第31回 巣鴨系になるのか?あたし


 

 

 

巣鴨は、〝おばあちゃんの原宿〟と言わている。

 

行ったことがないのでどんなところか分からない。でもきっと長閑な下町なんだろうというイメージだ。古い町屋が並んでいて、どことなくお線香の香りが漂っていて、団子が売っていて。あ、そうそう、京都みたいな。

いや、京都ほど華やかじゃなさそうだ、奈良みたいな感じかな?

ほんでシカの代わりにカモがいるんだろう、巣鴨だからな。カモ煎餅とかあって、それ買ったら野生のカモの襲撃にあって「カモ、マジ、コワイ」なんて言ったりするんだろう。

 

まあ、そんな妄想はいくらでも膨らむけど、それだけじゃもったいないので、実際に行ってみることにした。

 

 

正月ボケがまだ続くある一月の日曜日の昼下がり。その日は雲一つないいい天気で、絶好のお出かけ日和だった。こんな日に巣鴨に行かずしていつ行くんだ、そう思ったあたしは早速、巣鴨に行くための準備を始めた。

 

先日、青山ファッションで散々迷ったあたし(「第29回青山に着て行く服で迷う」を参照)。今回は巣鴨系なファッションをチョイスしないといけない。街に馴染んでいない格好をして、すれ違う人たちに含み笑いをされるのは嫌だ。

クローゼットを開け、巣鴨系の服を探す。

 

5秒で気づいた。

 

……おばあちゃんっぽい服なんて持ってないしっ!!!

 

そりゃそうだ。一応あたしも20代女子。お洒落に気を使う年頃の娘なのです。おばあちゃんみたいな服は持ってません。

あ、でも、高齢者ウケの良かった服なら持っているぞ。大阪にいるとき、ご近所のオバチャンに「あら直ちゃん、その似合うわねぇ」と褒めてもらったピンクのジャンバー。うん、オバチャンに褒めてもらったから間違いないだろう。

そのジャンバーを羽織り、巣鴨に向かった。

 

 

「巣鴨」駅は山手線で池袋を行き過ぎたところにある。

奈良のシカのいるような風景を想像していたあたしは、駅前の近代さびっくりした。

改札出たところには「アトレヴィ巣鴨」という大きくて綺麗な商業施設がデーンと建っていて、お洒落なカフェや惣菜店が入っている。駅前の道路も広くて整備されている。

……なーんや、こんなもんかー。

確かに高齢者の割合は多いかもしれないけど、全然巣鴨っぽくないし他の街と変わんない。

でもまあせっかく来たから、と駅前をプラプラした。

 

今日は天気がいいとはいえ、風が強い。使い捨てカイロでも買って早めの寒さ対策を、と駅前の百均「シルク」に入った。

そこであたしはこの街の特殊さ気づき、圧倒された。

入ってすぐの棚にずらっと並んでいる商品は、

 

大人用尿取りパッド。

大人用身体拭き。

大人用おしりふき。

 

まさか、こ、こんなところに地域性がっ!?

百円均一でこんなに介護用品が並んでいるのは初めてだった。サポーターやプロティクターなんかもかなり充実している。やっぱり、高齢者の街だけあって売れ筋なんだろうか……。目から鱗だ。

 

目的のカイロを買いシルクを出たあたしは、すぐ隣のマクドナルドのお客さんの半数が、プレミアムローストコーヒーを片手にお茶を楽しむおばあちゃんたちなのにビックリしつつ、さらに巣鴨の奥地へ進んでいく。

かの有名な「巣鴨地蔵通り商店街」に入る。

この商店街は駅前に比べ、ぐっと巣鴨っぽい。おまんじゅう屋さん、お煎餅屋さん、お茶屋さん。仲良さそうな年配夫婦や買い物を楽しむおばさん軍団たちが、みんなそれぞれの歩調で楽しそうに街をお散歩している。

 

あたしは初めてモンペが売られているのを見た(1950円)。おじいちゃんおばあちゃんが使うステッキ(1050円)はよーく見てみると、男性ものは無地で渋く、女性ものは桜柄がプリントしてあったりして結構華やかである。

軒を連ねるお店を眺めながら商店街を進んで行くと、大きい山門が見えてきた。〝高岩寺〟である。

 

そうそう、巣鴨と言えば高岩寺の「とげぬき地蔵」が有名だ。ピンセットを持っているお地蔵さんなのか(たぶん、違う)とその姿を一目見て見たかったのだが、なんと、とげぬき地蔵は秘仏で公開されていないらしい……うーん、残念。

高岩寺の山門をくぐるとお線香の煙を浴びる香炉がある。身体の気になる部分に煙を浴びると健康になるという、浅草寺とかにもあるやつだ。六十代くらいのおっちゃんが、腹部に必死に煙を擦り込んでいたのがとても印象的だった。

 

 

事前情報で、巣鴨には赤色のパンツを専門的に売っているランジェリーショップがあると聞いていた。

お年頃のあたし。赤いセクシーなパンツの一枚や二枚、持っておいてもいいかもしれないし、気に入るデザインがあれば買ってみようかなー、なんて思っていた。

そして高岩寺を出て少し行ったところに、それらしきお店を発見した。

 

……まさか、ここか?

お店の前で固まるあたし。

 

ランジェリーじゃねぇ、パンツ屋だ。赤パンツ屋だ。

そこは、セクシーな要素一切なしの、伸縮性抜群、お腹まですっぽりで冷え知らず!の赤い綿パンツのお店だった。どうやら、赤いパンツをはいていると幸福が訪れるという開運下着らしい。ちなみに売れ筋ナンバーワンは、今年の干支「へび」がワンポイントで刺繍された開運パンツ!

むむう。

健康運は上がるんだろうが、男運は下がるんだろうな……。結局一枚も手が出せずに、お店を後にした。

 

 

「巣鴨地蔵通り商店街」は見所満載で思ったよりも長い。

それなりに疲れてきたので、足を休めるためにコーヒーを飲むことにした。でもこんな所にスタバなんかはなく、あたしが入ったのはいわゆる昭和喫茶店。店内の年齢層は高く、みんなオーバー60といったところか。

声をひそめ話、静かに笑い、優雅にコーヒーを飲んでいる巣鴨系(?)のおばさま達。

 

あたしはそこではたと気づいた。東京と大阪の違いを。

 

東京のお年寄りはとても上品である。

おばあちゃんと呼ばれる人もおばちゃんと呼ばれる人も、みんな品がよく、おしとやかだ。

喫茶店では静かにコーヒーを飲み、買い物中もみんな慎ましく大人しい。黙々と自分に合うものを選んでいる。

 

片や大阪のオバチャンたちの我の強さは半端ない。喫茶店に入ろうもんなら周りにも聞こえる大声でペチャクチャ話し、街では「あんた、あんたコッチよぉ!はよおいで!」と叫ぶ。割り込み、上等!値切り、常識!それが大阪のオバチャン。

 

途中から気付いてはいたのだが……今日あたしが選びに選んで着た、派手なピンクのジャンバー……巣鴨の街では浮いていた。

大阪のオバチャンにはウケる原色系のハデさは、巣鴨では異色の存在なのだ。

巣鴨で主流のカラーは、黒・茶色・ワインレッド・暗めの緑の四色。個性なんていらない。飛び抜けたものなんていらない。慎ましく上品で、そして温かければなお良い。それが巣鴨系ファッションだった。

 

 

そんな控えめなおばさま方を背にコーヒーを飲みながら、ふと真面目に将来の事なんかを考えた。

このまま東京で一生を過ごし年老いていくとなると、あたしはいったいどちらのおばちゃんになるのだろう?

派手もん好きの大阪のオバチャン?それともお上品な巣鴨系?

ううーん……。

そんなことを考えながら飲んだ巣鴨のコーヒーは……

とーても美味しかった。

 

第31回 巣鴨系になるのか?あたし” への2件のコメント

  1. なおこさん、おもろいわー!はよ出版しておくんなまし!

  2. >りょうせいくん
    いつも読んでくれてありがとう!
    今度はどこに行こうかなー。お勧めの場所があったら教えてね!