第29回 青山に着て行く服で迷う


 

 

高校時代の先輩が結婚するということで、二次会に招待いただいた。
新婦の先輩は現役の女優さんでとても綺麗な方、そして旦那さんも業界の方らしい。パーティ前夜、いったいどんなところが会場なのかなと住所を確認。息を飲んだ。

〝東京都港区南青山▲-☆-◆〟

……あ、青山でございますか!!
住所に〝青山〟とついてるだけなのに、なんかオサレ感が漂っている。
絶対普段行かないようなお洒落なお店に違いない、と会場となるお店の名前をパソコンに入力し検索ボタンを押した。現れる洗練されたHP。むむう。
そこはレストランでもなくカフェでもなく、いわゆる〝クラブラウンジ〟といわれる場所だった。しかもそのお店、キャッチフレーズが

「パリの高級クラブが東京に」
んまあ!
大阪コテコテガールには敷居高すぎる気がするんですけど!田舎もん丸出しで周りから浮くのは嫌だ!
いったい何を着て行けば?!とあたしはタンスの中をひっくり返した。

青山って何度か通ったことがあるけど、それはそれはオサレなところだと記憶している。
なんだか高級なブティックが並んでいて、あたしの読んでる赤文字系ファッション誌にはとうてい出てこない、ハイソなブランドのお店ばっかり。お店の中に入ったことがないのでお値段がどれほどなのかは分からないけど、パルコやマルイとは違い大体どのお店もお客さんは少なく(お客がいたとしても、ハリウッドセレブのような恰好をしている人が大半)きっと運悪く何かの間違いで入店してしまったら、とても売り上手な店員さんに掴まり、何か物を買うまで外に出れない雰囲気になり、そのお店の最低価格品の1万円のタンクトップとか買ってしまいそう。

そして青山は、アパレルショップ以外にもカリスマ美容師がいる高級ヘアサロン(カット8000円とかだろう)があったり、間接照明を使いまくってやたらとスタイリッシュなカフェ(コーヒー一杯いくらするんだろう)とかがある。
そして青山を歩いている人たちもまた洗練されたファッションで、いわゆるモード系の服をに身を包んでいる人たちが多い。ジャージやサンダルの人は間違いなくいない。スッピンでちょっとコンビニまで♪とかも無理そうだから、絶対に青山には住めない。まぁ家賃高いから住めないケド。

さあ、そんな青山にある高級クラブラウンジに行くとなれば、かなり張り切らないといけない。あたしは念入りに服を選ぶことにした。

まずはドレス選びだ。あたしはクローゼットを開け衣装ケースの中をまさぐって、パーティドレスになりそうなワンピースたちを引っ張り出した。安物だけど、ドレスは何着か持っている。
明らかに夏物だな、というドレスは外し、候補は三着に絞られた。

一着目。黒の切り替えワンピース。清楚系で、胸の下あたりからフワッとスカートが広がっているので、とにかくどんなに食べてもお腹のポッコリが目立たないというメリットから、結婚式とあらばこの服を使っている。
早速ワンピースに袖を通し、どんなもんかと鏡の前に立ってみた。
ううーん。
この服って、青山系というより神戸系ってかんじ。清楚なお嬢様って雰囲気で、ピアノの発表会に向いてそう。まあピアノなんて弾けないけど。膝丈のスカートも、なんだか守りに入ってる感がある。
悪くないけど、これは……青山じゃない。

と言うことで二着目。茶色のガーリー系ワンピース。
袖が丸くてちょっぴり少女趣味だけど、色が秋っぽくていいかな、なんて思って着てみた。
ツイードっぽい厚めのしっかりした生地。スカートのすそは膝上10センチはあるので割とミニめで、黒のワンピースより攻めに入ってる感じで良い。シンプルなワンピースだから、パールのネックレスやらカチューシャなんかを装着して鏡の前に立って見る。
……あ。
……なんか、田舎もんが頑張って着飾ってる感じ。
アクセサリーをごてごてとつけたのが悪かった。でもそれ以上に、この厚手の茶色い生地が田舎くさい……。
だめ、これじゃ青山には出掛けらんない。即、ワンピ、脱ぐ。

最後、三着目。
青色のマーメイド型ワンピース。
これは、ノースリーブで肩出しだし、スカート膝上15センチだしかなりセクシーな感じだぞ。このドレスに、白のふわふわファーマフラーを合わせて……、鏡の前に立ってみる。
……おー!
これだったら青山に行けるかも!!
シンデレラが魔法でドレスを手に入れた時の気持ちがよく分かった。
ほどよく色気が出てるし、それに、生地のペラペラ感がいいっ!!!茶色の厚手生地のワンピを着たあとだからか、このペラペランのテロンテロン感がなんか都会っぽく思えた。
でも実はこれ、フォーエバー21で買ったワンピで2990円。青山に行くドレスにしては一桁足りない気がする。でもタグが見えるわけじゃないしね。
ということで、パーティドレスはこの青色のマーメイドドレスに、大、決定。

当日。
前夜に選んだワンピースに袖を通したあたしは、いつもより時間をかけて化粧をして、ツケマまでつけて、そして髪の毛をひとまとめにアップにした。香水を持っていないあたしはドレスに、CMの石原さとみのように「しゅしゅしゅしゅと」フレアフレグランスをふりかけてから会場に向かう。

結婚式の二次会の会場は、想像通りオサレなところだった。
地下に設けられたお店は、店内照明が赤くてなんだか妖艶な空気。そしてクラブなだけあって、ガンガンに音楽が鳴り響いている。会場中央にはポールダンス用のバーがあるのだが、普段このお店ではそういう演目もやっているのだろう。
クラブなんて生まれてこのかた来たことのないあたしは、とにかく場所に浮かないように、エレガンスに振る舞うので必死だった。
一緒に行った友人と、久々の再会を喜びながら、彼女のドレスもまたテロンテロン系なのにホッとする。女性招待客のほとんどはテロンテロンの服を着た人ばかりで、このドレスを選んで良かったと確信した。

そして結婚式二次会のパーティが開始。
普段からお綺麗な先輩だけど、真白のウエディングドレスを着た先輩はそれはもうめちゃくちゃ綺麗だった。新郎新婦、仲良さそうな二人に目を細め、美味しいお酒をチビチビと飲んでいると……突然会場が怪しい空気に包まれた。

開場の隅から、突如出てくる下着姿のセクシー美女。
ミラーボールが光り出し、恥ずかしくなるほどのエロい曲と共に、会場の中央のバーにて、美女によるポールダンスが始まった。
生まれて初めてみるポールダンス。
セ、セクシーすぎる!お、開脚!?

ビックリするくらいに妖艶なダンスに目を背けることはもはやできず、思春期の中学生がエッチな本を見るかのように目が離せず凝視してしまった。

とんでもない洗礼を受けたあたし。
青山、思っていたよりスゲェ街だ……。

☆私伝言☆
M先輩、ご結婚本当におめでとうございます!
ポールダンスにはビックリしたけど、楽しいパーティでした♪

第28回 池袋でオアシスを探せ?


 

 

さて今回は「第27回 いけふくろうを探せ」の続きである。

友人Sちゃんによって池袋系女子と勝手に分類されたあたしは、よく知らない街池袋にて、待ち合わせのメッカ「いけふくろう」を探していた。

すると、今から「いけふくろう」に向かうと言う男子中学生たち5人組が!こっそり彼らの後をつけながら、地下道を歩いていた。

 

さすが土曜の午後とあって、池袋の地下道は人でごった返している。

流れの速い雑踏の中、彼らの背中を見失わないようにして歩いていると、その中ひとりの男子が一方を指でさした。

「お、なんかさ……☆◆○※?」

なにを言ってるのかは分からなかったけど、彼の指の先に注目する。なんだか妙に人が群れて立っているぞ。……ん、よく見るとその群れの奥の方に、金属の手すりで小さく囲われた石のかたまりが……。

 

まさか、これが……?

 

 

いけふくろう?

 

 

……さ、冴えない。

 

 

ここ、さっきからあたし何回も通り過ぎたし。それで気付かないってどんだけの存在感?待ち合わせ場所だと聞いていたので、もっと広い広場を想像していた。そしてその中央に堂々たるふくろうがそびえたっているのかと……。

でも実際のいけふくろうは、人が行き交う狭い地下通路に置かれた「石」だった。像のフォルムはというと、ずんぐりむっくりな胴体。「たまたま削ったらふくろうっぽい形になったので、ちょちょっと目と口もつけてみましたー」という感じの、荒削り感。

あたしが予想していた、翼を広げ今にも飛び立ちそうな緊張感……はどこにもなく、岩の上にででーんと座っているふくろうが、やや左向きでドヤ顔しているようにも見える。そして左側前方に三匹の子分ふくろう(?)を従えていた。

 

エッセイのネタとして後で記事にするために、あたしはアイフォンを取り出しカメラを起動させる。いつもこうやって、あとあとの為に写真を撮るのだけど、実はこのカメラを構える瞬間が一番恥ずかしい。

 

「うわ、あの人、いけふくろうなんか撮ってんじゃん?」

「いけふくろうが珍しく感じるなんて、ウケる~」

「どっか田舎から出てきたんじゃね?」

 

 

そういう声が聞こえてくる気がするのだ(被害妄想)。

だって地元の人たちはいけふくろうの写真なんかとらないだろうから(あたしだって大阪にいたころは、難波のグリコの看板なんか撮らなかったし)写真を撮ろうとしているあたしは、周りから見ればお上りさん全開だ。

あたしはアイフォンから発せられる「カシャリ」とシャッター音が周りに聞こえないように、スピーカーの部分を指で抑えながら写真を撮った。

 

 

 

 

池袋と言えば「池袋ウエストゲートパーク」だ。

東京人からは笑われそうだが、東京をよく知らない大阪人は池袋に対してそんくらいの知識しか持っていない。

しかしここまで断言しておいてなんだが、あたし石田衣良さんの小説も読んだことないし、実はテレビドラマも……見てない!どっひゃーん!

 

いけふくろう捜索を終えたあたしは、次の目的地を「池袋ウエストゲートパーク」の舞台となった「池袋西口公園」通称「IWGP」に決めた。

池袋訪問二回目のあたし、もちろんIWGPがどんなところなのかも知らない。

 

うん、たぶんそれなりに大きい公園だろう。

都会のオアシス、大人たちの憩いの場ってやつだろう。

大阪でいう「靭公園」みたいな。

緑に囲われたひっそりと静かな公園。木の下のベンチで午後の穏やかな木漏れ日を浴び、綺麗なお姉さんがトイプードルを散歩させているのを見ながら、カフェラッテでも飲もうかな。IWGPへの期待が高まったあたしは都会のオアシスへ向け、足を速めた。途中自販機でカフェラッテを買う。

でも想像していたIWGPは、そこにはなかった。

 

 

だだっぴろい広場。

それが、I、W、G、P。

 

 

優雅にお茶ができるようなベンチや、生い茂る木々、そして午後の木洩れ陽なんてどこにもない。っていうか現在時刻・夕方5時。もう日が沈みそうなこの時間に、木々の木漏れ日を期待したのがバカだった。

そこにあるのは、水の出ていない噴水と、芸術的(すぎてよくわからない)オブジェ。そして円形広場にぐるりと設置されたベンチのようでベンチでない鉄の太いパイプに座り、何となく時間を潰しているおっさんたち。

 

あれ?

都会のオアシス、どこ?

あたしは熱々の缶コーヒーを手に握り、パイプに座るおじさんたちの視線を集めながら円形広場のそのど真ん中を突っ切り、静かに公園を立ち去った。

木の生えていない公園もあるのだな、とIWGPにて学習する。

 

 

IWGPを後にし、缶コーヒーを持ったあたしは途方に暮れた。いけふくろう捜索で疲れた足はパンパンになっている。早くどこかで足を休めたい……。

こういうときはアイフォン先生にご指示を頂くとするか。とディスプレーを優しく人差し指で撫で、地図アプリを起動。

お、なんと!IWGPから少し歩いたところにもう一つ公園「西池袋公園」があるらしい。「池袋西口」「西池袋公園」だから「WIP」?なんて考えながら、そこで缶コーヒーを飲むことにしようと、芸術劇場を抜けずいずい西に進んでいった。

日が暮れ、人通りも少なくなってきて、ちょっぴり心細さを感じていると、うっそうと木が生い茂る公園が見えてきた。

これが、もしや「西池袋公園」?敷地内へ入ってみる。

 

いやー。

これまた、やられた。

行った時刻がまずかったのかな……。

 

人気のない電燈の怪しい光に照らしだされた公園。

そろりそろりと入ると、まずあたしを迎えてくれたのは公園の隅に設置された小さなキャンプ用のテントだった。……の、野宿者?

公園野宿者にビクビクしながら足を進めると、3人の男の人たちが駅の方を見つめながら花壇の端に座っていた。なんの待ち合わせ?

そしてそんな怪しい男たちを見張るように遊具の周りを、制服を着た警察官が2人ほど、目を光らせてパトロールをしている。

なんか怖いんすけど、ここ。

座れるベンチを見つけたけど、ゆっくり落ち着けるわけもなく……。

あたしはパトロール中の警察官に怪しい人物と目を付けられぬよう細心の注意を払いながら、公園を脱出した。

都会のオアシスはここにもなかった。

 

 

すっかり冷え切った缶コーヒーを手に持ったまま、結局駅前に戻ってきてしまった。

池袋の公園……休まらねえ。

オアシスなんて、どこにもねえ。

 

疲れた足でふらふらと西口付近を歩いていると、なんと偶然にも緑色のふくろう三匹を発見。植物で覆われた巨大な像は「えんちゃん」という名前がついていて、いけふくろうに比べると随分キャラクター化されてて可愛い。しかも「えんちゃん」の足を触るといいことがおきると言う縁起付き!お前はビリケンさんか、っとツッコミたくなった。

 

 

結局、あたしは三匹のえんちゃん像を見ながらコーヒー・ブレイクをすることにした。

一息入れつつアイフォンで調べものをする。

なんと池袋には何匹ものふくろうのオブジェがあるらしい。

あたしが「いけふくろう」像として思い描いていた、羽ばたいてるリアルなふくろうも街のどこかにいるらしい。そういや、ふくろうの形をした派出所もあったし、どこまでも「ふくろう」推しの街なのだな。

 

よし、次回は「ふくろう探しオリエンテーリング」だ!