第11回 ラーメンがうまいらしい


 

まずは、今日学習した東京用語(?)をひとつ。

「白金高輪」は「シロカネ タカナワ」と読むらしい。「シロガネ コウリン」だと思っていたあたしは、電車のアナウンスを聞いて驚きを隠せなかった。

白金=ハッキンではないだろうと思っていたが、さらに上行く変化球……あなどっていた。

 

 

さて、本題。今回はラーメンの話である。

 

男の人はどうしてあんなにラーメンが好きなんだろう。

「毎日毎食ラーメンでも飽きない」

「シメはラーメン」

「ラーメンの為に電車を乗り継いで見知らぬ街へ」

……マジですか?そのうちラーメン風呂に入りたいとかいうツワモノ男子も出てくるだろう。

 

ラーメン好きの女子もいるだろうが、やはり男性に比べると人口は少ない。ラーメン屋に女ひとりで入りにくいというのが大きな原因だろう。でもほかにも要因があるとと思う。

理由その① 「あんまり濃ゆいものはちょっと……。それに太るでしょ」という感じでラーメンを敬遠。たしかに毎食ラーメンはお肌に悪そうだ。

理由その② 女の人は「一つのモノをガッツリ」より「色んなものをちょこちょこ」食べるのが好きだ。ラーメンを一杯よりも、カフェで「セット」みたいなのを食べたいのだ。

そして、そして……

理由その③「大事な人とゆっくりご飯を食べたい」……これが乙女の本音なのじゃないか。

ということで男性のみなさん、くれぐれも初めてのデートでラーメン屋に行かないように。ラーメンじゃなくてパスタに行ってください。

 

 

 

 

ところで大阪在住のころ、こんな噂を聞いた。

「うどんは関西がうまい。でもラーメンは関東がうまい」

 

……正直、そんなにラーメンを愛していないあたしは、「へぇ」の一言で済ませた。しかし、あたしの隣でワクワクと鼻を膨らませている人物がいる。このエッセイでは久しぶりの登場、あたしの彼氏である。(彼氏という言葉がこっ恥ずかしいので相方さんと呼びます)

 

大阪在住の相方さんは大のラーメン好き。二人でよくラーメンを食べに行った。(初デートでは行っていないのでご安心を)近所のラーメン屋を巡ったり、中津にある人気店「弥七」のラーメンを食べるために、寒空の下1時間半並んだこともある。

毎日ラーメンでも構わない、そんな相方さんにあたしは言った。「東京に遊びに来てね。美味しいラーメン案内するから」

 

ということで、相方さんが東京に遊びに来るたびにラーメン屋をめぐることになった。

今日はここ。明日はあそこ……。

別にラーメンが嫌いなわけじゃないし、お腹いっぱいになる割に安いし、いいんだけど……。いいんだけど……

やっぱり3日連続のラーメンは女子には厳しい。

……たしかそのとき世田谷区の経堂にいて、ネット上で見つけたラーメン屋さんに向かっていた。店の前までやってきたものの、なんとなく躊躇するあたし。やっぱり3日連続でラーメンを食べていると、気分がのらない。それよりも、その手前にあるカレー屋さんの匂いに惹かれていた。なんとか相方さんを説得しその日の昼食はカレーに。そこのカレーはなかなか美味しかったので満足だった。

 

しかし後悔したのは数日後。

あたしが店の前で引き返した経堂のラーメン屋「らーめん秀」がテレビの『人志松本のヨダレがでる話(人志松本の〇〇な話)」で紹介されていたのだ……!

タレントの勝俣さんが、ここのラーメンの良さを語る語る。豚骨スープのツヤツヤした表面が画面アップで映る。ヨダレじゅるり。

「ああ、食べときゃ良かったーー!」

大後悔したのは言うまでもない。

 

 

 

 

あたしが住んでる高円寺の町は、若い男性が多く住んでいるのかラーメン屋がめちゃめちゃ多い。駅前にはラーメン横丁というフードテーマパークまである。

相方さんが東京に来ているときに何件か行ってみた。「田ぶし」と「じゃぐら」が美味しかった。でもどんなに美味しい店があると分かっていても、ひとりでラーメンには行かない。

やっぱりラーメン屋にはひとりで入りにくい。おひとり様をするなら、カフェかファーストフードに行ってしまう。

 

 

こんなにラーメンに執着のないあたしが、東京に来て一度だけ「ああラーメンが食べたい」と心の底から思うことがあった。

その日は冬の始まりを告げるような冷たい風が吹いていて、締め切り前でヘコタレ気味だった。何か温か~いスープ的なもので身体をあっためよう……ラーメンとかどうかな。うん、ラーメンいいかも。……ラーメン、ラーメン……ラーメン!!

唱えているうちにすっかりラーメンのお腹になったあたし。

この日が記念すべき一人ラーメンデビューとなった。しかし、このあとあたしに悲劇が訪れる……

 

どこの店に行ったらいいのか分からなかったので、駅前のラーメン横丁に向かった。

どの店に入ろうか……。フードパークの狭い通路を何往復もするあたし。お客さんで溢れ返っているお店も嫌だし、ガラガラのお店も嫌。味よりもまず、店の雰囲気で選ぶあたりがラーメン初心者である。ほどほどの込み具合のラーメン屋〝N〟に飛び込んでみた。

 

ほんとに一人でラーメン屋に入ったことのないあたしは、ラーメン屋の作法というのが分からない。食券を買うのも一苦労。どこに座ったらいいのかも分からない(結局誘導されたカウンター席に座った)。ラーメンを待ってる間、何をすればいいのか分からない。

そして出てきたラーメンをひとり黙々とすするのは、なんか変な感じがした。

ラーメンを食べながら不安が頭をよぎる。

(やっぱり男のヒトばっかりやな)

(女ひとりで変に思われてへんかな?」

(食べ終わったラーメン鉢は、カウンターの一段高いところに置いた方がいいのかな?)

そんなことを考え、あんまり味わうことが出来なかった。

 

でも、身体はポカポカに温まった。外は北風が吹いて寒かったが、胃袋がカイロになったみいだ。あたしは小説を書くためにその足でカフェに向かった。

いつものサンマルクカフェでコーヒーを頼み、支払おうと財布を開けた……その瞬間。

「……あれ?」

財布の違和感に気付く。

「……あれ、一万円札が入ってたはず?」

考えるあたし。リモコンの[巻き戻し]を押したように、さっきのラーメン屋での映像が5倍のスピードで早戻しされていく。

 

……食券機だ。

 

一万円入れて、お釣りを取り損ねた。

 

ガーン。と言うベタな効果音があたしの耳元で鳴った気がした。すぐにラーメン屋に戻った。あたしが店を出てからもう10分くらい経っている。……もう、今から行っても、どうにもならないかも?でも行くしかない。

ラーメン屋に着いて、店の人に事情を説明。

 

店員「はぁ……どうしようもないですね」

 

ガーーーン。聞きたくない効果音がまた鳴った。

どうやらあたしの9千円以上のお釣りは誰かに持ち去られた様子。誰かって、それはあたしの次に食券を利用した人である。

そういえば……あたしがカウンターの席に座ってすぐに、大柄の男性が隣に座った……絶対、その人が犯人!!その人は昼間っからビールをうまそーに飲んでた。……そのビールってつまり「臨時収入に乾杯」ってやつじゃないのか?ゆ、許せんーーーっ!

 

こういう事例は警察に通報しても犯人は捕まらないことが多い、と店員さんが言う。

そもそも、あたしがどんくさいから悪いのだけど、悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

初めての〝ひとりラーメン〟だったのに……

勇気を出してみたのに……グズッ……

東京はラーメンが美味しいって……うううっ……(泣く)

 

……実際は泣いてないが、ラーメンという言葉にかなり抵抗感を持つようになったあたし。

東京のラーメンがどれほど美味しいとしても、もう一人で行くことはないだろう。

何かのはずみで、どーしてもラーメンを食べたくなったら、千円札だけ持って家を出ようと思う。

 

 

あーそれにしても高いラーメンだった……。

ひとりラーメン、デビューまだのみなさんは……どうぞお気を付けください。