う。
ホクロと言えば黒い色素沈着のイメージだが、コイツは濃い茶色でなんだか突起している。触ると、指に出っ張りを感じられる。ニキビか?ソバカスか?と一瞬考えたが、でもやっぱりホクロというのが一番しっくりくる。
気になって観察し続けると、なんと左の目尻のあたりにも、黒いポッチリ予備軍が。さらによく見ると、右の目の下にも。
えーーー!まさか、まさか。顔中、ホクロ大量発生?
私の身体の中で何かが起きている。ぶるぶるぶる、恐怖で震えた。

というのも、過去に一度似たような経験をしている。
小学生の頃、ある日突然左の手のひらにイボが発生した。鉄棒のしすぎでできるマメでも、勉強のし過ぎのペンだこでもない。得体の知れない、固いイボが手の柔らかな部分にできている。良く見るとミカンのヘタを裏返したみたいな模様になっている。(どんなやねんと思った方はミカンをめくってみよう)
何もしていないのに、どんどん成長し続けるイボ。直径1センチくらいになって怖くなったので「イボころり」を手のひらに貼ってイボを除去した。
綺麗にとれて安心したのは束の間、今度は右手にイボが生えてきた。目を凝らして良く見ると、両手合わせてイボ予備軍が10個くらい潜んでいる。……イ、イボの逆襲だ!
私は、いつか体中がイボだらけになるのではと、恐怖で夜も眠れなかった。
……しかし、イボはいつの間にかいなくなっていた。あんなに悩まされた日がウソみたい。約一ヵ月の時を経て、あたしの手のひらは綺麗な手のひらに戻った。

――で、まさかのセカンドシーズン到来。今度はホクロか。
短期大量発生に驚いたあたしはインターネットでホクロを調べまくった。大人になってからホクロが生えてくるという例はまれに有るらしい。しかし原因は不明だそうだ。(遺伝的にホクロが生えやすい体質と、そうでない体質の人はいる)

原因不明だとか言われても納得はできない。自分なりに理由を考えてみた。

ホクロが発生したのは、東京に住み始めて5カ月くらい経ったころ。そろそろ生活に慣れてきたころなのでストレスではなさそうだ。じゃあ食べ物か?あ、水か?
色々考えた末、一つの仮説に行きついた。
東京の空気のせいではないか、と。
やっぱりここは大都会・東京である。実感はないが、やはり空気が汚れているのだろう。
もしかすると……(ここからは勝手なイメージである)都会の空気中に含まれるなにかゴミゴミとした塵のような異物が、鼻を通って肺に吸収され、そして体を巡り巡って、顔のほっぺたにたどり着いたのではないか。(……いや、だから勝手なイメージである)
大都会・東京。やっぱり恐ろしい街である。

ホクロ発生から3週間経ったある日のことだ。
ファンデーションを塗っていたらなんだか違和感を感じた。んん?……ホクロが出っ張っている。いや、以前から出っ張っていたのだが、より突出感がある。しかも触ると痛い。ニキビほど根は深くないが、カサブタのような手ごたえを感じる。なんだこれ。

ホクロじゃないのか?カサブタなのか?
とれるか?……とろうか。悩むあたし。
……いやいやいや、ここは慎重に考えろ。これがカサブタなはずはないだろう。もともと傷なんてなかったのだから。
それにイボの逆襲の時のように、ホクロにも逆襲(さらなる大量発生)に見舞われるのは嫌だ。
ということで私は、腫れ物に触るようにそっと……そぉっとして扱った。

そしてホクロ発生から一ヵ月経った。
朝、顔を洗おうと鏡を見てびっくりした。ホクロがいなかった。
とれた?寝てる間にとれたのか?
慌ててベッドの周りにホクロの断片が落ちていないか探したが、1ミリに満たない小さな黒いポッチリを見つけることはできなかった。
そしてその2週間後に左の目尻のホクロも取れる。
やっぱりこのホクロは大気中のゴミだったのだ、と私は確信した。口から入った食べ物が、便として排泄される。それと同じ摂理で、体に入った異物が外に出たのだ!

しかし三番目にできた右目の下のホクロがいまだご健在だ。発生からゆうに3カ月が経つ。
……最近、認めたくないのだが思うことがある。
もしかしてこの小さいポッチリ〝シミ〟じゃないの……?
それはそれで怖い話だ。
27歳。お肌の曲がり角、確実に曲がったようだ。

※この話はもちろんノンフィクションですが、ホクロの話は個人的な体験・見解です。悪性のホクロもあるらしいので、ホクロで不安のある方は皮膚科に行ってくださいね。

第11回 ラーメンがうまいらしい


 

まずは、今日学習した東京用語(?)をひとつ。

「白金高輪」は「シロカネ タカナワ」と読むらしい。「シロガネ コウリン」だと思っていたあたしは、電車のアナウンスを聞いて驚きを隠せなかった。

白金=ハッキンではないだろうと思っていたが、さらに上行く変化球……あなどっていた。

 

 

さて、本題。今回はラーメンの話である。

 

男の人はどうしてあんなにラーメンが好きなんだろう。

「毎日毎食ラーメンでも飽きない」

「シメはラーメン」

「ラーメンの為に電車を乗り継いで見知らぬ街へ」

……マジですか?そのうちラーメン風呂に入りたいとかいうツワモノ男子も出てくるだろう。

 

ラーメン好きの女子もいるだろうが、やはり男性に比べると人口は少ない。ラーメン屋に女ひとりで入りにくいというのが大きな原因だろう。でもほかにも要因があるとと思う。

理由その① 「あんまり濃ゆいものはちょっと……。それに太るでしょ」という感じでラーメンを敬遠。たしかに毎食ラーメンはお肌に悪そうだ。

理由その② 女の人は「一つのモノをガッツリ」より「色んなものをちょこちょこ」食べるのが好きだ。ラーメンを一杯よりも、カフェで「セット」みたいなのを食べたいのだ。

そして、そして……

理由その③「大事な人とゆっくりご飯を食べたい」……これが乙女の本音なのじゃないか。

ということで男性のみなさん、くれぐれも初めてのデートでラーメン屋に行かないように。ラーメンじゃなくてパスタに行ってください。

 

 

 

 

ところで大阪在住のころ、こんな噂を聞いた。

「うどんは関西がうまい。でもラーメンは関東がうまい」

 

……正直、そんなにラーメンを愛していないあたしは、「へぇ」の一言で済ませた。しかし、あたしの隣でワクワクと鼻を膨らませている人物がいる。このエッセイでは久しぶりの登場、あたしの彼氏である。(彼氏という言葉がこっ恥ずかしいので相方さんと呼びます)

 

大阪在住の相方さんは大のラーメン好き。二人でよくラーメンを食べに行った。(初デートでは行っていないのでご安心を)近所のラーメン屋を巡ったり、中津にある人気店「弥七」のラーメンを食べるために、寒空の下1時間半並んだこともある。

毎日ラーメンでも構わない、そんな相方さんにあたしは言った。「東京に遊びに来てね。美味しいラーメン案内するから」

 

ということで、相方さんが東京に遊びに来るたびにラーメン屋をめぐることになった。

今日はここ。明日はあそこ……。

別にラーメンが嫌いなわけじゃないし、お腹いっぱいになる割に安いし、いいんだけど……。いいんだけど……

やっぱり3日連続のラーメンは女子には厳しい。

……たしかそのとき世田谷区の経堂にいて、ネット上で見つけたラーメン屋さんに向かっていた。店の前までやってきたものの、なんとなく躊躇するあたし。やっぱり3日連続でラーメンを食べていると、気分がのらない。それよりも、その手前にあるカレー屋さんの匂いに惹かれていた。なんとか相方さんを説得しその日の昼食はカレーに。そこのカレーはなかなか美味しかったので満足だった。

 

しかし後悔したのは数日後。

あたしが店の前で引き返した経堂のラーメン屋「らーめん秀」がテレビの『人志松本のヨダレがでる話(人志松本の〇〇な話)」で紹介されていたのだ……!

タレントの勝俣さんが、ここのラーメンの良さを語る語る。豚骨スープのツヤツヤした表面が画面アップで映る。ヨダレじゅるり。

「ああ、食べときゃ良かったーー!」

大後悔したのは言うまでもない。

 

 

 

 

あたしが住んでる高円寺の町は、若い男性が多く住んでいるのかラーメン屋がめちゃめちゃ多い。駅前にはラーメン横丁というフードテーマパークまである。

相方さんが東京に来ているときに何件か行ってみた。「田ぶし」と「じゃぐら」が美味しかった。でもどんなに美味しい店があると分かっていても、ひとりでラーメンには行かない。

やっぱりラーメン屋にはひとりで入りにくい。おひとり様をするなら、カフェかファーストフードに行ってしまう。

 

 

こんなにラーメンに執着のないあたしが、東京に来て一度だけ「ああラーメンが食べたい」と心の底から思うことがあった。

その日は冬の始まりを告げるような冷たい風が吹いていて、締め切り前でヘコタレ気味だった。何か温か~いスープ的なもので身体をあっためよう……ラーメンとかどうかな。うん、ラーメンいいかも。……ラーメン、ラーメン……ラーメン!!

唱えているうちにすっかりラーメンのお腹になったあたし。

この日が記念すべき一人ラーメンデビューとなった。しかし、このあとあたしに悲劇が訪れる……

 

どこの店に行ったらいいのか分からなかったので、駅前のラーメン横丁に向かった。

どの店に入ろうか……。フードパークの狭い通路を何往復もするあたし。お客さんで溢れ返っているお店も嫌だし、ガラガラのお店も嫌。味よりもまず、店の雰囲気で選ぶあたりがラーメン初心者である。ほどほどの込み具合のラーメン屋〝N〟に飛び込んでみた。

 

ほんとに一人でラーメン屋に入ったことのないあたしは、ラーメン屋の作法というのが分からない。食券を買うのも一苦労。どこに座ったらいいのかも分からない(結局誘導されたカウンター席に座った)。ラーメンを待ってる間、何をすればいいのか分からない。

そして出てきたラーメンをひとり黙々とすするのは、なんか変な感じがした。

ラーメンを食べながら不安が頭をよぎる。

(やっぱり男のヒトばっかりやな)

(女ひとりで変に思われてへんかな?」

(食べ終わったラーメン鉢は、カウンターの一段高いところに置いた方がいいのかな?)

そんなことを考え、あんまり味わうことが出来なかった。

 

でも、身体はポカポカに温まった。外は北風が吹いて寒かったが、胃袋がカイロになったみいだ。あたしは小説を書くためにその足でカフェに向かった。

いつものサンマルクカフェでコーヒーを頼み、支払おうと財布を開けた……その瞬間。

「……あれ?」

財布の違和感に気付く。

「……あれ、一万円札が入ってたはず?」

考えるあたし。リモコンの[巻き戻し]を押したように、さっきのラーメン屋での映像が5倍のスピードで早戻しされていく。

 

……食券機だ。

 

一万円入れて、お釣りを取り損ねた。

 

ガーン。と言うベタな効果音があたしの耳元で鳴った気がした。すぐにラーメン屋に戻った。あたしが店を出てからもう10分くらい経っている。……もう、今から行っても、どうにもならないかも?でも行くしかない。

ラーメン屋に着いて、店の人に事情を説明。

 

店員「はぁ……どうしようもないですね」

 

ガーーーン。聞きたくない効果音がまた鳴った。

どうやらあたしの9千円以上のお釣りは誰かに持ち去られた様子。誰かって、それはあたしの次に食券を利用した人である。

そういえば……あたしがカウンターの席に座ってすぐに、大柄の男性が隣に座った……絶対、その人が犯人!!その人は昼間っからビールをうまそーに飲んでた。……そのビールってつまり「臨時収入に乾杯」ってやつじゃないのか?ゆ、許せんーーーっ!

 

こういう事例は警察に通報しても犯人は捕まらないことが多い、と店員さんが言う。

そもそも、あたしがどんくさいから悪いのだけど、悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

初めての〝ひとりラーメン〟だったのに……

勇気を出してみたのに……グズッ……

東京はラーメンが美味しいって……うううっ……(泣く)

 

……実際は泣いてないが、ラーメンという言葉にかなり抵抗感を持つようになったあたし。

東京のラーメンがどれほど美味しいとしても、もう一人で行くことはないだろう。

何かのはずみで、どーしてもラーメンを食べたくなったら、千円札だけ持って家を出ようと思う。

 

 

あーそれにしても高いラーメンだった……。

ひとりラーメン、デビューまだのみなさんは……どうぞお気を付けください。

第10回 このまち大好き。高円寺


 

あけましておめでとうございます。

「東京、アホちゃうか~」も、いつのまにか連載10回目。

いつもゆる~く、楽しく書かせてもらっているこのエッセイ。これからもボチボチやるつもりなので、今年もどうぞひとつ、よろしくお願い申し上げます。

 

 

さて、記念すべき10回目。

あたしが住んでいる高円寺について書きたいと思う。

 

まずはなんで高円寺という街を選んだのか、だ。

 

〝東京でどこに住むのか〟

上京を計画している人にとって、これはなかなか重要な問題であろう。

一般的には「大学の近く」「職場の近く」そんな感じで住む場所を決めるのだろうが、なんせあたしは夢を追って東京に出てくる身。拠点となる場所を自分で決める必要があった。

 

そりゃ、まあ……東京に来たからには、新宿とか六本木とかの『THE・TOKYO』ってとこにも住んでみたい。しかし〝住みたい〟と〝住める〟は別なわけで……。どうにもならないお財布の事情も踏まえ、あたしは〝東京まち探し〟を始めた。

 

 

実は、あたし。昔から下町ってのが大、大、大好き。

大阪の地名を上げれば「天満」とか「谷町六丁目(略して谷六)」とかね。

(※どうでもいい話だが、天満の発音はテ「ン」マね。「ン」にアクセントです。東京の人は「テ」ンマと発音したりするので違和感を感じてしまう)

「天満」というのは、日本一長い天神橋筋商店街がある街。人がたくさんいて賑やかで活気づいている感じが好き。「谷六」は昔ながらの町並みが広がっていて、道を歩いてると匂いがして「あ、ここのうち今日カレーだな」って、そんな生活感を感じられる空気が好き。

はたして東京にも、人情と風情溢れる街はあるのだろうか……。

 

 

東京に住む友人に聞いてみる。

「東京で下町って言ったらどこなん?」

すると返ってきた言葉はこれ。

「浅草とかどぉ?」

……いやいやいや、浅草はないわー。

大否定するあたし。

……だってアレでしょ?浅草って「てやんでぇい、ばかやろー」の街でしょ?

「オイラ、生粋の江戸っ子だぃ!寿司食いネェ!」そんな粋のいい人たちと仲良くお付き合いできる自信がない。

 

 

浅草を却下したところで、別の情報が入ってきた。

「中央線界隈はどう?中野とかさぁ下町だよ……」

ほうほう、どれどれ……と調べてみる。

 

どうやら中央沿線は音楽や演劇をやってる人が多くて、文化の街らしい。調べてみると、家賃相場や物価もそんなに高くないし、結構住みやすそう。新宿までのアクセスもいいし、吉祥寺とか「住みたい街ランキング1位」になっている。

 

……ふ~ん、中央線かぁ。まぁまぁええんちゃう?

 

ということで、下調べをするべく東京にやってきた、あたし。

どこに住むか絞りたかったあたしは、中野から吉祥寺まで各駅停車で降りて、それぞれどんな特徴がある街なのか、実際住めそうなのかを調べてみた。(丸一日かけたが「西荻窪」だけは時間的に回れなかったので、ご了承を)以下がレポートである。

 

 

「中野」

なんでも揃ういい街だと思ったが、中野ブロードウェイのオタク一色な空気にビックリ。サブカルチャーを舐めていた私はノックアウト。この街に呼ばれていない気がして、候補地から外した。

 

「阿佐ヶ谷」

ドラマ「ひとつ屋根の下」の舞台と聞いていただけあって、いい感じの下町。隣の家からカレーの匂いがしそうな感じも高得点。道を歩いていると愛想のいい猫がいて「かわいいー」と近づくと牙を向けられた。猫が怖い、という猫好きのあたしにとってはかなり悪い印象の街となった。

 

「荻窪」

便利な街だろうが、あんまり惹かれなかった。フィーリングかなぁ?駅前が賑やかで、栄え過ぎてるのが好きじゃないのかも、と思った。

 

「吉祥寺」

そりゃみんな住みたいわ、と思う街だった。便利すぎるやん、楽しすぎるやん。でもこの街に住んでしまうと、楽しすぎてお金を使ってしまいそう……。ということで候補から外すことに。

 

 

そして最後に、一番惹かれた「高円寺」のことをじっくり語ろう。

 

まず高円寺の駅に初めて降りた時「あれ、ここ天満?」って思った。なんとも言えないゆる~い空気が流れている。「あ、ここスッピンで歩けるわ」と感じたほどだ。

 

駅前の感じもなんか好き。荻窪みたいな背の高いビルやショッピングモールはない。小さな商店がゴチャゴチャとひしめきあっている感じ。活気のある商店街がいくつもあるのが高得点で、「いらっしゃい、安いよー」と叫んでる八百屋さんがあったのも良かった。

 

そして街を歩いて見つける『ランチ500円』の看板。

「ええっ?!ありえへんっ」

そう、事前に聞いてはいたが、高円寺は物価がめちゃくちゃ安い。安いもん好きの大阪の血が騒ぐ、騒ぐ。

どうやらスーパーの激戦区でもあるらしく食料品も激安だ。大阪でもおなじみの『業務スーパー』。そして『OKストア』とかいう東京で一番安い(ホンマに?)ディスカウントスーパーもある。ちなみに『OKストア』は関西にはないチェーンで、初めて店の前を通った時に「ふざけた名前つけてんなぁ」ってバカにした覚えがある。今じゃ一番お世話になっているスーパーで、OK様には頭が上がらない。

 

 

そんな物価の安さも素晴らしいのだが、

高円寺という街に一番惹かれたのは……

若い人がいっぱい住んでいる、という点。

音楽と古着の街ということもあってか、街を歩いている人たちが若い。店で働いている人たちも若い。もちろんお爺ちゃんお婆ちゃんもいるんだろうが、生き生きとした若い人たちがこの街を作っているんだな、って感じがした。

ここに住んでたら楽しいことが起きそう!

面白い人たちと出会えそう!

そんなワクワク感を抱き、あたしは高円寺に住むことを決めた。

 

 

……で、実際住んでみて、どうだったって?

 

 

それはもう、大正解!

 

高円寺に来てよかったと心の底から思っている。

ちなみに〝住んでみたい街ランキング〟ではなく〝住んで良かった街ランキング〟で高円寺は堂々の第2位を取っている(1位はなんと。サブカルノックアウトの中野)。

街を歩いていて楽しいし、美味しい店も多い。強いて不満を言えば、ツタヤがないことくらいか。

 

そして……住んでる人たちが、ゆるくて優しい。

あたしのマンションから駅までの間に何件かお店があるのだが、毎日歩いているうちになんとなしにお店の人と顔見知りになり、最近じゃ「おはよー」「行ってらっしゃーい」と挨拶を交わすようになった。これも下町ならではの人情だろう。

 

 

最後に、特記すべきことがある。

最近、高円寺に住んでるお友達が何人かできた。紹介してもらって知り合ったのだが、近所に友達が住んでいるというのは楽しいし心強い。

こないだなんか「高円寺会開くよー」って言って声をかけると、22時という明らかに終電を意識していない集合時間にも関わらず、高円寺の改札のところに8人(!)も集まった。自分で誘ったくせに「みんなこんな遅い時間によく来るね……」と言ってしまった。

でもね、ひそかに感動してました、あたし。「みんなで盛り上がろうぜ」って、そんな高円寺の人たちが好き。

この街に住んで良かった、と思った最高の瞬間。

 

 

……どうですか?みなさん、高円寺に住みたくなりましたか?

上京を考えてるかたは高円寺にいらっしゃい!

一緒に飲もう!大歓迎!