第12回 東京に来てホクロができた


ある日朝起きたら、顔にホクロが出来ていた。

手鏡を覗き込みながら「うわ」と声をだす。
昨日まではなかった。右の頬のど真ん中。かなり目立つところに黒く小さいポッチリ。まだ皮膚の奥の方にいらっしゃる感じで、なんというかホクロが生まれそうな感じ。
27年間生きてきて、こういうのは初めてだ。

私はもともとホクロが少ない。これは体質とか遺伝的なものだと思う。
顔に小さいホクロが3つ。からだ中、数えてみても20個くらいしかないのではないか。

そう言えば昔、深夜のバラエティ番組で『ホクロ100』(たしかそんな名前)というコーナーがあったのを覚えている。街行く女性に声を掛け、体中にホクロが100個あったら一万円あげるという趣旨。超小型カメラで顔、腕、足を舐めるように撮影。そして時には下着ギリギリラインのホクロを撮影するために、服の中にカメラを入れたり……そういうちょっとエッチな内容だった。
もし私が街で声を掛けられてそのコーナーに出演依頼されたとしても、ホクロを100個お見せする自信がないので即断るだろう。当時、そんなことを考えながらテレビを見ていた。
なにが言いたいのかと言うと、それくらいホクロの無さは自信があるということだ。

ホクロ発見から一週間。表皮の奥に眠ったホクロの卵が、ついに顔を出した。
ほっぺたのど真ん中。やばい、どんどん目立ってきたぞ。前は手鏡を覗いたら「あ?」って気になる程度だったが、今となっては少々距離をとっても「ああ」とはっきり分かるくらいだ。
しかしこの新生ボクロ……どうもほかのホクロと雰囲気が違う。
ホクロと言えば黒い色素沈着のイメージだが、コイツは濃い茶色でなんだか突起している。触ると、指に出っ張りを感じられる。ニキビか?ソバカスか?と一瞬考えたが、でもやっぱりホクロというのが一番しっくりくる。
気になって観察し続けると、なんと左の目尻のあたりにも、黒いポッチリ予備軍が。さらによく見ると、右の目の下にも。
えーーー!まさか、まさか。顔中、ホクロ大量発生?
私の身体の中で何かが起きている。ぶるぶるぶる、恐怖で震えた。

というのも、過去に一度似たような経験をしている。
小学生の頃、ある日突然左の手のひらにイボが発生した。鉄棒のしすぎでできるマメでも、勉強のし過ぎのペンだこでもない。得体の知れない、固いイボが手の柔らかな部分にできている。良く見るとミカンのヘタを裏返したみたいな模様になっている。(どんなやねんと思った方はミカンをめくってみよう)
何もしていないのに、どんどん成長し続けるイボ。直径1センチくらいになって怖くなったので「イボころり」を手のひらに貼ってイボを除去した。
綺麗にとれて安心したのは束の間、今度は右手にイボが生えてきた。目を凝らして良く見ると、両手合わせてイボ予備軍が10個くらい潜んでいる。……イ、イボの逆襲だ!
私は、いつか体中がイボだらけになるのではと、恐怖で夜も眠れなかった。
……しかし、イボはいつの間にかいなくなっていた。あんなに悩まされた日がウソみたい。約一ヵ月の時を経て、あたしの手のひらは綺麗な手のひらに戻った。

――で、まさかのセカンドシーズン到来。今度はホクロか。
短期大量発生に驚いたあたしはインターネットでホクロを調べまくった。大人になってからホクロが生えてくるという例はまれに有るらしい。しかし原因は不明だそうだ。(遺伝的にホクロが生えやすい体質と、そうでない体質の人はいる)

原因不明だとか言われても納得はできない。自分なりに理由を考えてみた。

ホクロが発生したのは、東京に住み始めて5カ月くらい経ったころ。そろそろ生活に慣れてきたころなのでストレスではなさそうだ。じゃあ食べ物か?あ、水か?
色々考えた末、一つの仮説に行きついた。
東京の空気のせいではないか、と。
やっぱりここは大都会・東京である。実感はないが、やはり空気が汚れているのだろう。
もしかすると……(ここからは勝手なイメージである)都会の空気中に含まれるなにかゴミゴミとした塵のような異物が、鼻を通って肺に吸収され、そして体を巡り巡って、顔のほっぺたにたどり着いたのではないか。(……いや、だから勝手なイメージである)
大都会・東京。やっぱり恐ろしい街である。

ホクロ発生から3週間経ったある日のことだ。
ファンデーションを塗っていたらなんだか違和感を感じた。んん?……ホクロが出っ張っている。いや、以前から出っ張っていたのだが、より突出感がある。しかも触ると痛い。ニキビほど根は深くないが、カサブタのような手ごたえを感じる。なんだこれ。

ホクロじゃないのか?カサブタなのか?
とれるか?……とろうか。悩むあたし。
……いやいやいや、ここは慎重に考えろ。これがカサブタなはずはないだろう。もともと傷なんてなかったのだから。
それにイボの逆襲の時のように、ホクロにも逆襲(さらなる大量発生)に見舞われるのは嫌だ。
ということで私は、腫れ物に触るようにそっと……そぉっとして扱った。

そしてホクロ発生から一ヵ月経った。
朝、顔を洗おうと鏡を見てびっくりした。ホクロがいなかった。
とれた?寝てる間にとれたのか?
慌ててベッドの周りにホクロの断片が落ちていないか探したが、1ミリに満たない小さな黒いポッチリを見つけることはできなかった。
そしてその2週間後に左の目尻のホクロも取れる。
やっぱりこのホクロは大気中のゴミだったのだ、と私は確信した。口から入った食べ物が、便として排泄される。それと同じ摂理で、体に入った異物が外に出たのだ!

しかし三番目にできた右目の下のホクロがいまだご健在だ。発生からゆうに3カ月が経つ。
……最近、認めたくないのだが思うことがある。
もしかしてこの小さいポッチリ〝シミ〟じゃないの……?
それはそれで怖い話だ。
27歳。お肌の曲がり角、確実に曲がったようだ。

※この話はもちろんノンフィクションですが、ホクロの話は個人的な体験・見解です。悪性のホクロもあるらしいので、ホクロで不安のある方は皮膚科に行ってくださいね。

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