第1回 コーナンがない


東京はなんでもあるから不便はしないと思っていた。
しかし、ないものがあった。それは……
ホームセンター〝コーナン〟

……いや、あるっちゃあるみたい。あるんだけれども、遠いし少ない。え?たったの4店舗。しかもかなり郊外やん?
大阪には90店舗のコーナンが点在している。
大阪人は近所に〝コーナン〟があって当たり前。大阪人は必ず、最寄りのコーナンを把握している(……はず)
東京にも当たり前のようにあると思っていた。でもまさか、近畿中心の会社だったとは……かなりカルチャーショックだ。

知らない人のためにコーナンを説明しよう。あたしの知っている限りのコーナン情報だから偏りはあると思うが、ほとんどのコーナンはこうである。

① 店内が広い。だだっ広い。大体ワンフロア(大阪市内を除く)。
② 安い。コーナンブランドもいっぱいあって、なんかお買い得感満載。
③ 駐車場がこれまた広い。大体店舗面積と同じくらいある。そして駐車場の隅(もしくは店舗の入り口)にはとてつもなくでかい園芸コーナーがある。
④ 商品数が多い。意味の分からないものまで置いてある。

最後の④の「意味の分からないものまで置いている」という点を掘り下げてみよう。
コーナンには意味の分からないものが置いている。プラスチックだったり、金属だったり、紙だったり。
何に使うんだろコレ、というその商品は、何故か魅力的。なんか生活に役立ちそうなのだ。こんな使い道があるんじゃないか、ここにつけてみたらどうか……なんていつの間にかワクワクが広がっている。まるで夏休みの工作を楽しむ小学生の気分だ。
そんな意味の分からないもので溢れているコーナンに行くと、つい隅々まで見たくなって、かなり長い時間いる羽目になってしまう。

特に高校生の時に、よくコーナンにお世話になった。
あたしは演劇部に所属していて、部活動中によくコーナンに買出しに行った。なんと学校から徒歩3分という近さ。素晴らしい立地。
うら若き乙女たちが向かうは、工具・木材・塗装のコーナー。そう、大道具を作るための買出しだ。
「電ドリ欲しいよなー」
「このビニール安っ!防水シートに使えるかもな!」
「なんか良くわからんけど、これさ小道具に使えるんちゃう?!しかも29円って安いし!」
そうやって意味の分からない金属片に一喜一憂したものだ。
高校2年生の時に、トイレを舞台にした演劇をすることになり、便器を買いに行ったこともある。
便器は……高かった。5万~10万した。部費ではとうてい買えない。
でも、コーナンには売っている。便器の種類もかなり豊富だった。あたしたちはコーナンで、便器の〝ピン〟から〝キリ〟を勉強した。何故この便器は高額なのか。当時のあたしたちは知っていた。
部内の財布を握っている舞台監督の女子が、陳列棚に並べられた便器たちを見て言った。
「トイレが舞台の話なんて、いったい誰が書いたんや!?」
「あなたの隣にいる、あたしが書いたんですよ」とあたしが言うと、彼女は笑った。便器を前にして二人で笑った。「いい作品にしよーな」って言って笑った。
……なんだかんだいって、青春だったと思う。
結局、プラスチック製の和式便器カバーなるものを買って、その日は帰った。
コーナンにはそんなものまで売っている。

あと、コーナンには〝コーナン・プロショップ〟というのがあって、ここは、もっと意味不明なものがたくさん売っている。土木・塗装・建築資材専門店になっていて、お客さんは、だいたい作業服か地下足袋の男性だ。ハイヒールでプロショップに行ったとき、コツコツという足音が店内でかなり浮いていたのを覚えている。

さて、東京暮らしに話をもどそう。
あたしは、お皿もお鍋もカーテンもバス用品……生活に必要なものはなにも持って来なかった。
「東京のコーナンで買えばいっか」
って思ってたからだ。

……探さなくては。コーナンに代わる東京のホームセンターを探さなくては!

隣の部屋の女の子(仲良くさせてもらっている)が地元の子なので聞いてみた。
「このへんホームセンターってある?」
すると女の子は答えた。

「中野に〝しまちゅ~〟があるよ」

し、しまチュウ!?
プッ、なに?ポケモンの仲間ですか。(しまちゅ~で働いている人ごめんなさい)しかも、聞き慣れない店名だったので、部屋に帰ったとたんに忘れてしまい、ネットで『中野 ホームセンター』で調べた。すると『島忠』という漢字の店名がHITした。んー、どうやらポケモンの一種ではなさそうだ。

……まあ、せっかく教えてくれたんだし、ということで行ってみた。
島忠ホームズ中野本店へ。(あ、そういえばホームズという名前は聞いたことがある。たしか大阪にもある)
なんか背の高い建物だった。駐車場は立体になっている。
外観からして、高級感が漂っている。コーナンのような素朴感はない。
まずは上階のインテリア・家具コーナーへ。コーナンにはこういう大きな家具売場がないから、ちょっと新鮮だった。ホームセンターに家具が売ってるなんて、便利やんっと意気揚々とフロアをめぐる。
テレビ台、ソファーなんかが欲しかったから見に行ってみたが……う~ん、でかい。全体的にでかい。そして予算オーバーの品々。婚礼家具やファミリー向けのインテリア商品が並ぶ店内。見ているのはお金持ちの夫婦が多かった。ちょっと場違いな気がして、急いで下のフロアへ向かった。

下の階は生活雑貨が売っていた。あたしがいままさに欲しいと思っている、お鍋や、お皿や、洗濯バサミやらを次々とカゴに放り込んでいった。必要なものを買いまくっていると、お会計がゆうに1万円超えてしまった。……や、やるな島忠!
コーナンと比べると値段が高い!でもまあ気に入るものも見つかったので良しとしよう。

島忠に行って1週間ほどたってから、あたしはもっと近所にホームセンターがあるのを発見した。高円寺北口から歩いて徒歩2分。うちから歩いても5分かからない距離!
そのホームセンターの名前は……

〝オリンピック〟

……お、おりんぴっく!!

名前でやられた。すごいよ東京。
オリンピックの話は書くと長くなりそうなので、またいずれ。

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