さて今回は「第27回 いけふくろうを探せ」の続きである。
友人Sちゃんによって池袋系女子と勝手に分類されたあたしは、よく知らない街池袋にて、待ち合わせのメッカ「いけふくろう」を探していた。
すると、今から「いけふくろう」に向かうと言う男子中学生たち5人組が!こっそり彼らの後をつけながら、地下道を歩いていた。
さすが土曜の午後とあって、池袋の地下道は人でごった返している。
流れの速い雑踏の中、彼らの背中を見失わないようにして歩いていると、その中ひとりの男子が一方を指でさした。
「お、なんかさ……☆◆○※?」
なにを言ってるのかは分からなかったけど、彼の指の先に注目する。なんだか妙に人が群れて立っているぞ。……ん、よく見るとその群れの奥の方に、金属の手すりで小さく囲われた石のかたまりが……。
まさか、これが……?
いけふくろう?
……さ、冴えない。
ここ、さっきからあたし何回も通り過ぎたし。それで気付かないってどんだけの存在感?待ち合わせ場所だと聞いていたので、もっと広い広場を想像していた。そしてその中央に堂々たるふくろうがそびえたっているのかと……。
でも実際のいけふくろうは、人が行き交う狭い地下通路に置かれた「石」だった。像のフォルムはというと、ずんぐりむっくりな胴体。「たまたま削ったらふくろうっぽい形になったので、ちょちょっと目と口もつけてみましたー」という感じの、荒削り感。
あたしが予想していた、翼を広げ今にも飛び立ちそうな緊張感……はどこにもなく、岩の上にででーんと座っているふくろうが、やや左向きでドヤ顔しているようにも見える。そして左側前方に三匹の子分ふくろう(?)を従えていた。
エッセイのネタとして後で記事にするために、あたしはアイフォンを取り出しカメラを起動させる。いつもこうやって、あとあとの為に写真を撮るのだけど、実はこのカメラを構える瞬間が一番恥ずかしい。
「うわ、あの人、いけふくろうなんか撮ってんじゃん?」
「いけふくろうが珍しく感じるなんて、ウケる~」
「どっか田舎から出てきたんじゃね?」
そういう声が聞こえてくる気がするのだ(被害妄想)。
だって地元の人たちはいけふくろうの写真なんかとらないだろうから(あたしだって大阪にいたころは、難波のグリコの看板なんか撮らなかったし)写真を撮ろうとしているあたしは、周りから見ればお上りさん全開だ。
あたしはアイフォンから発せられる「カシャリ」とシャッター音が周りに聞こえないように、スピーカーの部分を指で抑えながら写真を撮った。
*
池袋と言えば「池袋ウエストゲートパーク」だ。
東京人からは笑われそうだが、東京をよく知らない大阪人は池袋に対してそんくらいの知識しか持っていない。
しかしここまで断言しておいてなんだが、あたし石田衣良さんの小説も読んだことないし、実はテレビドラマも……見てない!どっひゃーん!
いけふくろう捜索を終えたあたしは、次の目的地を「池袋ウエストゲートパーク」の舞台となった「池袋西口公園」通称「IWGP」に決めた。
池袋訪問二回目のあたし、もちろんIWGPがどんなところなのかも知らない。
うん、たぶんそれなりに大きい公園だろう。
都会のオアシス、大人たちの憩いの場ってやつだろう。
大阪でいう「靭公園」みたいな。
緑に囲われたひっそりと静かな公園。木の下のベンチで午後の穏やかな木漏れ日を浴び、綺麗なお姉さんがトイプードルを散歩させているのを見ながら、カフェラッテでも飲もうかな。IWGPへの期待が高まったあたしは都会のオアシスへ向け、足を速めた。途中自販機でカフェラッテを買う。
でも想像していたIWGPは、そこにはなかった。
だだっぴろい広場。
それが、I、W、G、P。
優雅にお茶ができるようなベンチや、生い茂る木々、そして午後の木洩れ陽なんてどこにもない。っていうか現在時刻・夕方5時。もう日が沈みそうなこの時間に、木々の木漏れ日を期待したのがバカだった。
そこにあるのは、水の出ていない噴水と、芸術的(すぎてよくわからない)オブジェ。そして円形広場にぐるりと設置されたベンチのようでベンチでない鉄の太いパイプに座り、何となく時間を潰しているおっさんたち。
あれ?
都会のオアシス、どこ?
あたしは熱々の缶コーヒーを手に握り、パイプに座るおじさんたちの視線を集めながら円形広場のそのど真ん中を突っ切り、静かに公園を立ち去った。
木の生えていない公園もあるのだな、とIWGPにて学習する。
IWGPを後にし、缶コーヒーを持ったあたしは途方に暮れた。いけふくろう捜索で疲れた足はパンパンになっている。早くどこかで足を休めたい……。
こういうときはアイフォン先生にご指示を頂くとするか。とディスプレーを優しく人差し指で撫で、地図アプリを起動。
お、なんと!IWGPから少し歩いたところにもう一つ公園「西池袋公園」があるらしい。「池袋西口」「西池袋公園」だから「WIP」?なんて考えながら、そこで缶コーヒーを飲むことにしようと、芸術劇場を抜けずいずい西に進んでいった。
日が暮れ、人通りも少なくなってきて、ちょっぴり心細さを感じていると、うっそうと木が生い茂る公園が見えてきた。
これが、もしや「西池袋公園」?敷地内へ入ってみる。
いやー。
これまた、やられた。
行った時刻がまずかったのかな……。
人気のない電燈の怪しい光に照らしだされた公園。
そろりそろりと入ると、まずあたしを迎えてくれたのは公園の隅に設置された小さなキャンプ用のテントだった。……の、野宿者?
公園野宿者にビクビクしながら足を進めると、3人の男の人たちが駅の方を見つめながら花壇の端に座っていた。なんの待ち合わせ?
そしてそんな怪しい男たちを見張るように遊具の周りを、制服を着た警察官が2人ほど、目を光らせてパトロールをしている。
なんか怖いんすけど、ここ。
座れるベンチを見つけたけど、ゆっくり落ち着けるわけもなく……。
あたしはパトロール中の警察官に怪しい人物と目を付けられぬよう細心の注意を払いながら、公園を脱出した。
都会のオアシスはここにもなかった。
すっかり冷え切った缶コーヒーを手に持ったまま、結局駅前に戻ってきてしまった。
池袋の公園……休まらねえ。
オアシスなんて、どこにもねえ。
疲れた足でふらふらと西口付近を歩いていると、なんと偶然にも緑色のふくろう三匹を発見。植物で覆われた巨大な像は「えんちゃん」という名前がついていて、いけふくろうに比べると随分キャラクター化されてて可愛い。しかも「えんちゃん」の足を触るといいことがおきると言う縁起付き!お前はビリケンさんか、っとツッコミたくなった。
結局、あたしは三匹のえんちゃん像を見ながらコーヒー・ブレイクをすることにした。
一息入れつつアイフォンで調べものをする。
なんと池袋には何匹ものふくろうのオブジェがあるらしい。
あたしが「いけふくろう」像として思い描いていた、羽ばたいてるリアルなふくろうも街のどこかにいるらしい。そういや、ふくろうの形をした派出所もあったし、どこまでも「ふくろう」推しの街なのだな。
よし、次回は「ふくろう探しオリエンテーリング」だ!