第27回 いけふくろうを探せ!


 

 

「ととちゃんは池袋系だよね」

と東京在住の友人Sちゃんに言われ、戸惑いを隠せなかった。
「池袋系」ってなんだ?原宿系、渋谷系なら分かるけど、池袋系って……。
池袋に一度も行ったことのなかったあたしは、そこがどんな街なのか、どんなジャンルの人が歩いているのかも見当つかない。
でもなんとなくパッとしない感はある。
「青山系」とか言われたかった……。

そういうSちゃんはいつも、いちごやさくらんぼがプリントされたラブリーなワンピースを着ていて、フェミニン全開・毎日乙女大放出である。池袋系と分類されてしまったあたしは「あんたはいったい何系なん?」と逆にツッコミたくなったが、その前に未知の街・池袋に行って自分の立ち位置を知ることにした。

池袋といえば……
・サンシャインシティ
・いけふくろう
・池袋ウエストゲートパーク
・治安が悪い?
・埼玉県民が多いらしい
これがあたしの勝手なイメージ。はは、池袋系女子として嬉しい響きがひとつも何もないぞ。

初めて池袋に降り立ったのは今年の1月某日。
ちょうどたまたま大阪から来ていた友人Eに「池袋系と言われた」という話をすると「じゃあ、その街を見に行ってみよう」という話になったので行ってみた。でもその日は、Eの新幹線の出発時間が迫っていて、あまり時間がなかったので、サンシャインシティをざっくり回るだけだった。

サンシャインシティは、ショッピングモール、水族館、プラネタリウム、展望台……なんでもあって一日遊べそうな大きなアミューズメントビルだった。その全部を回ったわけではないけれど、サンシャインという場所の空気はなんとなくわかった。

とにかく、
なーんでも有り。

客層は老若男女様々で、幅広い人に受け入れられている感。なんとなく漂う「地元」風の空気。高級すぎない庶民感?
「池袋系」=誰にでも親しみやすい。と、良い風に無理やり定義づけ、その日は池袋を後にした。

10月某日。池袋リベンジ。
前回の訪問からだいぶと月日が経ってしまったが(池袋系として失格か)、また行ってみることにした。

そう言えば先日、とある雑誌のとあるワンコーナーで「東京デビューでたどり着けなかったところランキング」というのを見かけた。

1位 ハチ公の銅像
2位 アルタ前
3位 いけふくろう

とある。池袋の待ち合わせのメッカ「いけふくろう」が堂々の3位にランクイン!
……そういやあたし、いけふくろう見たことない。池袋系としてなんたることか!
ということで、池袋再訪問の目的は「待ち合わせでもなんでもないけど、いけふくろうに行ってみる」となった。

ウワサに聞いたところによると「いけふくろう」は駅の施設内、地下にいるらしい。
改札を出たあたしは、小学校の林間学校のオリエンテーリングをなんとなく思い出しながら、人ごみの中「いけふくろう」捜索を始めた。

「いけふくろう」の写真すら見たことないあたしは、それが大きいのか小さいのか、石像なのか銅像なのかはたまたガラス製なのか、キャラクター化されているのかアーティスティックなモニュメントなのか、飛んでいるのか座っているのか、すら知らない。
あたしの予想では、渋谷のハチ公像くらいの大きさの銅像で、やや高めの台に両方の翼を大きく開き、鋭い眼球、今にも飛び立ちそうな迫力。そんな野生のふくろうをイメージしていた。

しかし、いけふくろう……どこを探しても見当たらない。
改札出たらすぐと聞いていたのに、もうすでに地下街を30分は歩き回っている。
……まあ途中色々と、百貨店のスイーツコーナーを覗いたり、パルコの地下1階の靴屋さんを覗いたり、アップルロード、オレンジロードというネーミングに笑ったりしてしまったので、こんなに時間がかかっているのだが……それにしても、ないよ、ない!駅のいたるところに貼ってある、構内見取り図を見るけど、どこにも載ってないし、いない。
さすが「東京デビューでたどり着けなかったところランキング」の3位だなだけある。難易度高いぜ。

最初は「いけふくろう」探しにワクワクしていたあたしも、さすがに足がパンパン、少々うんざり気味になってきた。
ああ、こうなったら最後の手段か。
観光客を装って「いけふくろうはどこですか?」と誰かに聞いてみよう。
渋谷系女子が「109ってドコォ?」と聞くのがダサいように、池袋系のあたしが「いけふくろうってどこ?」と聞くのは少々気後れしていたのだが、もう仕方がない。
誰に聞こうかとキョロキョロしていたその時……中学生らしき男子5人グループが向こうからやってきて、あたしとすれ違うときにこう言った。

「あ、そうだ、いけふくろうに○×※△……」

最後の部分が聞こえなかったが「いけふくろうに……」と言った!
坊やたち、「いけふくろう」、行くの?!
5人の中学生の背中が、ものすごく頼もしく見える。あたしは歩いていた方向を180度転身させ、彼らのすぐうしろにぴったりとつき、行動を共にした。
周りから、中学生を追っかける怪しい女に見られてなかったらいいけど。

さて、そんなあたしは、果たして「いけふくろう」にたどり着けるのでしょうか。
長くなってしまったので次回に続く。

第26回 ヒトカラと椎名林檎


 

 

 

「あー、カラオケ行きてー」

 

仕事のストレスが溜まりに溜まったある夜、ひとりで暗い夜道を歩きながら呟いた。

無性に歌いたい。

しかし現在時刻、深夜0時。そして間違いなく今日も明日も平日だ。

この時間からカラオケに付き合ってくれそうなフリーランスの夜型の友人を探したけれど、東京にはまだそんな友達がいない……。

 

ひとりカラオケ……するか……?

 

ファミレス、カフェ、映画……あたしは結構おひとりさま行動が好きなのだけど……カラオケだけは未体験だ。部屋でひとりで盛り上がっている図を想像すると、なんか恥ずかしくなってくる。

でもどーしてもカラオケに行きたい。歌いまくってこの体中に溜め込んだストレスを開放したい、いま、すぐにっ!

 

 

ということで、駅前にある「カラオケ館」通称カラ館に向かった。

ちなみに大阪のみなさん、大阪では圧倒的に幅をきかせている「ジャンボカラオケ広場」通称ジャンカラは、東京にはございません。丸い笑った顔にマイクを持った手がついてるあのマスコットキャラクター(?)と瓜二つの「歌広場」と言うカラオケ屋さんが東京にはあるけれど、あれはジャンカラとは別ものです。ジャンカラの携帯クーポン10パーセント割引は使えないのでご注意を!!

 

 

「カラオケ館」にはなんと「ひとりカラオケ専用ルーム」というのがある。東京先行で始まったシステムみたいで、今は徐々に関西や他の地区にも増えてきているらしい。

受付で「何名様ですか?」「ひとりです」と答えるのもひとりカラオケの恥ずかしさだと思っていたけど、これなら堂々と入れる。

受付をちゃっちゃと済ませ、私はひとりカラオケ専用ルームに向かった。

 

 

「・・・・・・・おお~」

 

指定された部屋の扉を開け、私は呆然。

ひとりカラオケ専用ルームは、普通の部屋とは一味違った。

1畳半くらいの横長の小さい部屋で(狭い!)、扉や壁や空気が他の部屋とは違い、どこかレコーディングスタジオみたいな雰囲気が漂っている。カラオケ機材も全然違うくて、吊り型のコンデンサーマイク、その前には丸いポップフィルター、そしてプロも使っているというモニター用のヘッドフォンを受付でレンタルして使う(レンタル代300円は別料金)。

そう、この部屋にはスピーカーがない!

自分の歌声がヘッドフォンから聞こえてくるという、レコーディングスタイル!ナルシシズムに浸れるルームにあたしは大感激!

 

しかし、あたしは受付で借りたヘッドフォンを握りしめ、しばらく入り口にたたずんでいた。

 

……なんかよくわからん。

 

機械がいっぱい。つまみがいっぱい。小っちゃい穴がいっぱい。ええっと、どれにヘッドフォンをさせばいいの?

途方に暮れかけていたその時、

部屋の隅にある小さな勉強机のようなテーブルの上に「困ったときにはこれを見よ!!!」と言わんばかりにファイルが置いてあった。どうやらこの部屋の使用説明書のようだ。

ファイルをめくると……このマイクがいかに高性能だとか、このヘッドフォンはプロ仕様でどれほどのものかとか、うんちくがいっぱい!こちとら早く歌いたいんだよー、とイライラしてきたところで……やっと歌うまでのプロセスが書かれてあった。

指示された通りに準備をして、ヘッドフォンを頭に装着!

 

「あ~、ああ~」

マイクに向かって声を出してみる。

自分が話した声が、すぐ耳元で囁かれているかのようにヘッドフォンから聞こえる。

・・・・・・・・・おおー、これは面白い!!

テープに録音した声を聞くように「自分の声ではないような自分の声」を聞くのはなかなか愉快だ!

っていうか、ヘッドフォンから聞こえてくるのは自分の声だけじゃない。部屋の中の音、すべてがヘッドフォンから聞こえてくる。椅子を引く音、お茶を飲むときのグビグビ、鼻が詰まってスピースピーしてる音、リモコンで選曲するときのピピピ、大きな音から小さい音まですべてヘッドフォンから聞こえるのだ!

 

「オモチローーーイ!!!」

 

とマイクに向かって思いっきり叫んだ。

深夜12時過ぎ。小さなカラオケボックスにてあたしのテンションは上最高潮に!

 

 

ではでは、早速、唄ってみましょう♪

せっかくだから、なんかどっぷり浸れるバラードがいいな。

ということで一曲目は……HYの「366日」に。

 

「♪それでもい~い……ふふふふ。それでもいいと思える恋だった~。はははは!」

 

自分の歌声がヘッドフォンから聞こえてくる……それがおかしくておかしくて、笑えて歌えない。そりゃもう歌手になった気分だけど……これ、全然浸れないし!!あはははははは!

と一曲目。笑い過ぎたせいでほとんど歌えないまま、曲は終わった。

 

そのあと何曲か歌ってるとヘッドフォンからの声にもようやく慣れることができた。

あたしはマニアックなアニソンやら山本リンダやら、森高千里やら、尾崎豊やら、普段友達の前では歌えないやつを歌いまくった。

バラード続きでも、おんなじ曲を何回歌っても、誰にもとがめられることはないし、気を使うこともない!

これが「ヒトカラ」の醍醐味かー!!!と、その楽しさを存分に味わった。

 

 

深夜2時ごろ。

あたしのテンションは上がりっぱなしでちっとも勢いは衰えず、そろそろ「あのへん」いっとくかーと、リモコンを操作し曲を入れた。

 

 

椎名林檎「丸の内サディスティック」

 

 

椎名林檎そして彼女がボーカルのバンド東京事変ってなんだか「THE・TOKYO!」って感じがする。

上京したての頃、渋谷のスクランブル交差点のモニターで東京事変のPVが流れてて「これが東京なんやなぁ~」と興奮した思い出があるからだろうか。

それに椎名林檎も東京事変も、歌詞に「歌舞伎町」「新宿」「後楽園」「銀座」なんて地名がいっぱい入ってるのが、また東京っぽい。

 

 

「♪終電で帰るってば 池袋~」

 

 

大阪に住んでるときは、東京の街の事をほとんど知らなかったし、歌詞を聞いていてもどんな街なのかいまいちピンと来てなかった。それどころか異国の遠い場所のような気がしていた。

 

でも今は分かる。

終電で帰ると言っている池袋がどんな街なのか。もしかしてそっから私鉄に乗り換え?とか。

「新宿は豪雨」うわー。人も多いし、その上豪雨とか最悪だろうなー、とか。

「JR新宿駅の東口を出たら」……アルタとかあるよな~、とか。

「銀座で警官ごっこ」コスプレパブ的な?とか。

 

いやー、分かるようになってきたんだなー、東京。

異国の街だと思っていた場所に、あたし住んでんだなー……なんて、なんだかしみじみしちゃった。

 

 

結局3時間歌って、あとの2時間はルーム内で仕事して、明けがた5時に店を出た。

うっすら明るくなりはじめた空の下を、心地よい疲労感と眠気でトボトボと歩く。

ヒンヤリとした朝の空気を吸う。

 

ああ、朝焼けがとっても綺麗……。

 

明日からもこの東京の街で頑張ろう、そう改めて決心できたヒトカラ明けの朝だった。