第20回 フードコートが洒落てる


 

 

先日、大阪から遊びに来た友人から

「表参道に有名なフードコートらしいから、行ってみたい」

と言われた。

 

はて。表参道の有名なフードコート……

「そんなとこ、知―らなーい」

返事をした直後に、ビビビッと稲妻が走るように一つのお店が頭に浮かんだ。

 

「もしかして……あそこ?」

 

たしか表参道駅直結の地下に、ヨーロピアーンでオッシャレーな巨大なカフェのようなものがある。まるでパリを歩いているような店内で、地下なのに洋風の洒落た街路灯が並んでいたりする。

ワインを注いでいるいるスタッフがいるし、THE・表参道といった感じハイソなお客さんばっかりだし、ふらっと入るには気が引けていたのだが……もしかして、あれがそうなの?そんなに有名なの?

 

 

気になったので、行ってみた。

表参道駅Echika(エチカ)の中にある「マルシェ・ドゥ・メトロ」.

名前がフランス語。

なんだか鼻につくので、「表参道・ドゥ・フードコート」と呼ぶことに決めた。

 

 

緊張しつつも、周りのお客さんに倣い店内の中の方まで入っていった。

 

確かに……ここはフードコートだった。

壁に沿ってお店がいくつか並んでいて、中央には椅子とテーブルがありフリースペースとなっている。

お客さんはお洒落な雰囲気の人が多く、ワインやシャンパンを飲んでいる人をチラホラ見かけた(平日の昼なのに!)。あたしの知っているフードコートには、世間話をするおばちゃんや、ゲームボーイをしている子供(今はゲームボーイじゃなくてPSP?)がいるのだが、そんな人はひとりもいなかった。

 

先にテーブルをとっておこうと思い、客席をうろつく。すると、なんだこれ?各テーブル上に小さな札が置いてあるのを発見。

表面には「食器を下げてください」と書いてあり、裏は「食器はそのままにしておいてください」とある。なるほど自分で片付けないでいいフードコートのようだ。

 

 

フードコートと言えば「たこ焼き」「焼きそば」「うどん」「ラーメン」「クレープ」の定番5種は外せない。しかしここにあるのは、イタリアン、ベトナム料理、フランスのパン屋、サラダ屋さん、などなど、フードコートと思えないお洒落なラインナップ!

迷ったが、小腹が空く程度だったのでパンとコーヒーを購入した。パン2つとコーヒー1杯で830円。うーん。高いのか安いのか分からない。普通のフードコートやイートインのパン屋さんに比べたら高い気がするのだが、「表参道でお茶をする」という点では安い方かもしれない。

「お召し上がりですか?」と聞かれうなずくと、一見まな板にも見えるお洒落な木のトレーに紙のシートを引き、パンを乗せてくれた。お皿というものは存在しないようだ。さすが表参道・ドゥ・フードコートである!

 

 

さてこのフードコートには、片づける専門のスタッフがいる。

黒ベストに白いサロンを巻いた彼らは、店内を徘徊し、席が空いたらサッとテーブルの上の食器を下げテーブルを拭く……という仕事だけをしている。毎日黙々とトレー下げばかりでつまらなくないのか、と変に感情移入していると……すごいことに気が付いた。

 

……なんと、まぁ、イケメンさんばっかりだ!!

 

片づけスタッフは男性が多い!しかもみんな整った顔でさわやかに働いていらっしゃる!

OH!なんて素敵なフードコート!

Kis-My-Ft2の藤ヶ谷くん似のスタッフが気に入ったので、とりあえず目で追いながらパンをかじりコーヒーを飲んで、とてもいい時間を過ごした。

 

 

パンを食べ終えると、木のトレーが邪魔になった。今からパソコンを広げて仕事をしようと思っている。

できれば、下げて欲しい。

できれば、藤ヶ谷君似のスタッフに下げて欲しい。

トレーの上から飲みかけのコーヒーを外し、テーブルの端の方(もう下げていいよーと言わんばかりの位置)にトレーを置いてみた。しかし10分放置しても、片づけ係のお兄さんたちは前を通り過ぎるだけで、使用済トレーを持って行ってくれない。

 

その時「食器を下げてください」の札が目に入った。席を立つときに使う札ではなくて、こういう時に使うのだろうか。今は裏返って置いてあり「食器はそのままにしておいてください」が表になっている。これをひっくり返して「下げてください」にしない限り、イケメンボーイたちは持って行かない、そういう仕組みなのだろうか。あたしは悩んだ。

札を立ててみるか。

違ってたら恥ずかしいな。

でも、藤ヶ谷君に持って行ってほしいし、立ててみようか。

どうしよう。。。

……ええーーいっ!

 

「かちゃり」

(札を立てる音)

 

立ててみた!

……ドキドキ。

パソコン作業をするふりをしながら、画面越しにイケメンたちの行動を目で追った。

1分経った。イケメンたち気付いてくれない。

3分経った。イケメンたち何度も通るが気付いてくれないし、持って行ってくれない。やっぱりこの札の使い方、間違っていたのか。

5分経った。藤ヶ谷君が、あたしのテーブルの前を通る。「下げてください」の札をチラリと見た。(お、見た!)と心の中で大興奮のあたし。しかし藤ヶ谷君、両手にトレーを持っているので、あたしのトレーは持てない。

いったんバックヤードに戻った藤ヶ谷君は、持っていたトレーを片づけたあと、あたしのテーブルまで来てくれた。

「お下げします」

あたしは無言でぺこりと頭を下げたが、心中は大騒ぎ。(やったー!藤ヶ谷君が来てくれたー!ばんざーい!)

しかし、その時になって気付いた。あたしの使用済みトレーは先ほど食べたクロワッサンのパンくずや、こぼれたコーヒーを拭き茶色く変色したおしぼりなんかで、ぐっちゃぐちゃである。

あたしも女の子。ちょっと恥ずかしくなって、うつむいてしまい、もう藤ヶ谷君の顔を見れなくなってしまった。

 

 

そんな表参道・ドゥ・フードコートでの思い出を忘れまいと、

パソコンを立ち上げ、その場で必死にメモするあたし。

どうか、隣の席の人が見てませんように。。。

 

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