もはや死語となりつつある、「カリスマ」。
あたしが中学生のころ、テレビでは東京いるという「カリスマ美容師」が引っ張りだこだった。ダサい女の子を激変させたり、主婦が若返ったり……そういう神業を見て、さすが東京はすごいんだなーと舌を巻いた経験がある。
ちなみに、勝手に妄想するカリスマ美容師のイメージはこんな感じ。
① モテ系の男性。
② 日焼けした肌。
③ 帽子を被っているか、ひげを生やしている。
さて、ほんとに上記のようなカリスマ美容師は、東京にいるのだろうか?
……ということで、表参道にある、とある高級ヘアサロンに行ってみた。
……嘘です。いくら取材といえど、そんな高級ヘアサロンに行けるほど、お財布は厚くありません。
実は先日飲み会帰りに、渋谷駅で声を掛けられた。
「カラーモデルをしていただけませんか」と。
そう声を掛けてきたのは、あたしの妄想カリスマ美容師とはかけ離れた、ものすごく可愛い女の子。身長は150センチくらい。年齢は20前後に見える。ベリーショートの髪型が似合うカジュアルキュートな女の子。
そんな可愛い美容師さんが笑顔で近づいてくる。
しかし、あたし〝警戒心〟というバリアを全面に張って、対応。
何故かというと、声を掛けられたのは深夜0時過ぎの渋谷。……カラーモデルとか言って、ほんとはキャッチセールスだったりして。どこかに拉致さたりして……。ほろ酔いということもあってか、変な妄想が広がる。
とりあえず疑いの目で接し、固い口調で対応した。
あたし「どちらの美容院ですか?」
美容師さん「表参道にある○○○○○です」
あたし「(強めの口調で)パンフレットとかショップカードはあります?」
美容師さん「……ええっと、一枚しか無いんですけど……?」
あたし「(上から目線で)それ、いただけます?」
ラスイチだというショップカードを奪い取り、店の情報を確認。とりあえず、怪しい団体ではないようだ。
美容師さんがポッケから携帯を取り出す。
「よかったら番号と名前、教えてください。詳細を連絡するんで」
……番号と名前?!
あたし、再び警戒のバリア全開で振る舞う。
「……フルネームじゃなきゃダメですか?」
「いいですよ」と苦笑いする美容師さん。偽名を名乗ろうかと思ったが、パッと思いつかなかったので「ナオコです」と本名を名乗った。その日は結局、美容師さんと携帯番号を交換しあって解散。
帰って美容室の名前をネットで調べると、なんの怪しさもない、むしろ超高級なヘアサロンがHITした。……というか、こんな美容院行ったことがないっ、という程に高級なところだった!
〝料金〟ってところをクリックして、現れた金額に、あたしは絶句!
……カットが8000円?!
……高っ!!
ちなみにあたし、大阪ではカット5000円の美容院に通っていた。2000~3000円で切ってくれるところもあるから、カット5000円ってそんなに、安くない値段だと思っていた。
……なのに、東京・表参道の美容院は8000円、ときた。軽いカルチャーショックを受けたあたし。
しかし、当日はもっと色んなことにショックを受けることになる。
指定の日時にその表参道の美容院に向かう。エレベーターを降りると、まるでホテルの受付のようなカウンターがある。必要以上に広々としたカウンターの中に、何故か受付嬢が3人いた。3人が一斉にお辞儀。
……ここはほんまに美容院ですか?
周りを見渡してみたが、間違いはなかった。
カラーモデルに来たことを伝えると、待合室のソファーに通された。床は赤い絨毯。天井にはシャンデリア。お客さんは、お金持ちそうな奥さんばっかり。
なんや、ここ……。
圧倒されるあたし。でも、ここできょどった態度を取って「田舎もんじゃん」と舐められては困る。足を揃えて斜めに流し、エレガントな風を装って、担当さんを待った。
「こんばんはー、来てくれてありがとうございます!」
渋谷で声を掛けてくれた美容師さんがやってきてくれた。キュートな笑顔に、なんとなくホッ……。
席に案内されて、少し雑談。美容師の卵である彼女は、練習台のためのカラーモデルを、いつも渋谷で探しているらしい。あの日は仕事終わりで渋谷に向かって、なかなかモデルが決まらなかったので、焦っていたらしい。
「あの時、ナオコさんメチャメチャ警戒してましたね。来てくれないかと思いました」
やはり、美容師さんも警戒対応に気付いていたようだ。(あんな態度やったら当たり前か)「どうも、すみません……」と恐縮するあたし。
先日渋谷での威圧的な態度から一変、あたしはかなりへりくだっていた。
あたしみたいな田舎もんを、表参道のようなお洒落なところに呼んでいただいて、すみません。こんな素敵なお店にご招待いただいて、しかもカラーまでしていただいて、すみません……。
そのギャップに、美容師さんもびっくりしたに違いない。
そんなとき「よろしくお願いします」と男性店員があらわれた。「でたっ!」と心の中で叫ぶあたし。現れたのは、なんとあたしのイメージする出で立ちのカリスマ美容師だった!
・モテ系の甘顔。
・日焼けした小麦色の肌。
・お洒落に生えそろった、ひげ。
・そして、お洒落帽子。
東京には、やっぱりカリスマ美容師がいた!ひそかに興奮するあたし。
どうやらカリスマの彼は、美容師の卵である彼女の教育係だそうだ。
カリスマ美容師の指導は厳しかった。
「オレが客だったら、その塗り方だとクレームだね」
「それで、できたと思ってるの?」
さすがカリスマ。教育も熱心だ。あたしはおでこの生え際の産毛が多いのだが、その産毛にまで、カラー剤を塗られた。もみあげに生えてる髪の毛、一本も見逃さないように指導していた。
特記すべきは、ドライアーの当て方だ。イロイロと流儀があるらしく、それを伝授するためにカリスマ美容師はかなり張り切っていた。
「とにかく、もっと引っ張って、こう! もっともっと、熱を当てるっ!」
髪の毛をぐいぐい引っ張られるあたし。そして髪の毛が熱で縮れるんではないか、と思うほど長い時間ドライアーを当てられた。
しかしカリスマに向かって、「痛い」とか「熱い」とか、言えない。
「乾かすためのドライアーじゃないからね。整えるためのドライアーだからね」
ほほう、なるほどね。
新人教育だけど、練習台のあたしまで勉強させていただく。
最後の仕上げは冷風!
ドライヤーの後に、しっかり冷風を当てると、ツヤ感が全然違うらしい。オイリーな肌がカラカラに乾燥するほどに、冷風を浴びせられた。
結局ドライアーを当てていた時間、トータルで30分。
こんなにドライアー当てまくりで、髪の毛が痛まないのか心配だけど、その日の仕上がりはすごかった。手で触ると全然違う。
……サラサラ~!!
シャンプーのCMに出れるんじゃないかってくらいに、サラサラ!
あたしの頭の中ではエッセンシャルのCMの曲が流れ始めた。
ちなみにトリートメントとか、ストレートパーマとかはしていない。ただドライアーの当て方を変えただけで、こんなにも違うなんて正直驚いた。
やっぱり美容院帰りはウキウキである。ちょっと寄り道して渋谷を徘徊する。またカラーモデルとかカットモデルのお誘いされないかなーなんて、よこしまな感情でうろついていると、「ねえ、お姉さん、今からどこ行くのー?」としつこいナンパにあった。ナンパに会うのも仕方がない、だってあたしの髪サラサラだもん。(なんや、それ)
やっぱり東京のカリスマは、すごいんだな~と肌で(頭で?笑)感じた日だった。