うちのマンションに遊びに来た、大阪の友人が「東京の人って冷たいよなー」とボヤいていた。
新宿駅でどの電車に乗ればいいのか分からず、改札の横にいる駅員さんに聞いたらしい。
「高円寺に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」
すると「11番線です」と即答され、素っ気なくてなんだかなーと思ったそうだ。
ええ、どこが冷たいの?普通でしょ?
と東京人には言われそうだが、チッチッチッ。
東京の駅員さんは淡々と業務をこなす印象だが、大阪の駅員さんは、めちゃめちゃハートフルでサービス満点、そして面白い人が多いのだ。
3年前の話をしよう。
友達とユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行く約束をしていたあたしは、大阪の天王寺駅で電光案内板を見ながら、どの電車に乗れば「ユニバーサルシティ駅」に早く着くのかを検討していた。聞いた方が早いわ、と思って改札の横の駅員さんのところに向かった。
「ユニバーサルシティ駅に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」
すると駅員さん、黙ったまま腕時計に目を落とす。
「…………。」
そして目線を上げた駅員さんは、真剣な表情であたしに言った
「……足に自信はありますか?」
唐突な質問。なんのことか分からず、あたしはきょとんと駅員さんを見た。
「……え?」
「足に、自信、ありますか?」
同じ質問をされる。
足には自信があるので「はい」と答えると、その駅員さんは目をカッと見開き、やや声を張りこう言った。
「18番線っ!26分発っ!」
ズバッと決めゼリフを言うかのように、言葉を放つ駅員さん。あたしは慌てて携帯で時刻を確認。現在時刻12時25分……。ひえ、あと1分?!駆け込み乗車しないと間に合わない。ってか駅員さんに、走って乗ることを勧められてるってどうなん?とか思いつつ、あたしはやや離れた位置にある18番線に向かってダッシュした。
走りながら、背後で「西九条で乗り換えてくださいね~」と叫ぶ駅員さんの声が聞こえた。
(結局走るほどでもなく、余裕で電車に乗れたけど)
これ、100%実話ですよ。
このユーモラスでハートフルな駅員さん比べると、東京の駅員さんはやっぱり冷たいよな~って思う。「11番線です」だけやもんね。
……って言うか、大阪が異常?
ちょっと慣れ慣れしすぎ、オモロすぎなのかもしれない。
ただ、これは駅員さんに限った話ではない。東京人すべてに当てはまると思う。
東京人に来て学んだこと、それは
〝初対面の人には、距離をとられる〟ということ。
別に人見知りされるというわけではない。きちんと目を見て話してくれるし、ものすごく友好的な人もいる。でもなんか距離を感じてしまう。こちらが本音爆裂トークをしたとしても、東京人は当たり障りないことしか聞いてこないし、本音を言ってこない。「誰だコイツ」と言う感じで、探り探り話をされてる気がするのだ。
なんで距離を取られるのか……理由は明確だ。
実は東京人ってのは、地方出身の集まりだからだ。
このエッセイの中では「東京人」という言葉を面白がってよく使っているが、東京生まれの東京で育ちという江戸っ子さんって実際はなかなか会わない。みんな他県から上京してきたひとばっかり。つまりみんながみんなアウェイ。探り探りなのも仕方がない。
大阪の場合は逆で、大阪に住んでる人の8~9割は関西出身者だ。
みんなのホームである大阪では、そりゃ気は遣わない。どーせみんな関西の人なんだからと、初対面から慣れ慣れしく、時には厚かましい。駅員さんが急に「足に自信ありますか」とか質問してきても、全然おかしくない。
*
東京には東北出身者が沢山住んでいる。
当たり前じゃん!とツッコまれそうだが、実はあたし東京に住むまで東北の人と話したことが無かった。実は大阪には、東北出身者がいない。近くに東京があるから、わざわざ大阪に出てこないのだろう。
「福島出身なんです」「以前仙台に住んでて」とか言われるとどーしよーと困ってしまう。
だって話が続かない!
行ったこともない、地名も分からない、名産品も分からない!
かろうじて言えるのは「地震大変でしたね……」くらい。でもそれも、関西出身・被害なしのあたしが軽々しく口にしていいのか分からないし、根掘り葉掘り聞いて嫌な思いをされたらどうしよう、と変に気を使ってしまうので話しにくい。
こないだ職場の人が仙台に出張に行ってきたらしく、仙台名物「笹かまぼこ」をもらった。
実は「ささかま」と初ご対面なあたし。大阪人はなかなか東北地方に旅行に行かないので、仙台名物をもらう機会もなかったのだ。
さて。「ささかま」困った……。
これは……いったい、どういう感じで食べたらいいんだろう。
「おやつ」なの?「おかず」なの?はたまた「つまみ」なの?
お茶のお供?ご飯を用意?はたまたビール?
わからん……。
周りを見渡すと、みんなパソコン仕事をしながら、「ささかま」片手にむしゃむしゃ食べている。
ほう、なるほど。よく分からんが「間食」なのだな、と理解したあたしは、皆に倣ってパソコンに向きあって食べた。
*
東京人の変なところ。
電車で30分を「遠い」というところ。
……どーゆーこと?
電車で1時間の場所だと「えー、めちゃくちゃ遠いじゃん!」
電車で2時間ともなれば、それはもう「プチ旅行」。……らしい。
30分で遠いって……ねぇ。
あたしは大阪在住の頃、片道1時間かけて通学・通勤していた。
そんなのに比べたら30分なんて、どこでもドアなみの便利さだ。
東京は都市がギュギュと凝縮されているので、たしかに移動時間は短いなと感じる。新宿から池袋までは電車で5分。渋谷までは7分。東京までは13分だ。
よほどの場所に行かない限り、目的地が「遠いなー」と思うことはない。
ついでの話だが、東京人はすぐにタクシーに乗る。
あたしはタクシーに気軽に乗れる身分ではないので、寝坊して大遅刻をしてしまった時とか、終電に間に合わなかったときなど、ピンチの時の最終手段にしか利用しかしたことがない。
東京人はセレブが多いから、タクシーに気軽に乗れちゃうと言えばそうなのかもしれない。
でも、やっぱり都市がギュっと凝縮されているので、電車に乗るよりはタクシーに乗った方が早いってのが理由のひとつだと思う。
なので、東京人はタクシー換算が早い。
「こっからだと2メーターくらいじゃない?」
「3人で乗って割ったら一人○○円だし、電車に乗るのと変わんなくね?」
あたしなんて初乗りがいくらなのかも、いまだに知らないのに……。
*
「ここが変だよ、東京人」
……とかちょっと大袈裟なタイトル付けちゃったけど、東京の皆様、お気を悪くされないでください。
あたしは東京人っぽく振るまえるように、違和感なく溶け込むために、日夜必死でございます。もう「ささかま」くらいで動揺したくない!