第24回 ここが変だよ、東京人


 

 

うちのマンションに遊びに来た、大阪の友人が「東京の人って冷たいよなー」とボヤいていた。

 

新宿駅でどの電車に乗ればいいのか分からず、改札の横にいる駅員さんに聞いたらしい。

「高円寺に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」

すると「11番線です」と即答され、素っ気なくてなんだかなーと思ったそうだ。

 

ええ、どこが冷たいの?普通でしょ?

と東京人には言われそうだが、チッチッチッ。

東京の駅員さんは淡々と業務をこなす印象だが、大阪の駅員さんは、めちゃめちゃハートフルでサービス満点、そして面白い人が多いのだ。

 

3年前の話をしよう。

友達とユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行く約束をしていたあたしは、大阪の天王寺駅で電光案内板を見ながら、どの電車に乗れば「ユニバーサルシティ駅」に早く着くのかを検討していた。聞いた方が早いわ、と思って改札の横の駅員さんのところに向かった。

「ユニバーサルシティ駅に行きたいんですケド、何番線に乗ればいいですか」

すると駅員さん、黙ったまま腕時計に目を落とす。

「…………。」

そして目線を上げた駅員さんは、真剣な表情であたしに言った

 

「……足に自信はありますか?」

 

唐突な質問。なんのことか分からず、あたしはきょとんと駅員さんを見た。

「……え?」

 

「足に、自信、ありますか?」

 

同じ質問をされる。

足には自信があるので「はい」と答えると、その駅員さんは目をカッと見開き、やや声を張りこう言った。

 

「18番線っ!26分発っ!」

 

ズバッと決めゼリフを言うかのように、言葉を放つ駅員さん。あたしは慌てて携帯で時刻を確認。現在時刻12時25分……。ひえ、あと1分?!駆け込み乗車しないと間に合わない。ってか駅員さんに、走って乗ることを勧められてるってどうなん?とか思いつつ、あたしはやや離れた位置にある18番線に向かってダッシュした。

走りながら、背後で「西九条で乗り換えてくださいね~」と叫ぶ駅員さんの声が聞こえた。

(結局走るほどでもなく、余裕で電車に乗れたけど)

これ、100%実話ですよ。

 

このユーモラスでハートフルな駅員さん比べると、東京の駅員さんはやっぱり冷たいよな~って思う。「11番線です」だけやもんね。

……って言うか、大阪が異常?

ちょっと慣れ慣れしすぎ、オモロすぎなのかもしれない。

 

 

ただ、これは駅員さんに限った話ではない。東京人すべてに当てはまると思う。

 

東京人に来て学んだこと、それは

〝初対面の人には、距離をとられる〟ということ。

別に人見知りされるというわけではない。きちんと目を見て話してくれるし、ものすごく友好的な人もいる。でもなんか距離を感じてしまう。こちらが本音爆裂トークをしたとしても、東京人は当たり障りないことしか聞いてこないし、本音を言ってこない。「誰だコイツ」と言う感じで、探り探り話をされてる気がするのだ。

 

なんで距離を取られるのか……理由は明確だ。

実は東京人ってのは、地方出身の集まりだからだ。

このエッセイの中では「東京人」という言葉を面白がってよく使っているが、東京生まれの東京で育ちという江戸っ子さんって実際はなかなか会わない。みんな他県から上京してきたひとばっかり。つまりみんながみんなアウェイ。探り探りなのも仕方がない。

 

大阪の場合は逆で、大阪に住んでる人の8~9割は関西出身者だ。

みんなのホームである大阪では、そりゃ気は遣わない。どーせみんな関西の人なんだからと、初対面から慣れ慣れしく、時には厚かましい。駅員さんが急に「足に自信ありますか」とか質問してきても、全然おかしくない。

 

 

東京には東北出身者が沢山住んでいる。

当たり前じゃん!とツッコまれそうだが、実はあたし東京に住むまで東北の人と話したことが無かった。実は大阪には、東北出身者がいない。近くに東京があるから、わざわざ大阪に出てこないのだろう。

 

「福島出身なんです」「以前仙台に住んでて」とか言われるとどーしよーと困ってしまう。

だって話が続かない!

行ったこともない、地名も分からない、名産品も分からない!

かろうじて言えるのは「地震大変でしたね……」くらい。でもそれも、関西出身・被害なしのあたしが軽々しく口にしていいのか分からないし、根掘り葉掘り聞いて嫌な思いをされたらどうしよう、と変に気を使ってしまうので話しにくい。

 

こないだ職場の人が仙台に出張に行ってきたらしく、仙台名物「笹かまぼこ」をもらった。

実は「ささかま」と初ご対面なあたし。大阪人はなかなか東北地方に旅行に行かないので、仙台名物をもらう機会もなかったのだ。

さて。「ささかま」困った……。

これは……いったい、どういう感じで食べたらいいんだろう。

「おやつ」なの?「おかず」なの?はたまた「つまみ」なの?

お茶のお供?ご飯を用意?はたまたビール?

わからん……。

 

周りを見渡すと、みんなパソコン仕事をしながら、「ささかま」片手にむしゃむしゃ食べている。

ほう、なるほど。よく分からんが「間食」なのだな、と理解したあたしは、皆に倣ってパソコンに向きあって食べた。

 

 

東京人の変なところ。

電車で30分を「遠い」というところ。

……どーゆーこと?

 

電車で1時間の場所だと「えー、めちゃくちゃ遠いじゃん!」

電車で2時間ともなれば、それはもう「プチ旅行」。……らしい。

 

 

30分で遠いって……ねぇ。

あたしは大阪在住の頃、片道1時間かけて通学・通勤していた。

そんなのに比べたら30分なんて、どこでもドアなみの便利さだ。

 

東京は都市がギュギュと凝縮されているので、たしかに移動時間は短いなと感じる。新宿から池袋までは電車で5分。渋谷までは7分。東京までは13分だ。

よほどの場所に行かない限り、目的地が「遠いなー」と思うことはない。

 

 

ついでの話だが、東京人はすぐにタクシーに乗る。

あたしはタクシーに気軽に乗れる身分ではないので、寝坊して大遅刻をしてしまった時とか、終電に間に合わなかったときなど、ピンチの時の最終手段にしか利用しかしたことがない。

東京人はセレブが多いから、タクシーに気軽に乗れちゃうと言えばそうなのかもしれない。

でも、やっぱり都市がギュっと凝縮されているので、電車に乗るよりはタクシーに乗った方が早いってのが理由のひとつだと思う。

 

なので、東京人はタクシー換算が早い。

「こっからだと2メーターくらいじゃない?」

「3人で乗って割ったら一人○○円だし、電車に乗るのと変わんなくね?」

あたしなんて初乗りがいくらなのかも、いまだに知らないのに……。

 

 

「ここが変だよ、東京人」

……とかちょっと大袈裟なタイトル付けちゃったけど、東京の皆様、お気を悪くされないでください。

あたしは東京人っぽく振るまえるように、違和感なく溶け込むために、日夜必死でございます。もう「ささかま」くらいで動揺したくない!

第23回 ウワサ通りの黒いそば


 

 

関東と関西では、うどん&そばの汁の濃さが違う。というのは有名な話。

あたしは生まれも育ちも大阪なので、うどん&そばといえば透き通ってる汁が思い浮かぶ。
うどんの塗り絵と色鉛筆を渡されたら(どんなシチュエーションだ)、汁の部分はベージュを薄ーく塗るだろう。
関東の人たちは何色を塗るの。茶色?まさか黒?

東京人は知らないだろうが、関西人はみんな、あの「黒いそば」のことを「食えたもんじゃない」「ありえん」「醤油地獄」と大批判している。
じゃあ関東の人は関西風の色の薄いうどん・そばのことをどう思ってるのか聞いてみた。否定的な意見が飛ぶのかと思えば、みんな口揃えて「だしが効いててめちゃくちゃ美味しい」と大絶賛してくれる。
そう、意見は一致しているのだ。関西風の方が美味しいと。
「じゃあ、関西風ばっかり食べたらいいやん!」そう東京人に意見してみたが、返ってくる言葉はみな一様にこれだった。

「黒いのに慣れてるから……」

……ええ、慣習で黒そばを食べ続けている東京人!!
美味しいと思うものを食べたらいいと思いますケド!!
みんな目を覚まして!!

と、まぁ、それはおいといて……
東京に来たからには、一回くらいは「黒いそば」を体験しないと……と思っていた。食べたこともないのに、批判するのはどうかと思うし。
でも蕎麦屋って牛丼屋と一緒で、女子一人ではなかなか入りにくい空気がある。じゃあ家で作るか、となるとやはりそれは慣れ親しんだ関西風になるわけで……。

そんな時、チャンスがやってきた。
東京に来て1カ月ほど経ったころ、バイト先の上司から「昼メシでも食い行くか」と誘われる。ちなみにこの上司は、うちの父くらいの年齢で生粋の江戸っ子。「てやんでぃ」と言ってても違和感ない人だ。
わーいわーいと呑気について行くと、先を歩く上司が入った店には「そば・うどん」と書いてあった。

ごくり……
ついにこの日が来たか……。
構えるあたし。

壁に貼ってあるお品書きには丼物もあるが(正直お米が食べたい気分ではあったが)ここはやっぱり「黒いそば」の洗礼を受けるしかない。もしかしたら上司も洗礼のために、あえて蕎麦屋に連れてきたのかもしれないし。
ということで、「きつねそば」をオーダー。運ばれてきたソレを覗き込んだ……。

……うーん、真っ黒。

テレビや写真で見たやつといっしょだが、目の前にあるというのが感慨深い。
黒々と濁った汁、すっぱそうな匂い……なんか食欲が減退していく。とはいえ、ここまで来たら腹くくって食べるしかない。上司もうまそうに食ってるし。

よしゃ、いただきます。
ずるずるずる。
……うーん。

初めて食べるそれは……
……なんというか「醤油」だった。
関西のそばがアルカリ性だったとすれば、関東のそばは酸性な感じがる。あ、分かりづらいですかこの表現。

「どう?ダメ?」
上司が聞いてくる。やはり関東風のそばを体験させてやろう、という昼食会だったのだ。ごちそうしてもらう手前、酸性の味がする、なんてわけのわからん感想は言えない。
「……美味しいです」
「ウソついちゃダメだよ」
「……思ったより美味しいです」
「思ったより?どんなふうに思ってたんだよ」
「……正直に言うと辛いです」
「辛い! 関西の人は辛いって言うよねー」
そう、「濃ゆい」という感想を「辛い」というのは西の人間だけだ。東ではこういう時「しょっぱい」というらしい。とうがらしのHOTな辛さにしか「辛い」は使わないのだそうだ。

もう一口。
ずるずるずる。

……うーん。
なんだろう、そばを食べているけど、これはそばではない。いやそばだけど。
うまく説明できないけど、「ちゃんぽん」は「ラーメン」ではないし、「お味噌汁」は「お吸い物」ではないでしょ?……そんな感じで「関東のそば」はあたしの知ってる「そば」ではないという感じ。

でもまぁ、「食いもんちゃう」と批判するほどではない。こういう食べ物だと思えば美味しくいただける。でもこの汁は……ちょっと……飲み干せないかな。途中でギブしちゃう。 東京人の上司も汁残してるし……いいよね、全部飲まなくても。

そして、食後しばし東京と大阪の違いの話になった。
ご存じの方もいるだろうが、関西には「たぬきうどん」が無い。(関西で天かすうどんは「はいからうどん」と言う)
そして、関西では薬味のネギといえば青ネギだが、関東では白ネギが主流。(黒い汁の上に緑色のネギが乗ってたら、見た目的にグロイかも)
……不思議だ。狭い日本なのに、そば・うどん一つとっても、こんなにも違うもんなんだ。
〝文化〟の違いについてしみじみ考えさせられた「黒そばデビュー」だった。

こないだ、知人に「東京名物の油そばを食べに行こう」と誘われた。
「油そば?!」見たこともないし、聞いたこともない。
どうやら新種のラーメンだという。
そのネーミングから想像するにきっと、ギトギトのぬるぬるのカロリー高くて胸焼けするやつに違いない!そう思ったあたしは「いや、ちょっといまお腹が……」とやんわり断った。でも「半分こしよう」という提案をされ、興味がなかったわけでもないので、ついて行くことにした。

注文品を待ちながら、数日前に見たテレビをふと思い出した。そういえば……グルメレポーターの彦摩呂さんが超ハイカロリーなラーメンを食べて「背油のゲリラ豪雨やぁ~」とか言っていたなぁ。
もしかして、それのことちゃう……?
どんぶり鉢の淵まで背油でギトギトなラーメンを思い出し、食べる前から胸焼けがしてきたが、やってきたのはそのラーメンではなかった。
油そばと初ご対面。器の中を覗きこんだ。

……なんと、汁がない!

どんぶりの中には、太めの麺と具のみ。背油もないし、汁気すら見当たらない。
そう「油そば」というのはテーブルの上のお酢とラー油をかけて食べる……というスープなしの、なんとも不思議なラーメンのことだった。
麺とスープが別になって出てくる「つけ麺」が最先端だと思っていたが、時代はいまや汁すらないのか!すごいな日本!

さてさて、初・油そばを頂く。

……お、おいしい!

驚いた。全然こってりしてない。むしろあっさりしている。
もともと麺にからんでいた醤油だれが、かけたお酢といい感じにマッチしてる。初めて食べる味に感動。あまりに美味しかったので、追加でもう一杯注文するくらい気に入った。

ということで、そばの固定概念を次々に打ち破ってくれる街、TOKYO。
大阪のみなさん、東京に来た際は「黒いそば」ではなく「油そば」をおススメしますっ。